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共感を分かちあうには?

Focus

『Nonviolent Communication』を考える

職場,あるいは学校で、自分の思いを相手にうまく伝えられない、あるいは分かり合うことができない状況からモヤモヤとした経験は誰しもあるもの。家族や友達といった近しい間柄ではなおのこと、時には衝突を招いてしまうことも。今回の記事で考察するのは、そんなミスコミュニケーションを解決する可能性をひめた『NVC (Nonviolent Communication)』(非暴力コミュニケーション)。

NVCとは対話やコミュニケーションにおいて相手との深い共感と理解を促進し、対立や衝突を減少させるためのアプローチで、主に次の4つのステップから構成される。

  1. 状況の観察:相手の言動が自分にどう影響しているか評価を交えず客観視する
  2. 感情と向き合う:相手の言動からどのように自分の感情が引き起こされたかの顧みる
  3. 自分の願望:どんな願望からその感情が引き起こされているのか内省する
  4. 相手への要求:両者の人生を豊かにできる選択肢を検討する

中でも軸となる大切な考え方は「相手や自分自身、取り巻く環境にいかなる評価を加えない」ということ。ときに評価は価値観の押し付けであり、分かり合えないことの障害となる。加えて、双方のニーズを発見するため、自分や相手の感情と明確・率直に向き合うことを重要だ。これらのステップが最終的に目指してゆくものは共感を伴った相互理解なのではないか?では、実際に私たちの生活にどのように活用できるのか?以下のOpinionにて考察していく。

NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法 (日本経済新聞出版社)

Opinion

「過去は変えられる」のか

『フリーダムプロジェクト』は、受刑者達と共にNVCを用いたコミュニケーションを実践している。彼らは、罪を犯して生まれた恐怖、罪悪感、恥、非難、強制、脅迫、罰といった過去の傷を抱えているが、行動の動機を客観視する事で、彼らの心の傷を和らげるというアプローチをとっている。その結果、彼らは抑圧的な感情から解放され、より深い心のつながりを持って社会に復帰し、再犯率を大幅に減らすことに成功している。

例えば、ある元受刑者はパートナーとの関係が始まった当初、自分の過去のせいで自分の言動が理解されず誤解されていると感じていた。しかし、NVCの手法の一つである、「あなたが ‘X’ をしたとき、私は ‘Y’ な気分になった」と、お互いの感情への理解を促すことにより、より正直で豊かな関係を築くことができた。

「過去は変えられる」と私自身耳にした事がある。これは、事実としての過去は変えられないが、過去への解釈を変える事で自分にとってそれが意味するものが変わるというメッセージだ。例えば、志望した大学に進学できなくても、結果的に入学した大学で運命的な出会いがあれば、「あの時この大学を選んで良かった」と思う日が来ることもあるだろう。今回の事例のように、NVCは過去の解釈を変える事でその苦しみから人々を救う手段になり得るかもしれない。

How nonviolent communication liberated one former inmate (The Seattle Globalist)

ことばの背景を想像することから

コミュニケーションは「共感」に支えられている。SNSで「いいね」されると嬉しいし、会話の中で「うんうん、わかる」と相槌を打ってくれる相手にはついつい饒舌になってしまう。

一方で共感のないコミュニケーションは、ときに暴力的なものにもなりうる。SNSでのアンチコメントや誹謗中傷、またネット上だけでなく、職場やパートナー、友人との会話で、意図せず相手を傷つけてしまった(傷つけられた)経験は誰にでもあるのではないだろうか。

NVCの考えの中では、そんな暴力的なコミュニケーションの根源には、ものごとを「正しい/間違っている」と主観的に評価してしまい、共感を妨げてしまうことにあるという。

客観的な視点をすぐに持つことは難しいかもしれないが、「人の言動には何かしら大事な思いがある」と背景を想像することが大切だ。

ちょうど最近読んだ『何もかも憂鬱な夜に』という本の中で、主人公の少年に音楽やアートを教える施設長がこんな言葉を投げかけていた。オピニオンの最後に、この言葉を読者のみなさんに届けたい。

自分の好みや狭い了見で、作品を簡単に判断するな。(中略)自分の判断で物語をくくるのではなく、自分の了見を、物語を使って広げる努力をした方がいい。そうでないと、お前の枠が広がらない。

The Power of Nonviolent Communication (Phycology Today)

職場での『NVC』

職場のスムーズな業務進行において、円滑なコミュニケーションは必要不可欠。そんな背景から、NVCの職場での応用に関心を示し職場環境に取り入れる企業が国内外で増えてきているそう。果たして、どのようにNVCを職場で取り入れることができるのか?次の2つの例のうち、後者はNVC視点からのコミュニケーション改善。果たしてどんな印象の違いかあるでしょう。

EX.1

上司 「Aさん、この資料を今日中に仕上げてくれないか」
Aさん 「ちょっと、今日は忙しくて...」
上司 「みんな、忙しいんだ。いいから今日中に仕上げてくれ。わかったな」
Aさん 「はい...」

EX.2

上司 「この資料は、〇〇が得意な君に引き受けてもらえると安心なんだ。忙しければ他の仕事は調整するからお願いできるかな」

ここでは特に「自分のニーズに意識を向けて、相手にリクエストする」というNVCのステップに着目したい。前者の例において上司は感情の先にあるニーズ(ここではニーズとしての「協力」)を意識して表現することができず、結果としてAさんに有無を言わせない要求になっている。しかし後者の例のように「協力して欲しい」というニーズから相手の状況も考慮したリクエストをすることで、スタッフも快く仕事を引き受けることができそうだ。

得てしてパワーバランスが働きやすい「職場」という環境。自分・相手のニーズに意識を向けて、どのように相手に寄り添ったコミュニケーションを図れるか改めて考えてみたい。

「わかりあえない」を越える~新しいアプローチ「NVC」をご存知ですか?(SBアットワーク)