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冬休みに観たい、おすすめの映画

Focus

TOP GUN

マーヴェリック、その生き様

私がこの場を借りてオススメしたい映画は、「トップ・ガン」だ。この1986年公開のアクション映画は、トム・クルーズ演じるパイロットのマーヴェリックが、最も厳しい戦闘機訓練プログラム「トップガン」に挑む姿を描いている。

もちろん、迫力満点の戦闘シーンや、「Danger Zone」、「Top Gun Anthem」をはじめとする数多くの不朽の名曲も大きな見どころだが、私がイチオシしたいのは主人公のマーヴェリックの自信に満ち溢れた生き様だ。

彼は自分の能力に絶対の自信を持っており、上官に対しても生意気な態度を取る。また、ルールを守ることにあまり興味を示さず、自分の信念や直感に従うスタイルを貫く。しかし、その背後には彼の確かな実力があり、戦闘機の操縦技術において卓越した能力を発揮する。マーヴェリックは生意気ながらも、究極のプロフェッショナルなのだ。

彼の内から溢れる自信は、プライベートにも現れる。まず彼のサングラスやレザージャケットなどに代表されるスタイリッシュなファッションは最高にロックで、私も同じ型のサングラスを購入したほどだ。また、彼の常にクールで余裕のある態度には心底憧れる。それは恋愛においても同様で、相手に対して率直で自分を隠さないスタイルを貫き、相手に自分の魅力をアピールする。彼のような人間になりたいと思う人はたくさんいるだろう。

と、これまでかなり独自の視点で「トップ・ガン」の良さについて語ってきたが、最初に書いたように息を呑むアクションシーンも満載だ。冬の寒い日にこそ、この映画を見てアツくなろう。

TOP GUN | Official Trailer | Paramount Movies

Babylon

ハリウッド黄金時代の光と影

「ラ・ラ・ランド」の監督として名を馳せたデイミアン・チャゼルが監督を務めた「バビロン」。ハリウッド黄金時代と呼ばれた1920年代を生きた人々に焦点を当てた映画だ。

映画という新たな娯楽が生まれて間もない頃、人々はサイレント映画に釘付けだった。そしてハリウッドは新しい娯楽産業の聖地として、多くの若者が夢を抱えてやってきた。映画産業に夢を見る若者マニーと、恐れ知らずで自由奔放なネリー。一躍時の人として名を馳せるサイレント映画スターのジャックのパーティーで2人は出会い、ひょんなことからマニーはジャックのアシスタントとして、ネリーは新人女優としてハリウッドドリームの階段を駆け上がっていく。

映画前半の2人がハリウッドドリームを駆け上がっていく様は、実にリズミカルに描かれていて観ていてとても気持ちがいい。特に、ネリーが初めて女優として仕事をするシーンがお気に入りなのだが、マーゴットロビー演じるネリーの表情の切り替えには目を見張るものがある。

軽快なプロットとは対照に、青二才な彼らがハリウッドに揉まれながらだんだん変化していく描写は実に巧妙に描かれている。だんだん派手になっていく生活と、新顔に厳しい社交界。そして、時代はトーキー(発声)映画の誕生により大きな転換期を迎えていた。映画に音声が加わるようになり、撮影やスタジオのスタイル、演技の仕方などがガラリと変化する中で、ハリウッドを生きる人々はどう生きていくのか。

激動のハリウッド黄金時代をテンポよくリズミカルに、様々なバックグラウンドを持つ人々にスポットライトを当てて描いている。

豪華な世界と裏側の世界、夢を追う人間と成功を手にした人間、沈みゆくサイレント映画と台頭するトーキー映画。様々な光と影が綺麗に対比、変化していく描き方は、実にデイミアン・チャゼルらしく心を惹きつけるものがある。ぜひ、年末のお供に観てもらいたい作品だ。

映画『バビロン』特報(完全版)

AALTO

観るAALTO展

フィンランドを代表する建築家・デザイナー、アルヴァ・アアルト。3本の脚に一つの座面がついたシンプルなデザインの椅子、スツール60をみたことがある人も多いだろうか。去年の北欧留学を機に北欧デザインに魅了され、予告を見たあと映画館に向かわずにはいられなかった。

映画では、アアルトがどのような人物であったか、妻アイノが綴った手紙や2人目の妻エリッサ、友人の証言などを通して、ナレーションとともに描かれる。作中特に感動したのは、アイノがアアルトに宛てて書いた手紙だ。アイノも建築家で2人は公私ともにパートナーであったのだが、そのお互いに支え合う姿がとても印象的だった。2人の手紙の文面には尊敬と愛が詰まっていて、美しい音楽と映像にはより引き込まれる。

アアルトの作品もいくつか紹介されるのだが、私のお気に入りはルイ・カレ邸だ。フランスの画商ルイ・カレの自宅兼ギャラリーをアアルトが設計した、真っ白な壁とあたたかい木材が特徴的な家である。建築に詳しいとかでもない筆者だが、北欧を感じさせるミニマリストな素朴さと、部屋の大きな窓に差すあたたかな光が、とても懐かしく思えた。作中、全体的にBGMは控えめに使用されており、このルイ・カレ邸も撮影された風景そのまま、鳥のさえずりと風で揺れる葉っぱの音と映し出されていた。アアルトの作品にループしているような気がして、異空間に行けるような体験は映画館の醍醐味だと改めて感じさせられた。

建築やインテリアに興味あるなし関係なく、この映画を楽しめる人は多いのではと思う。アアルトとアイノの関係性、仕事に対する眼差しから学ぶことは多い。好きを仕事にし、お互いに尊敬し、切磋琢磨し合う2人の関係性は、とても素敵だ。北欧ならではの心地よさに包まれる、この映画をぜひおすすめしたい。

映画 「アアルト」本予告

PLAN 75

自死を選択できる制度から、「生きる」という究極のテーマを問いかける

「年齢による命の線引き」というセンセーショナルなテーマを扱ったこの作品。高齢化社会の解決を図るため、75歳以上の高齢者が自ら死を選択できる「プラン75」という制度が可決された日本社会を描いている。

本作の主人公は、夫と死別して以来、ひとり暮らしをする78歳の角谷ミチ(倍賞千恵子)。高齢者という理由からホテル清掃の仕事を解雇され、さらには住んでいた団地の取り壊しも決定してしまう。次第に追い込まれていったミチは、ついに「プラン75」の申請を決意することになる。

この作品を観て感じたことは、この制度が日本社会に受け入れられて行く様子が妙に現実味を帯びているということ。脚本・監督を務めた早川千絵さんが語るように、「人の命を生産性で図る」という、危険ながらも社会に蔓延している考え方に改めて目を向けるきっかけとなった。

また、この作品のシリアスな世界観は、俳優陣のすばらしい演技をはじめ、ワンカット長回しの技法からも感じることができる。近年、あらゆる動画の短尺化が進むなか、余白を読み解くのは映画ならではの体験だとあらためて感じた。

決してハッピーエンドな映画ではないが、時間と心に余裕があるときにこそすすめしたい1本だ。

PLAN 75 本予告