Scanner

ENGLISH

I think therefore I am

Focus

I THINK THEREFORE I AM

いまから約400年前。フランス人哲学者 デカルトによって「人間とはなにか?」という大きな命題に対するひとつの答えが示される。”I think therefore I am” − 我思う、ゆえに我あり。哲学史上もっとも有名な言葉の一つであり、自分という存在や意識を発見し、世界に対する認知の眼差しを広げていく根幹となる思考だ。

その約300年後、デカルトの言葉にオマージュを捧げるひとつのアートワークが生まれた。I shop therefore I am” − 1987年にアメリカのアーティスト、バーバラ・クルーガーによって発表された作品だ。そのメッセージには「大衆はもはや何を考えているかではなく、彼らが所有するものによって定義されている」…そんな警鐘が込められている。作品が生まれる背景となった1980年代のアメリカは、60年代から高まった公民権運動や環境保護運動によって社会構造が変わり、同時に産業・技術・経済の発展や革新とともに大量生産と大量消費へと向かった時代であった。

そして2021年。情報技術や産業構造の変化、深刻化する環境課題、生産や販売における多様性と包括性の希求、パンデミックで露見したサプライチェーンの脆弱性…。私たちが生きるのは80年代のアメリカと同じく(あるいは、それ以上に)世界的なルールチェンジが求められる時代であり、その軸を貫くのは「消費」から生まれる文化と価値観だ。「アフターコロナ」の兆しが見えた今だからこそ、この文化と価値観を見つめ直す必要性があるのではないか、そう思えてならない。

「買う」という行為は自分の中に新たな価値観を招き、より良い社会の在り方に一票を投じる意思であるのだと最近では強く感じる。世界中の出来事に耳を澄まし、”shop” と ”think” を結ぶことで、私たちが自身の中に迎え入れるべき価値観なにか、どのような未来を期待しているのか。そして、そこにどのような関係性が眠っているのか想像し、考えてゆくためのきっかけづくりができたらと期待している。

“I think therefore I am”

考えることで、私たちは存在し得るのだから。