Scanner

ENGLISH

ジーンズとその一生

Focus

ジーンズとその一生

ファッション業界のシンクタンクNew Standard Instituteのディレクターをつとめる TheMaxine Bédatは、著書「UNRAVELED」の中で紡績から製織、染色、加工、梱包、出荷、販売…と私たちの手元にジーンズが届くまで、どのような地域と人々が関わり、そこで何が問題として起きているのかを明らかにする。

製品の製造や廃棄が気候変動に与えるインパクト、パンデミックによる小売店の損失が縫製労働者に与える影響、企業によるサステナビリティ素材の起用など。現在進行形の課題に対して、私たちは何を認識し、行動として起こすべきかを問いかけられている。

 

BACKGROUND

280万着: ガーナのある地域で1 週間に投棄される廃棄物

25%: パンデミック前後の体系変化でジーンズを買い替えたLevi’sの顧客

21億トン: 世界のファッション業界全体で排出される年間の二酸化炭素量

The Life and Death of Your Jeans (NYT)

Opinion

想像力の行き届かない課題を定量的に表す

今回取り上げた記事を読み、改めて考えたのは、サプライチェーン全体に想像力を働かせることの難しさである。自分自身を振り返ってみると、ファッションブランドが華々しく喧伝する「エシカルな取り組み」の数々に少し踊らされすぎていたかもしれない。

たしかに、きのこやサボテンからレザーを作ったり、着古したジーンズを蘇らせたりするプロジェクトは魅力的だ。アプローチはクリエイティブで、ファッションの為に犠牲となる動物を守れるなど、効用が想像しやすい。しかし、これらの取り組みは手放しに賞賛できるものだろうか。

実際のところ、「環境に優しい」製品たちが、環境負荷の低減にどれだけ貢献しているか不明瞭なケースも多い。例えば、リーバイスが過去に開発したリサイクルデニムは、同社の一般的な製品と比べ、耐久性が低いとされている。せっかくのリサイクル素材を使った製品も、短いスパンで廃棄物に逆戻りしてしまっては勿体ないように思う。

社会問題についても同様のことが言える。人種差別撤廃を掲げるNIKEだが、役員全体に占めるアフリカ系アメリカ人の割合は2019年6月時点では4.8%だった。NIKEが社会に向けて発信する力強いメッセージと比べ、組織内部のD&I施策からは幾分控えめな印象を受ける。

話題性の大きいパフォーマンスやキャッチーなニュースは、時として私たちの目が及びにくい問題を覆い隠してしまう。

そこに光をあてる取り組みとして、私は「Good On You」に注目している。ファッションブランドの持続可能性を環境・労働者・動物保護の観点から評価する同社のスコアリングは、FARFETCHなどのファッションECに導入されている。

正直、かなり地味な取り組みだ。しかし、私たちの想像力が行き届かない問題を定量化し、「せっかくなら社会や環境に良いことをしたい」という意思決定を力強く支えてくれる。このようなサステナブルな取り組みの透明性を担保するシステムこそが、消費者をエンパワーするうえで、いま最も必要とされるのではないだろうか。

自分ごと化から始める

「環境に良いものを選ぼう」、周りを見渡すと多くの人がこの考えに賛同しているように思う。しかし自分自身を振り返るとなかなか行動に移せていないのが現実だ。

そんな私も食品においては生産地やフェアトレードなどの表記に着目して購入することが多い。自分や家族が口にするものは安全なものを選びたいと本能的に感じ、その影響を想像することで「自分ごと化」できているのだろう。

今回テーマとなるファッションでも、自分ごと化によって同じように行動を変えられるかもしれない。自分自身のファッションの歴史を振り返ると、90’s HIPHOP → スケーター → ハイブランド → モード → シンプル(いまは毎日ほぼ同じ服だ)、と年代に応じて変化してきた。何が自分のファッションに影響を与えたかといえば、自分が属するコミュニティの変化だ。周囲の人との繋がりや関係性が変化することで美意識が変化した。言葉にするのは少し恥ずかしいが、ここには「いつだって周りからカッコいいと思われたい」という欲求も含まれる。この感情はきっとポジティブに働く。

ファッションの世界を見渡すと、GUCCIやHERMESといったハイブランドからH&MやZARAといったロープライスのブランドまで、いまや多くの企業が持続可能性を掲げる。ファッションでも「持続可能」な選択をすることは新しい美意識となっていくのではないか。自分ごと化と美意識、これらのアップデートが社会を動かす力となっていくように感じる。

Something to consider "after" you shop.

この記事を今週のトピックスに選んだのは、ジーンズほど世界中に普及していて暮らしの身近にあり、時代の文化を映す製品はそうそうないのではないか?と考えたからだ。記事のリードには「Something to consider before you shop.(あなたが買い物の前に考えるべきこと)」とある。しかし、自分・もの・社会の関わりを考えるチャンスは、before だけでなく after にもあるように思う。

そう考えるきっかけとなったのは、この原稿の傍で進めている引越し準備だ。仕事に使うデバイスや文房具、日用品から骨董品まで。部屋を埋める荷物を眺めてはため息をつく。いや、ほんと、なんでこんなにもので溢れてるのかな…

新居へ運ぶもの、リサイクルにだすもの、やむを得ず処分するもの。一つひとつを手に取って気づくのは、手に入れたときは明確な理由のないものでも、手放すのには必ずなにかしらの理由があるということだった。壊れてしまった、暮らしが変わって使われなくなった、いまの自分の感覚と合わない…。物理的な理由はもちろん、感情的な理由もそこに含まれる。

Something to consider after you shop.

買い物好きな自分にとって、何かを手に入れるというのは間違いなく楽しい行為で、その熱狂の渦の中で社会や環境との繋がりまでを想像することはときに難しい。その一方で、手放す瞬間は限りなく頭の中がクールである現実に驚く。冷静になってものの価値を判断し、手放す意味と影響を想像していく。それはどこから来たのか。どこへゆくのか。自分を幸せにしてくれたのか。手に入れた当時と今で自分はどう変化したのか。その一つひとつが自分を振り返り、次の行動を学ぶことへ繋がるように。

そうして次の場所への荷物に詰められるのは、きっといまの自分が大切にしたい未来の自分だ。