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アフターコロナと観光の姿

Focus

観光業界の今とこの先

「海外旅行のいま」はどうなっているのか。多くの国で規制緩和が進み、すでに92カ国では一切の制限なしに出入国できるようになっている。そのうち44カ国はヨーロッパ、ついで23カ国は南北アメリカだ。 (9/30時点) 。

業界に明るい兆しが見えはじめるなか、9/27に第42回となる「世界観光の日」を迎えた。今年のテーマは“Rethinking Tourism” =「観光の再考」。パンデミックにより浮き彫りとなった課題から、地球と人を第1に考える観光のあり方が注目されている。

国連世界観光機構 (UNWTO) のサンドラ・カルバン氏は、「若い世代の旅行者を中心に、人々は環境への影響をより強く意識するようになっている。旅行1回あたりでの支出額も増加し、滞在時間も長くなっている」と語る。地域コミュニティの活動や文化を体験できる「コミュニティベースドツーリズム」がトレンドになっているのも、この変化と関係しているようだ。また、安全性への注目は引き続き高く、国内旅行の市場はより高い回復傾向にあるという。

パンデミックの影響を大きく受けた観光業界。この数年でどのような変化し、いかに苦境と向き合ってきたのか。続くオピニオンでは、国内・海外事例をもとに考察していく。

What next for travel and tourism? Here's what the experts say (WORLD ECONOMIC FORUM)

Opinion

解放感を求める旅の行方

外出の機運が高まりつつある今日この頃。コロナ前後で私たちが旅先に求めるものはどう変わったのか?国内旅行に焦点を当てて、ニーズの変化を紐解きたい。

日本交通公社の調査(2020.01-2022.05)によると、行きたい地域として、最も人気なのは「これまでに旅行したことのない地域」。次いで「もともと予定していた地域」「あまり人が密集しない地域」などが続く。

対照に、あまり行きたくない地域として上位にあがったのは、「感染症対策が徹底されていない地域」「人が密集しやすい地域」などだ。

旅先に「目新しさ」や「解放感」を求める傾向は、個人的にも馴染み深いものだ。家にいる時間が増えた反動か、人の多い都市部より自然に囲まれた場所でリフレッシュしたい、といったことを考えている。

23年には市場規模が1000億円まで拡大すると予想されているグランピングも、密集は避けつつ非日常を味わえる点が人気だ。

こうしたブームの先にあるかもしれない未来として興味深いのが、先日まで留学していた北欧のサマーハウス文化だ。

現地では、夏の休暇を自然の中にあるサマーハウス(≒別荘)で過ごすのが定番らしく、私自身、友人から招待されたコテージで夏を過ごした。

別荘保有率を見るとスウェーデンの14%に対し、日本では0.7%、まだまだ富裕層のものという印象が強い。しかし、サブスクモデルで別荘を利用できるサービスSANUなども登場しており、今後はサマーハウスの民主化も進むかもしれない。

新型コロナウイルス感染症流行下の日本人旅行者の動向(その22) (日本交通公社)

旅行体験の変化

ついに9月上旬から日本も入国に対する規制を緩和し、インバウンド向けの観光業も回復の兆しが見えてきそうだ。パンデミックが始まって2年半以上の月日が経過してやっと、私たちの海外旅行のハードルも下がりつつある。

パンデミックによって大きすぎる打撃を受けた観光業にとって、この2年半は観光が本来どのようなものであるべきかを考える時間となった。そして、今国境が再び開かれる中で、観光業は新たなトレンドを生み出している。

イギリスのツアー オペレーターである Saddle Skedaddle は、25 年以上にわたってヨーロッパ中のサイクリングツアーを展開してきた。

パンデミックにより、ステイケーションの需要が大幅に増加したことをきっかけに、「趣味や余暇の追求、再発見」を切り口としたサイクリングツアーで人気を博した。このツアーでは移動が自転車であることで、地域活性化を促したり、移動の際のカーボンフットプリントを削減できるなどの効果も期待できるという。

また、スリープツーリズムの人気も高まっている。パンデミックによって家で過ごす時間が長くなり、生活リズムが崩れがちになってしまった人は多いはずだ。その中で睡眠を重視した滞在が世界中のホテルやリゾートで注目が高まっている。

パーク ハイアット ニューヨークでは90㎡もの広さの急速を促進することを目的としたスイートルーが導入された。他にも、ロンドンでは、Hästens Sleep Spa Hotelが最先端の防音設備を備えた客室を提供する睡眠のためのホテルZedwellをオープンした。

パンデミックによって移動に対する制限がかかる中、観光業のトレンドは、滞在自体を旅行体験とし、スローに楽しむことが注目されているように感じる。旅行に行く際は、ランドマークや美術館を巡ることについつい気を取られてしまいがちだが、全体の体験としていかに良い時間を過ごすかについても考えていきたい。

The rise of Sleep Tourism (CNN)

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