多様化する「学び」の選択肢
Focus
学校教育に求められる新しい役割
テクノロジーの進化は、わたしたちの「学び」を大きく変えてきた。インターネットは学びの場を拡張させ、近年ではAIの進化にともない、新しい学び方が求められるようになっている。
特にAI時代においては、問題に対して創造的に考える力が求められるという。具体的には、好奇心や創造性、批判的思考、共感、リーダーシップといったスキルだ。そのため、今後はグループワークやディスカッション、プロジェクトベースの学習などを導入する学校が増えていくかもしれない。
とはいえ、教育の目的は個人のスキルアップだけではない。UNESCO (国際連合教育科学文化機関) によると、すべての成人が中等教育を修了すれば、4億2,000万人が貧困から抜け出し、貧困層の総数を世界全体で半分以上、サハラ以南のアフリカと南アジアでは3/2近く減らすことができるという。
教育は個人、社会、そして国際的なコミュニティにとって極めて重要な要素である。知識とスキルを身につけるだけでなく、社会的な変化や世界の進歩に貢献する力を持っている。
Opinion
学習の多様化と担保
日本ではあまり馴染みのないホームスクーリング。公共の教育機関に通う代わりに家庭で親が子供に学習を提供する教育方法で、個別の進度やスタイルに合わせて学ぶことができる。
ホームスクールを選択する主な理由としては、個別の学習スタイルや価値観の尊重、学校環境への懸念、オンライン教育技術の進化、カスタマイズ可能な教育プログラムへの需要などが挙げられる。
アメリカの多くの州では、コロナ禍にホームスクーリングを選択する家庭が急増し、ポストコロナの今日もなおその数字は維持されている。
通常ならば学校で教えている時間を、両親が教育に費やすのだから親の負担は大きい。それにも関わらず、多くの人々が以前の生活に戻った今でもなお、ホームスクーリングを選択する家庭の割合に大きな変化がない。これに対し、専門家から懸念の声も上がっている。
まず第一に、ほとんどの州では、ホームスクーリングを選択する子どもは学力向上を図るためのいかなる形式のテストも受ける必要がなく、学力テストを義務付けている州でも抜け穴が存在することが多いという。さらに、ホームスクーリングの急激な増加によってその実態を把握しきれていない自治体も多いという。
この状態だと、子どもたちの教育の質を均質化することは難航を極めるだろう。
一方で、この制度を認めているのはアメリカだけではない。ノルウェーの事例を見てみよう。前提としてノルウェーは「学校に通う義務」ではなく「教育を受ける義務」を定めており、子供たちが基礎教育を受けられる権利を担保する責任を親に負わせている。
そのため、ホームスクーリングも認められているが、教育は国家基準に沿ったものである必要があり、地方自治体による監督と学力テストの対象となる。このシステムを利用し、学校とホームスクールを組み合わせたり、年の一部をホームスクールとして利用したりする子どももいるという。
子どもの個性や家庭の形に合わせて教育の形態が変幻自在なのはなかなか面白い。なかなかまとまった休暇が被らない家庭でも学習形態のフレキシブルな切り替えでより家族の時間も子どもの教育機会も担保されそうだ。
どう教育を受けさせるか、ではなくどう子どもの学習の機会を担保するかに注目して日本の教育制度についても考えてみたい。
部活動の新たな在り方
スポーツに興味・関心のある中高生にとって、部活動は必ずしも最適な選択肢だと言えるのだろうか。部活動は長年、教師等の指導の下、学校教育の一環として行われている。しかし近年、少子化の影響で部員数が減少し質の高い活動ができない、あるいは教師が休日も含めた活動の指導をするため、大きな業務負担となっているなど、多くの深刻な課題がある。この問題を解決するためにどのような取り組みがなされているか、リサーチしていく。
令和2年、スポーツ庁は、上記の現状を踏まえ、学校の部活動を段階的に地域のスポーツクラブや体育協会などに移行していく事を発表した。例えば、東京都日野市では、地元企業の協力を得て、実業団で競技経験を有する社会人が主に土曜日に中学生を指導している。この方策には
- 児童生徒の選択肢が広がる
- 専門的な指導が受けられやすくなる
- 教員業務のスリム化が期待できる
など多くのメリットがあるが、現状では
- 指導者や受け皿の確保が容易ではない
- 児童生徒の安全上の不安がある
- 保護者の経済的負担が求められる
など課題点も多くある。この現状から、学校と地域の足並みを揃えた移行が求められている。
スポーツ庁は、生徒にとって望ましいスポーツ環境を構築するという観点に立ち、運動部活動が地域、学校、競技種等に応じた多様な形で最適に実施されることを目指している。また筆者は、この方策により、子供たちにとってプロの競技者が身近になるため、プロスポーツがより盛んになるというメリットもあるのではないかと考える。新しい時代の教育の形が、生徒により良い学びの機会を与え、また日本スポーツ界の躍進を支えてくれることを期待したい。
コミュニティが叶える国内留学
語学力アップや異文化体験、就活へのプラスアルファや社会人留学など目的は様々だが、海外留学に行く人は年々増えている。『海外留学協議会(JAOS)』による日本人留学生数調査によると、JAOS加盟の留学事業者40社からの2022年の1年間の留学生数は34,304人であった。新型コロナの影響もあった中、この数字は前年2021年より5倍の人がオフライン留学に行ったことを示している。しかし言うまでもなく留学には多額なお金がかかるため、誰もが経験できるものではない。筆者自身も去年1年間の海外留学を体験したが、親や大学からの大きな経済的サポートがあったからこその貴重な経験であったと、つくづく感じる。
そんな今、国内で留学さながらの体験ができるコミュニティが出現している。「北海道ニセコ留学」はその一つの例だ。海外からの移住者が多く住むニセコでは、街を歩く人は9割がた海外の人。レストランやハンバーガーショップの看板は英語で書かれており、まるで英語圏のような環境に身を置ける。
そして語学分野以外では、都会に住む子供が親元を離れて自然の中で暮らす、『山村留学』が今話題だ。その目的は、五感を使って自然に触れること。小中学生たちが地元の農家に滞在し、田植えや稲刈りなどをして、先人の苦労や知恵を学ぶ。また、収穫を祝う太鼓演奏や踊りを練習し、地域の伝統文化に触れる機会もある。子供たちはテレビやスマートフォンのない環境で、新たな気づきや我慢の重要性を実感できるのだ。
英語を国内で学べるニセコ留学のような例は、学生だけでなく社会人にとっても新たな選択肢となるかもしれない。海外渡航に伴う手続きや費用のハードルが下がることで、大人の学びの機会拡大が期待できる。また、山村留学のような、新しい環境での学びを提供するコミュニティ作りにも注目したい。留学が単なる語学習得だけではなく、より多様でアクセシブルな形態を求める人々が増える中、これらの取り組みは重要性を増していくだろう。