社会の再接続と、孤独との向き合い
Focus
繋がりはじめる社会と孤独な私たち
人との開かれた交流が閉ざされて約2年。私たちは以前にも増して孤独だ。
パンデミックの最中に実施されたハーバード大学の調査では、アメリカ人の 36% (18 ~ 25 歳の若者の 61% を含む) が、頻繁に、またはほぼ常に孤独を感じているという結果に。
孤独感は私たちの身体やメンタルに悪影響を及ぼす。調査では、うつ病や統合失調症から脳卒中や糖尿病まで、非常に多くの疾患との関連が明らかになった。
他の調査によると、低所得者や精神疾患を持つ人など、すでに孤独のリスクが高いグループに属する人や、中高年よりも若年層の孤独感が顕著に表れている。
パンデミックが開け始めたころ、次はどう社会との繋がりを取り戻していけるのだろうという不安がつきまとう。「若者は社会的な輪を広げなければいけないというプレッシャーを感じているかもしれない」と米ブリガム・ヤング大学で孤独の研究をするジュリアン・ホルト=ランスタッド氏は述べる。
しかしながら、孤独は必ずしもネガティブなことなのだろうか。私たちは今ある社会との距離感をどう捉え、孤独感を解釈し、心地よいソーシャルライフを送ることができるのか。大学時代にパンデミックに直撃したZ世代の私たちが考察する。
Opinion
共有できない孤独を越えるために
「孤立」と「孤独」はどう違うのだろう?
社会学者のピーター・タウゼントは、孤立を「家族やコミュニティとほとんど接触がない」状態と定義している。一方、孤独の定義には「個人が求める社会的関係と現状のギャップから生じる」感情といったものがある。つまり、多くの人に囲まれていても「孤独」を感じることはあるが、その状態を「孤立」とはいわない。
コミュニティへのアクセスをいかに提供するか、という論点が明確な孤立に対し、人それぞれ感じ方次第、という側面も否めない孤独は、一律の対応が難しい。
そんな中、孤独に対処するための様々なリソースを提供しているのが、NHS(イギリス国民保健サービス)のEvery Mind Matters だ。5つの質問に答えるだけで、簡易なマインドフルネスプログラムを提案してくれる。(私は寝る前の瞑想などを勧められた)ほかにも認知行動療法のガイドなど、さまざまなコンテンツが揃う。日本の孤独・孤立対策担当室と違うのは、相談窓口だけでなく、セルフケアのTipsにもアクセスできる点だ。
個人的に、孤独という感情はパーソナルすぎて、他者と共有するのが難しい部分も大いにあるよう感じる。だからこそ、孤独と向き合う方法を、自分なりに模索するセルフケアのサポートが重要になるのではないだろうか?
孤独を考える
一般的に孤独は、心身の健康や周りのコミュニティに悪影響を与えるとして国際的に関心が高まっている。このような孤独には、人間関係の質や量による社会的孤独、人間の承認、所属欲求からくる感情的孤独、そしてトラウマ体験などから社会から切り離されたと感じる実存的孤独の三つのタイプがあるという。
コロナ禍の自粛生活では、人に会うことはおろか滅多に外出することもなかったため、私たちが社会的孤独を感じる環境としては十分だった。加えて、ソーシャルメディアによる常時接続状態は常に誰が誰と何をしているかが分かるため、自身が感じる感情的孤独に巧妙に作用しているのも頷ける。
しかし、孤独が必ずしも悪という訳でもない。実際に、一人の時間を過ごすことによって共感力や生産性を高めたり、創造性を刺激したりすることが研究で証明されているようだ。確かに一人でいることで自分自身とひたすらに向き合う時間を作ることができる。 結局のところ孤独は良い悪いの話ではなく、どう捉え向き合うことで上手く付き合っていくかということなのだろう。
私は専ら出不精で家で過ごす時間が案外好きなのだが、一人でいる時間が長すぎるとそれはそれで友人と出かけたりしたくなる。なんとも面倒臭い人間なのだが、私が孤独を感じるタイミングはそこだ。そして私はそこで携帯を手に取って友人に今夜の予定でも聞き出して食事やら散歩に付き合わせるのだろう。例えば、そんな時に携帯に伸びる手を制して、この時間を一人でどう過ごそうか考える5分を設けてみる。それだけで、孤独の時間が一人の有意義な時間に変化するのではないか。自分が孤独を感じるタイミング、その際に自分が取る行動や気持ちと向き合うことで意外と孤独の時間が変わって見えるかもしれない。
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