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教育格差を解消するために

Focus

学歴の壁を越えるリスキリング

人種や性別と並び、社会を分断する大きな壁、それが「学歴」だ。

OECDの調査によると、高等教育を修了した若者は、他の同世代より就業率が8〜26%pt高く、失業率は2〜9%pt低い。加えて大卒者は、高卒以下の人々と比べ、2倍以上の収入を得ているという。

また、欧州経済研究センターのアーンツ氏らは、低学歴層の40%が、自動化により仕事を失うと予測する。高度な専門性やスキルに対する需要が増え続ける一方、教育水準の低い人々は高い失業リスクに晒されてしまうという訳だ。

このような二極化が進めば、雇用機会や賃金の格差はますます広がるだろう。そんな未来を回避するには、何が必要なのだろう?

注目を集めているのが、リスキリング、新たなスキルの獲得支援だ。日本政府も5年で1兆円を投資し、成長産業への労働移動を目指すという。労働市場で求められるスキルは、今後数十年にわたって変化しつづけるという分析もあり、リスキリングの重要性はますます増していくだろう。

続くオピニオンでは、新しいスキルを身につけるためのモチベーション維持などについて考察する。

Education at a Glance 2022 (OECD)

Opinion

ギャップを埋めるために

時代と共に教育水準は向上している。

イギリスでは、義務教育のラストイヤーに全国統一テスト「GCSE」が実施されており、成績優秀者の割合は1990年代の約40%から2012年には82%まで上昇している。

このように、全体としての教育レベルは底上げされる一方、家庭の経済力から生まれる教育格差は過去20年間埋まっていないという。

イギリスの公立校には「フリーミール」という制度があり、貧しい家庭の子どもたちは学食で好きなものを無料で受け取ることができる。この制度を受けてない、いわゆる生活に困らない家庭の生徒たちは、GCSEでより良い成績を取る可能性が約3倍高いという。

生まれ育つ環境によって生まれる教育格差、何か解決策はあるのだろうか。

調べてみると、夢や願望をもつことが進学や就職、仕事での成果などに影響を与える可能性がある、という研究を見つけた。夢をもつための要因として、家庭の裕福さや自分の能力よりも、両親や教師が大きな影響を与えるという。つまり、コミュニティとのつながりや周りからの期待が鍵となっているのだ。子どもも大人も、バックグラウンドに関係なく夢を持つことの大切さを改めて感じた。

Education inequalities (IFS)

真っ白なキャンバスに「好き」を描く

デンマーク留学中、近所にあったフォルケホイスコーレ(北欧独自の教育機関)のイベントには老若男女様々な人が集ってコーヒーを飲んでいた。話を聞くと、70歳になるという紳士は、何歳になっても興味の湧くことを学び続けることで活気のある生活を送っているという。

自己実現を達成したり、世界を解像度高く捉えていくために、どのように学びへのモチベーションを発見・認識することができるのだろうか。

178年の歴史を持つデンマークのフォルケホイスコーレは、スポーツ、自然科学、政治、食、音楽、歴史などの専門知識を、形式張らないで学べる学校だ。高齢者や家族を持つ人を対象とした約25の短期コースも提供している。

ここではカリキュラムや試験などの評価を全く必要としないことが特徴だ。生徒たちは高い評価を得るための戦術的なアプローチを必要とせず、評価されることなく、本当に情熱を傾けられることを追求することができるのだという。また、異なる政治的見解や性別、背景を持つ人と学ぶことで、自分自身のエコーチェンバーがすべてではないことを身をもって体験することができる。

このように、フォルケホイスコーレの学びは義務ではなく、自発的なものであり、生徒の好奇心を刺激し、人生の新たな側面に目を向けさせることを使命としている。そもそも、「学び」を生計を立てるために必要な、費用対効果の高いスキルに閉じる必要はないのだろう。「探索的に没頭し、自分の感情や情熱、自分の考えを表現する空間を体験できる場所」があったとしたら、何を知りたい、学びたいと考えるだろうか。

フォルケホイスコーレそのものへ通うことは難しくとも、心に真っ白なキャンバスを持って「好き」を追求し、一見自分とは異色と思われる人との交流の場所に足を運ぶことで、よりフラットに「学び」へのモチベーションを発掘することができるだろう。

Folk high schools play a central role in the formation of young adults (European Comission)