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世界のエネルギー戦略

Focus

今年の冬は寒くなりそうだ。

原油や石炭、ガスなどエネルギー資源の高騰が著しく、今年の冬は寒くなりそうだ。ニューヨークでは、原油が7年ぶりの高値で取引され、ヨーロッパやアジア各地では原油の値段が4倍ほどに跳ね上がっている。今年のエネルギー危機は世界各地で起こっており、決して他人事ではないのである。

私たちは2年以上の歳月をかけてやっとのことでコロナからの経済回復しつつあるが、これに伴い資源の需要が急増した。さらに近年は、各国が環境政策として脱炭素化を掲げていることにより、再生エネルギーに対するエネルギーシフトが進められている。そのため、コロナ後の急激な需要変化に従来のエネルギー資源の供給が間に合わないのだ。

それと同時に、ウクライナ戦争の影響で豊富な資源を持つロシアとのパイプが絶たれてしまった。これにより、ヨーロッパ諸国を中心に世界は大きな打撃を受けることになった。

このエネルギー危機を受けて、計画停電を局所的に行う見通しを発表している国もある。

一方で、グリーンエネルギーへのシフトが加速されるなどとの明るい展望もある。

今回のニュースレターでは、エネルギー危機によって世界各国がどのような影響を受けるのか、これからの動きに注目しながら掘り下げていく。

Energy crisis: What’s the worst that could happen this winter? (My.Europe)

Opinion

世界のエネルギー節約戦略

ウクライナ戦争の影響で、ロシアにエネルギー依存するヨーロッパ諸国はこの冬をどう乗り切ろうか躍起になっている。

政策として電力会社による調節が行われれば、計画停電によって産業や人々の生活にあらゆる不便が生じてしまう。そのような事態を避けるため、ヨーロッパは人々の自発的な節電を期待しているようだ。

ヨーロッパの省エネ方法は各国の文化に根ざしている。自身の記憶にも新しいデンマークの町中に輝くクリスマスライト。今年コペンハーゲンの自治体は、そんなイルミネーションの期間と時間を短縮する計画を立てているそうだ。イタリアではタリアのノーベル賞受賞者ジョルジョ・パリシが、パスタを茹でる際、お湯が沸騰したら火を止めて、電気代を抑えるよう提案したり。すでに5月にパスタ生産者団体Unione Pastaiがいわゆる「パリシ方式」を推奨しているそうだ。

この冬のエネルギー危機を乗り越えるという近視眼的な目標になりがちだが、フランスではインフラを守るための省エネから、気候変動への意識の関連づけに焦点を当てている。エネルギー移行相であるAgnès Pannier-Runacher氏は、節電計画を発表し、2年後に「エネルギー消費量の10%削減」を達成するために、国全体に呼びかけた。彼女はこれを、気候専門家が推奨するカーボンニュートラルを目指す、2050年までの40%削減に向けた「第一歩」だと表現した。

このエネルギー危機を長期的な視野に立って捉えることで、化石燃料への依存を根本的に減らす取り組みが求められていくだろう。

What measures are European countries taking to conserve energy? (euronews.)

選択の自由化と社会への1票

国民生活に欠かせないエネルギー価格の歴史的高騰。冬を前に、不安を感じている人も少なくないのではないか。

わたし自身、ニュースを調べていくなかで不安の高まりを覚えた。そんな一方、日々の生活をひっ迫するほどの危機感、とまではピンときていないのが率直な感想だ。車を運転しないため、ガソリン価格の高騰を直接的に感じる機会は少ない。日用品の買い物や、電気・ガスの支払いはあるものの、毎月の使用量をきちんと把握できていないため、単純に価格だけでの比較が難しい。

では実際、電気・ガス・ガソリンの価格はどのように推移しているのか。日本では、2019年1月時点と比較し、電気料金で1.10倍、ガス料金は1.11倍、ガソリン価格は1.29倍となっている (2022年3月時点) 。イタリアの電気料金は1.77倍、イギリスのガソリン価格は1.88倍まで上昇しているのを見ると、相対的に抑えられていることがわかる。

とはいえ、価格上昇は否定できない。日本の家庭向け電気料金はここ10年で約22%上昇している。止まらぬ右肩上がりに何か新しい選択肢はないのか。2016年から電力自由化が始まったこともあり、まずはライフスタイルにあった電気・ガスの見直しを検討してみるのが良いだろう。もしくは視点を変えて、どうせお金を払うのであれば自分の価値観に合った会社を選択してみるという手もある。パーパスへの共感、再生エネルギーへの投資、支援団体への寄付など、わたしたちの消費が社会への1票となるときだ。

エネルギー白書2022 (経済産業省)

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