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ミクロ視点から見るプラスチック問題

Focus

マイクロプラスチックという新しい脅威

「マイクロプラスチック」をご存じだろうか?

その名の通り、直径5mm以下の小さなプラスチックのことで、2004年サイエンス誌にて発表された論文をきっかけに周知された。製品の開発や、より大きなプラスチックの分解によって生じてしまう。ポイ捨てされたペットボトルが風によって海に流れ込み、紫外線や波の影響を受けて、小さい粒子になるといった風に。マイクロプラスチックを取り込んだ海洋生物から食物連鎖に影響を及ぼすなど、地球環境や私たちの健康を脅かしている。

重要な問題は、無害な分子に分解されにくいこと。分解されるまでに何百年、何千年という年月を要し、その間に生態系を破壊してしまう可能性がある。どこか想像しにくいが、マイクロプラスチックは食材やコスメ、シャンプーといった消費財など私たちの周りの至る所潜んでいる。WWFの研究では、人は1週間にクレジットカード1枚分に相当する量のプラスチックを食べているともいうから驚きだ。

オランダでは、2015年にプラスチック粒子の製品への添加禁止令が設けられるなど、ヨーロッパを中心に規制強化が進む。しかし、世界の足並みはまだまだ揃っていないようだ。私たちはこの問題に、どう危機感を持って立ち向かって行けるのだろうか。続くオピニオンでは、消費者として身近にどんなアクションをとれるのか考察していく。

Microplastics (National Geographic)

Opinion

私たちの取りうる選択

マイクロプラスチックと聞くと海の問題に結びつきがちだが、マイクロプラスチックは私たちの吸う空気や、飲み水、食品や化粧品など私たちの生活のあらゆる場面に潜んでいる。ハイライトにもあるように私たちは知らないうちにプラスチックを体に取り込んでいるのだ。

とりわけ、日本は一人当たりのシングルユースプラスチック使用量が世界第2位である事実を考慮すると、私たちにとってマイクロプラスチックは知らずのうちに脅威となっているのかもしれない。

確かに、日本は衛生面において非常にセンシティブな性格を持つ国であるが故に、お菓子や調味料、生鮮食材などの過剰包装や、レジ袋や小分け袋、ドリンクカップやストローなど何かとプラスチックとの接点は多い。

これほど多くのプラスチックに囲まれて暮らしているのであれば、海の環境や生態系のみならず、私たちの健康への影響も懸念すべきだろう。私たちは、この問題にどのように向き合うべきなのだろうか。

考えうる手段としてまず考えられるのは、まず「出さない」ことだ。ドイツ発のブランド、LANGBRETTは洗濯の際にマイクロプラスチックが流れ出ることを防ぐためのネットをパタゴニアの出資を受けて開発した。これを使用することによって、洗濯で剥がれる合成繊維が平均79~86%削減され、衣服自体の劣化も防ぐことができるそう。

また、代替品を利用することも有効である。現在使っているプラスチック製品は必ずしもプラスチックである必要があるだろうか?紙でできたものや何度も使えるエコバッグやマイボトルなどを使ってみてもいいかもしれない。さらに、再生可能な生物資源から作られたプラスチック、バイオベースプラスチックを使用した製品なども最近は注目を集めている。ただ、生産コストや耐久性など、他の視点から本当に環境に負荷がかからないものかどうかを見極める必要はありそうだ。

そして第3の選択肢として私たちができることは、すでに出てしまったプラスチックをできるだけ「循環」させることだ。ペットボトルや発泡スチロールなど捨てる際にしっかり洗浄し、分別することから始めよう。驚くことに韓国の仁荷大学の研究では、リサイクルが難しいとされていたマイクロプラスチックをリチウムバッテリーとしてリサイクルすることに成功した。

私たちの世界が日々少しずつ前進しているように、明日から私も未来に向けて何か小さなことを気をつけてみよう。

パタゴニアが出資 マイクロプラ流出を防ぐ洗濯バッグ開発の背景 (WWD)

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