データの真正性とその活用
Focus
情報のソースを知る
普段の何気ないスクロールで目にする、ネットの写真や動画。私たちが日常的に利用するデジタルコンテンツたちは、どのようなフィルターを通ってネット上に出回っているのだろう。正直あまり考えたこともなかったが、データがどのような過程で処理されているかを知ることは、メディアリテラシー向上につながるように思える。
CAI (Content Authenticity Initiative) は、2019年に Adobe によって発表された、数百人のクリエイターからなるグループだ。彼らの目的は、写真や動画にはじまるデジタルコンテンツの出所を明確にし、メディアの透明性を担保することである。サービスの流れとしては、コンテンツの作成、編集、公開、そして閲覧までの、コンテンツが辿る道の先々で情報を保存し、それらクリアな情報をユーザーに提供している。ウェブサイトでは、コンテンツをドラッグすると、その認証情報の検査をしてくれる機能もある。
CAI は、Canon、BBC、Microsoft やウォール・ストリートジャーナルなど、多数のメディアと提携している。またクリエイターだけでなく、技術者、ジャーナリスト、活動家など、業界を超えた参加にも重点を置いている。このように多種多様なメディアと人材が協力しあって、大規模にコンテンツの信頼性と戦っている点は興味深い。そして何より、それら多数の専門家がバックにいることは、情報の認証機関としての CAI の信頼性を高めているように思える。また CAI は場所や技術的熟練度に関係なく、誰でも簡単に情報の出所を利用できるようなアクセシビリティを基本理念のひとつに掲げている。情報の真偽を見極める判断材料は、すべての人が持つべき権利であると、改めて考えさせられる。
情報のソースを知ること、情報を認証してくれる CAI のようなサービスを知ることは、誤情報から自分を守る術のひとつになるだろう。そしてテクノロジーの進化により、個人でもハイレベルな編集ができてしまう現代、CAI のような情報の透明化を図る企業の動向にも眼を向けたい。
続くオピニオンでは、企業やデジタル先進国の事例をもとに、「データの整備」を紐解いていく。
Opinion
ディープフェイクとの戦い
2020年のアメリカ大統領選挙で大きな話題となったディープフェイク。近年では、アプリで簡単に作成することもでき、フェイクポルノや著名人への被害などが大きな社会問題となっている。そんな中、企業はどのような対策を打ち出しているのだろうか。
カメラメーカー「Leica」は10月、「M11-P」という新しいカメラを発売。新しく搭載された機能「Content Credentials」では、撮影者の名前やカメラの設定、日時、撮影場所などが自動でデジタル署名として付与される。また、Photoshopで編集した場合にもその編集履歴がデータとして保存されるため、画像の透明性を高めたり、作品を守ることにつながる。
また、Google からもこの10月、画像の真正性を高める新しい機能が発表された。「about this photo」という機能では、写真がどのように撮影され、加工されたのか、またその画像が最初にGoogle に表示されたのはいつなのか、といった情報を確認することができるという。
この他にも、マイクロソフトや X (旧Twitter) といったプラットフォーマーから、ニューヨークタイムズやBBCといったメディア企業まで、一丸となってこれらの取り組みを進めている。近い将来、来歴情報がない画像では信頼を得るのが難しい時代がやってくるかもしれない。
死ぬまでに知っておきたいデータ管理
私たちは常に大量のデータと共に生活している。自分のどんなデータがどこにどのくらい残っているか把握している人がいるだろうか。もし明日私が死んでしまったら、ネット上の私のデータはどうすればいいのだろうか。
今日では、「デジタル終活」や「デジタル遺産」などの言葉がかなり普及してきている。50-79歳の終活に関する意識調査を日本で行ったところ、「パソコン内やSNS上のデータ整理」を終活と見なす割合は24.9%で、「お墓の準備」(21.1%)や「お葬式の準備」(20.6%)などの項目よりも高いことがわかった。
Apple は2021年から「レガシー連絡先」や、Googleの「非アクティブマネージャー」など、ユーザーが亡くなった後にデータを任意の継承者に遺すことができるサービスを導入している。さらに、FacebookやInstagram、LinkedinなどのSNSにおいても、死後の自身のデータを管理できる機能が備わっている。
SNSなどのネット上の個人のデータが担保される一方で、ネットバンクや仮想通貨、生命保険などの「デジタル資産」がおざなりにされがちだ。
私たちはこれらのデータをいかにして生きているうちに安全に、そして次の世代に渡すことができるのだろうか。
そんなデジタル社会の落とし穴に対して今年の8月に生まれたサービスが「akareko」だ。月額495円の利用料でネットバンキングや仮想通貨口座、ECサイト、決済サービス、生命保険やスマートホンに至るまでのログイン情報を保存できる。利用者が亡くなったのち、死亡診断書をアップロード、運営によって承認されることで任意継承者1名がそれらの情報にアクセスできる。
死後のデータ管理へのリテラシーが普及する一方で、急速に進むデジタルテクノロジーの発展で、オンライン上に残される私たちの情報も指数関数的に増加するだろう。さて、ここで問題になるのは私たちはどの時点から自分のデジタルレガシーについて考えるべきかということだ。これがなかなか難しい。私自身、あと少なくとも30年くらいは元気に生きていたいものだが、すでに自分のオンライン上のデータを把握しきれていないような気もする。
デジタル社会の渦に呑まれないためにも、常日頃から自分や家族のデータ管理について話しておいてみよう。
デンマークに学ぶ、行政デジタル化の推進
国連経済社会局(UNDESA)が2022年に発表した世界電子政府ランキングでデンマークが1位となった。同国における行政のデジタル化は、2001年に始まった電子政府戦略に基づいており、地方自治体を含めたあらゆる行政機構の協働により実現している。一体デンマークはどのようにしてデジタル先進国になったのか、以下の3つの項目に分けてまとめていきたい。
公的機関が一体となった「一貫性」のあるデジタル化の推進
デンマーク政府は、「Data Distributor」というプラットフォームにおいて、行政で必要となる国や国民の情報を基礎データとしてあらゆる行政機関で共通的に利用できるようにした。これにより、市民や企業が繰り返し、また複数の行政機関にアクセスしなくて済む。
ユーザー目線での行政プロセスやデータの標準化
同政府は様々なライフイベントごとに市民が行政サービスを利用するためのガイドである「ユーザージャーニー」を作成した。この取組みはライフイベントごとに行政プロセスを「ユーザー」である市民の目線で見直し、必要に応じて制度改定を行いながら行政手続きを簡略化している。
法整備によるデジタル化の推進
同国では、2014年から一般的な行政手続きはオンラインで行う事が義務化された。これにより、行政と市民のやりとりは92%、行政と企業間は100%のデジタル化を実現している。デジタル化の推進にあたり、ITリテラシーの向上に必要な操作支援等の取組みやデジタル委任制度の実施などを同時に進めてきたことも成功の一因と考えられる。
日本のIT戦略の出発点は「e-Japan戦略」であり、スタート時期はデンマークとほぼ同じであるものの、近年、行政のデジタルシフトの遅れが問題視されている。国民へのアクセス手段となるマイナンバーカードの交付率も77.1%に留まる。今回リサーチしたデンマークの取組みから、この状況を改善するヒントを探ってみたい。