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「ドレスコード」が共有するもの

Focus

服装から読み解く文化の歴史

冠婚葬祭におけるスーツやドレス、職場のユニフォーム、学校の制服など、「ドレスコード」は至るところに存在する。日本フォーマル協会によると、「フォーマルの場において、相手を敬い、思いやる心の表現として着分ける衣装のこと」と定義されている。

さかのぼること7〜9世紀、ヨーロッパの王族や貴族は「階級を差別化」するためにドレスコードを設けたと言われている。たとえば、17世紀にルイ14世が定めた、自分と廷臣以外の「赤いソールの靴着用を禁止する」というものもこのひとつだ。

また、かつては女性のパンツスタイルも場違いな服装とみなされたり、人種によって付けることのできるアクセサリーが規定されるなど、ドレスコードは「性差や貧富」を表すものとしても機能していた。スタンフォード大学の教授であり文化評論家のリチャード・トンプソン・フォード氏は、「ファッションというトピックは、文化的な理解への最短ルートになり得る」と語る。

これまでのscanningでも、ジェンダーや格差問題について複数回にわたり考察してきた。人々の価値観や社会の潮流が変化する中、続くオピニオンではドレスコードのいまを考察していく。

Why the tailored suit — not ruffles and lace — became synonymous with power(The Washington Post)

Opinion

ドレスが語るもの

先日、招待していただいたパーティに出席した際のことだ。ドレスコードに関する指定が全くなかったため平装で出向いたのだが、ドレスアップして出席している人が多く、場違い感がどうにも否めなかった。TPOに合った服装とは一見はっきりしているように見えてその境界線は曖昧だ。暗黙の了解を常に勘ぐりながら自分のクローゼットと睨めっこするのはどうにも気疲れしてしまう。

現代の個性を重んじる風潮やコロナ禍で、ドレスコードの規定は昔ほど厳しくなくなったが、今もなお存在するのは確かだ。

記憶に新しいエリザベス女王の訃報。彼女の葬儀には厳しいドレスコードが設定されていた。軍の称号を持つロイヤルメンバーは儀式用の軍服を着用し、王室の女性は黒い喪服と黒いハット、またはヴェール、パールを身につけるなど、独自のドレスコードが存在する。これらのどのドレスコードも長い歴史の中で受け継がれてきた物であり、深い意味があるのだ。ヴェールは、英国王室に100年近く伝わる習わしであり、時代を超えてイギリス王室の葬儀を象徴するものとなっている。

また、パールは悲しみと涙を象徴し、その控えめな輝きが色を抑え敬意を示すという。これらの規定はエリザベス女王の葬儀でも広く適用されていた一方で、ドレスコードの変化も垣間見ることができた。昔のヴェールは長くあまり透けないデザインだったが、現代では短く、網目の大きいヴェールが主流となった。また、女性がパンツスーツを履くことは長く禁じられていたが、それも撤廃されたのだ。

流行や時代と共に生まれる新しい考え方によって、長く受け継がれる伝統も時代と共に少しずつ変化するのだ。個性が生きる現代でドレスコードを堅苦しく感じることもあるだろうが、ドレスコードが晴れの舞台に祝福や敬意を示すもの、また伝統を重んじるといった点で一役買ってきたのは事実なのだ。ドレスコードは、今まで受け継いできた表現の一種であり、私たちを縛り付けるものとは限らない。かく言う私も、窮屈さに囚われて根本を忘れていたかもしれない。

The Queen’s Funeral: Demystifying the Dress Code (BOF)

制服は「平等」を実現するか?

就活をしていた頃、「服装自由」のイベントにいつも悩まされていた。やっぱりスーツを着ていくべきか、それとも本当にラフな格好でいいのか… 明確なドレスコードがあれば、服装選びで困ることもないのに。

ドレスコードには、人々のファッションを特定のTPOや目的に従わせる力がある。たとえば、学校制服。19世紀に義務教育とともに普及した制服は、各人の服装に表れる階級格差を排し、少なくとも外見上の「平等」を達成するためのドレスコードだった。

しかし、近年ではそのドレスコードが「不平等」を生み出しているという指摘もある。たとえば、制服は女子学生の活動を制限している可能性が高い。最近の研究によれば、スポーツユニフォームを着用しているとき女子学生がより活動的で、自転車などアクティブな交通手段を選択しやすいという。しかし、スカートに代わる、快適かつ露出の少ない選択肢が提示されているケースは多くない。

また、均一な制服はジェンダーマイノリティや、宗教的少数派、制服への初期投資が負担になる低所得家庭のニーズを掬い上げることができない。多様性をいかに包括するかという観点が平等にもたらされた現代において、全員に同じ制服の着用を求めるドレスコードは「平等」というゴールを達成しえないだろう。

たとえ「平等」という目的自体が変わらずとも、時代が変われば求められるアプローチも変わる。ドレスコードも時代に合わせたアップデートすることが求められていくだろう。

Once a form of ‘social camouflage’, school uniforms have become impractical and unfair. Why it’s time for a makeover (The Conversation)

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