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食の革命とトレーサビリティ

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食の革命とトレーサビリティ

FDA (アメリカ食品医薬品局) 食品政策・対応担当副長官のFrank Yiannas氏は食品の分野で2つの革命が起きていると述べる。1つは遺伝子の編集や持続可能なプロセスにフォーカスした食品の製造。もう1つは食品の安全性を確保するためのデータ活用だ。

FDAでは、2022会計年度の予算案に際して食品プログラムはこのうち12億ドルを獲得、その中でも食品安全は8,250万ドルを占める。データ活用への予算はそのうちの約54%である4,480万ドルを投下する。

Yiannas氏はこう述べる。「私にとって、トレーサビリティは単に問題発生に迅速に対応しようとするためのツールではありません。それは食品システムに新しいレベルの透明性を提供することであり、消費者の行動に影響を与え、問題発生の予防を強化し、どのように変更を加える必要があるかを理解するという点で、ゲームチェンジャーになる可能性があります。」

より良いトレーサビリティデータとは、機械学習システムが起こりうる問題を予測するために参照できる情報が豊富であることも意味する。そのリソースは食材の生産者・加工輸入業者・販売企業まで広い範囲にわたる。

これに加えて、パンデミックを通じた消費者のパラダイムシフトにも触れる。パンデミックの当初、一部の製品の不足によって食料品店の棚は空になった。これはフードシステムのサプライチェーンの問題が明らかになったこと意味する。Yiannas氏は「これらの問題の多くはロジスティックであった」と述べる。

消費者が食料品店からあらゆる食品を入手するようになったことで、FDAは食品を小売販売にリダイレクトするのに時間を要した。しかし、これらの対応に迅速に対応し、必要に応じてこれらのラベリングの状況に柔軟性を提供することで、民間企業との情報/対応の調整に成功しつつあるという。

これらの問題で明らかになった「サプライチェーンの弱点」「管理システムの有用性」および「民間企業からの情報」は、より良い指標として食品の透明性にも生かされることで「食の革命」を前進していく。

BACKGROUND

・7500億ドル : 毎年サプライチェーン全体で失われる食品の額
・60% : スーパーに売られている食材の産地を知らない人の割合

More data can bolster food safety, says FDA leadership

Opinion

ブロックチェーンで見える真の透明性

最近巷でよく見かける「オーガニック」や「フェアトレード」のラベルが付いた食品たち。日本の社会的消費に関する用語の認知度は年々上昇しているものの、世界水準で見るとまだまだ低く止まっている。トレンダーズによると、エシカルの認知度は23.0%で、20代の認知率が一番高い

また、日本フェアトレード・フォーラムの調査によるとフェアトレードの認知率は32.8%と、2015年より3.5ポイント上昇し、3割を越えてきている。しかしながら認知率の上昇に対して、購買経験は2015年の42.2%から2019年時点で42.4%とほとんど差がない。

これらの社会的消費に関する用語の認知度の増加に反して購買選択に大きな変化が見られない原因として、貢献度がわかりづらい、対象の商品やサービスなどがわかりづらいなどの理由が挙げられる。

さらに、実際にオーガニックなどの認証制度も認証機関によって基準が異なるため、情報が曖昧であり消費者が正確なイメージを掴むことが難しい。日本の唯一の認証機関である「有機JAS」は農林省の認めた機関での認証が必要になる。

日本のオーガニック食品認証マークは「有機JAS」に限られているが、世界にはさまざまな認証機関が存在しており、その基準はさまざまである。何を持ってオーガニックとするのかについては実際のところ認証機関によって大きく異なる。ここにまた別の不透明性という問題が挙げられる。

これらの問題に対し、ブロックチェーンをはじめとしたトレーサビリティを利用して生産者とのつながりや確かな透明性を明らかにすることによって、消費者に対しエシカルな食品購買を促すことができるのではないか。これによって見ることの難しい別の側面が見えてくる。

製造工程の開示によって、生産者のリアルな想いや、自分の購買行動によって誰かの生活を支えていること、また自分が支えられていることに気づくことができる。これら繋がりを知ることによって、自分の日常的な購買行動がどのくらい社会に貢献できるかが可視化される。

また、食品がどのような基準でオーガニッックや、フェアトレードとして、認証されているのかを明らかにすることは、消費者の食品購買に対する意識の向上につながると考える。このような意識の向上は世界の認証水準も高まりにも貢献する。

ブロックチェーンによって提示される確かな情報は、現代の複雑化されたサプライチェーンではなかなか感じることのできない人との繋がりの温かさや、自分が口にするものの透明性を示す「真のサプライチェーン」として消費者のエシカルな購買活動を促す大きな役割を担うことができるのではないか。

トレーサビリティが豊かにする食の体験

あらゆる食材に、食卓に並ぶまでのストーリーがある。どこで(Where)、誰が(Who)、どう(How)育てたのか。どのように加工され、どうやって私たちの元へ届けられたのか。今やその舞台は世界に広がり、生産から流通、提供まで、食に関わる登場人物は増加している。追跡の可能性あるいは透明性という文脈で、この物語を紡ぐことにどのような意義があるのだろう?

最も重要なのは、やはり安全性の担保であろう。人は食べたものでできている。だからこそ「食の安全」は人の命に関わるクリティカルな問題だ。世界では毎年10人に1人が食中毒にかかり、およそ42万人の死者が出ているという。サプライチェーンの上流から下流まで、あらゆるプロセスを記録すれば、汚染された食品などを瞬時に特定し、問題の拡がりを防げるようになるだろう。消費者の94%が食品の透明性を提供するブランドに高いロイヤリティーを感じると答えているように、企業活動への期待感も大きい。

これは食品流通のネガティブな側面を抑制するものだが、よりポジティブな魅力を引き出すことは出来るのだろうか?

トレーサビリティの紡ぐ、これまで語られることのなかった物語は、きっと私たちの食生活をより豊かにしてくれる。なぜなら、食を楽しむということは、味だけでなく、背景にある物語を楽しむことでもあるからだ。

私たちは五感すべてと、作り手の込めた想いを汲み取る感性で、料理を味わっている。たとえば、家族の作ってくれる料理がとびきり美味しいのは、そこに込められた愛情を受け取っているからだ。

一方で、このようなバックストーリーの立ち上がってこない食事は少し味気ない。機械的なオペレーションで配膳されるファストフードや、パッケージ裏の原料表示しか情報のないコンビニ弁当。味自体は十分満足できるレベルにあるものの、食べたときに「充足感」を覚えることは少ないように思う。

手付かずの食材も調理された料理も、物語の有無で私たちの受け取り方は大きく異なる。だからこそ、食品のルーツを辿ることで、日々、自分が何を口にするかという選択をより楽しく、豊かなものにできるのではないだろうか。

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