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感情と向き合うコミュニケーション

Focus

評価しないことの難しさ

私たちの生活に欠かせないコミュニケーション。前回の記事では、相手への共感や理解を深める「NVC (Nonviolent Communication) 」というアプローチを広く紹介した。なかでも、はじめのステップでありながら実践が難しい「観察」と「感情」について、今回のニュースレターではより深く考察していきたい。

NVCにおける観察とは、ものごとを「客観的」な事実として見ること。そしてそれを妨げるのが「主観的な評価」だ。たとえば、ルームシェアをしている友人がゴミ出し当番を忘れていたとしよう。それを見たあなたが「ゴミが出されていないよ」と伝えるのが観察、「自己中な怠け者」と伝えるのが評価にあたる。これらの区別がうまくできず、観察(事実)と評価が混合したコミュニケーションでは問題が発生しやすくなる。

とはいえ、社会には評価や判断といったシステムが数多く存在する。そのため、私たちが観察と評価を適切に区別できるようになるためにはトレーニングが必要だ。そのひとつとして、相手の目標達成をサポートするコミュニケーション手法「コーチング」が上げられる。「答えはその人の中にある」というコーチングの原則を学ぶことは、あなたのコミュニケーションをより豊かなものにしてくれるかもしれない。

Observation vs. Evaluation (International Coach Academy)

Opinion

「観察をする」ということ

Thinking is difficult, that’s why most people judge. – Carl Gustav Jung

スイスの精神心理学者カール・ユングは、「思考することは難しい。故に人は判断するのだ」と言った。私たちはあらゆるものを無意識的に評価しているのだ。

評価をすることは、比較的簡単なのだ。理解することよりも思考を要さない。私たちの脳は、目に見えるものすべてを理解するのに多くの時間やエネルギーを費やすことなく生活するために、他人の行動について自動的に評価するように設計されている。

しかし、NVCを応用するにあたって、いかなる評価も交えずに観察しなければならない。これがかなり難しい。ではどうしたら良いのか。

評価をしないための4つポイントを以下にまとめてみた。

  1. 決めつけをする
    (評価)ダグは後回しにする性格だ。
    (観察)ダグは試験の前夜だけ勉強する。
  2. 予測と確信を混同する
    (判断)マイクは試合に勝てないだろう。
    (観察)マイクは劣勢だ。
  3. 対象が明確ではない・大きすぎる
    (評価)アジア人は数学ができる。
    (観察)私の周りのアジア人は数学が得意な人が多い。
  4. 主観的な評価をあたかも一般論として語る
    (評価)ジョージは仕事ができない。
    (観察)ジョージは私が与えた仕事にかなり時間を要した。

これらが評価をしないためのポイントであり、以下に事実に基づいた対話ができるかがNVCにおける「観察」の鍵となりそうだ。日常生活で自分が評価していることをメタ的に観察してみることも面白いかもしれない。友人や家族、職場の人との何気ない会話で自分の会話を意識してみたい。

NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法 (日本経済新聞出版社)

ジャーナリングで「感情」と向き合う

自分の感情と向き合い理解する方法の一つに、ジャーナリングがある。 通常、日々の出来事に対する考えや感情をノートに記録することを指すが、写真を貼り付けたり、カラーペンなどで好きな詩を書いてデコったりなど、そこにルールはない。

「ジャーナルプロンプト」は、質問形式で内なる感情を探る、ジャーナリングのアイデア集だ。質問では「何が・どうやって」を問いかけるので、難しい感情を探求し処理することができる。日常生活での小さなことを書き留めることも、何が自分の幸福度を高めてくれるのかの気づきにつながる。

また筆者も試しているのは、習慣化コンサルタントの古川武士さんによる『書く瞑想』だ。1日15分、頭に浮かぶことを思いのまま、書くように瞑想する。ここで推奨されているのは、「手書き」であること。普段は目に見えない感情を「文字」で可視化することで、感情を客観視することができるのだ。そしてこれは感情と思考を区別することに役立ち、感情の深層にある理由に気づくことにつながる。

ジャーナリングを試してみて、自分がどういった出来事にネガティブな感情を抱くのか、また何に幸せを感じているのかがクリアになり、自己理解につながった。自分の感情と仲良くなることが、相手の気持ちを理解するためへの一歩かもしれない。

64 Journaling Prompts for Self-discovery (Psych Central)

感情モデルで自分と相手を知る

心理学者のロバート・プルチックは、52の異なる感情をさまざまなカテゴリーに分類した、「Wheel of Emotions」と呼ばれるカラフルな花のようなモデルを作成した。このモデルによると、人間を含む動物には経験、反応、感覚の中心となる8つの基本感情が存在する(喜び、恐怖、驚き、怒り、信頼、悲しみ、嫌悪、期待)。8つの感情を核とし、そこから花びらのように広がるのはより弱い感情であり、外側に移動するにつれ淡い感情が位置している。例えば、「恐怖>恐れ>不安」といったところだ。

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Wikipedia「感情の一覧」より引用

また、2つの感情が混ざる事で生まれる28個の感情も記されており、それらもまた、元となる2つの感情の類似度により分類されている。

似た感情同士の混合感情

「信頼+喜び=愛」
「嫌悪+怒り=軽蔑」

正反対のもの同士の混合感情

「信頼+嫌悪=葛藤」
「驚き+期待=混乱」

この感情モデルを理解し活用する事には多くの利点がある。まず、感情がどう定義されているかを知るだけで、自分の気持ちをコントロールしやすくなる。また、自分だけでなく他人の気持ちを理解するのにも多いに役立つだろう。

「喜び+悲しみ」の正反対の感情の混合感情として、”ほろ苦い”という感情が上記の感情モデルに示されている。しかし、日本語だと同じようだが少し違う意味を持つ”甘酸っぱい”は存在しない。そこで、両者をそれぞれ英語で表現してみると、どちらも”bitter sweet”である。もしかすると、日本人の感覚にある両者の微小な違いは、英語圏には存在しないのかもしれない。筆者はそこに日本語の繊細さを見る。感情モデルは元は英語で作成されたモデルだが、この例のように言語や文化の違いによって感情の分類は変わるのではないだろうか。

How to use the emotion wheel to get to know yourself (Better Up)