「静かな贅沢」とファッション消費
Focus
「 静かな贅沢」の時代
「贅沢」とはとは一体何を指すのだろうか。
汎用されすぎて本質的な「贅沢」の意味を忘れてしまっているように感じる。やはり、ラグジュアリーブランドを身につけることは一種の贅沢になるのだろうか。そうだとするならば、今、ラグジュアリーブランドは大きな転換期を迎えている。
2008年に流行したトレンドが、今年復活を遂げようとしている。その名も「Quiet Luxury」(静かな贅沢)だ。
The row, Bottega Veneta, Khaiteなどを筆頭に、ロゴやブランドのアイデンティティを主張しすぎない簡素なスタイリングが流行しているのだ。ミニマリズムほど厳格ではないものの、ラグジュアリーブランドとしてのある程度の厳格さが保たれた控えめなアプローチはまさに「静かな贅沢」と言えるだろう。
一昔前まではブランドロゴが目立ついわゆる「ロゴドン」商品が流行っていたが、いったいどんな背景でこの「静かな贅沢」が注目されるようになったのだろう。今回のニュースレターでは、「静かな贅沢」とその背景にあるマスの変化について考察していく。
Opinion
ラグジュアリーを忍ばせる意味
静かな贅沢(Quiet luxury)への注目は何を意味しているのだろう?誰もが知るロゴやモノグラムを纏うことで、そしてその姿を発信することで、権威を示す時代は終わるのか?
この問いを考えるうえで大きなヒントになるのが、昨今の景気後退だろう。不況の最中、自らの富をひけらかすような装いは、羨望よりも反感のまなざしを集めるリスクがある。リーマンショック後に台頭したミニマリズムしかり、時代のトーンに人々やブランドが寄り添う流れは珍しくない。
しかし、静かな贅沢に見られる、素材の質や職人技へのこだわりは、このトレンドが単なる経済状況のカモフラージュではないことを示しているように思う。大衆の目を惹かずとも「見る人が見れば分かる」上質なスタイルを好む姿勢は、過度に演出された”映え”よりも、”Be Real”を愛する空気感と価値観を共有しているのではないだろうか?
派手に着飾るラグジュアリーから、細部に忍ばせるラグジュアリーへの変化は、SNSなどを中心に加熱する過剰な演出へのアンチテーゼと考えられる。
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ノームコアというファッションスタイル
ノームコアとは、「普通」である事を示すためのシンプルなファッションスタイルを表す単語だ。その起源は曖昧だが、90年代に流行したミニマリズムから派生して生まれたスタイルだと言われているが、ノームコアは、より「普通」である事にアクセントを置いており、ファッションで個性を示す必要性や帰属意識を感じない人々の間で支持されるスタイルである。
Quiet Luxuryを好む顧客、Loud Luxuryを好む顧客
Loud Luxuryを好む顧客は、大きくロゴが描かれた高級品を買い求める。それらを利用する事で、高級品を購入するお金があることを人々に認知してもらい、自分自身のアイデンティティを構築しようとしているようだ。反対に、Quiet Luxuryを好む顧客は、周りに自分の富を認識させる必要性を感じていないため、目立たない、またはロゴのない高級品を買い求めているようだ。
ロゴの巨大化とその背景
2018年、NYTはファッションブランドのロゴが巨大化する背景についてまとめている。ニューヨークを拠点とする調査機関「Luxury Institute」の創設者 Milton Pedraza 氏は、「ブランドロゴはファッションの枠を超え、明確なアイデンティティを与えてくれる」と語る。たとえばGUCCIのロゴを身にまとうことは、同社が掲げるジェンダー平等や毛皮廃止への賛同というアイデンティティを形成しうるのだ。
消費へのマインドセット
Forbesに寄稿された記事では、「Quiet Luxury」はより識別力のある消費 (選択) を刺激するマインドセットであると紹介されている。近年注目を集める、消費者がほんとうに必要なものだけを厳選して長く愛用する「スローファッション」との親和性も高く、より大きなトレンドになっていくことも考えられる。