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フードロスとその未来

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フードロスとその未来

熟した果物や新鮮な野菜、ジューシーなプライムミート、栄養価の高い乳製品。スーパーに並んでいるどれだけ美味しそうな食品も、賞味期限が近づくにつれて廃棄物になってしまう宿命をもつ。

非営利団体Re-Fedの調査によると、サプライチェーンに入る生鮮食品の34%が決して食べられることなく廃棄されてしまうという。そのような中、国連では世界的な飢餓の撲滅を念頭に「2030年までに世界の食品廃棄物を半減させる」という持続可能な取り組みを目標に掲げる。

これらの課題を解決するための手法にはどのようなものがあるか?その一つには、美味しいうちにその食品を買ってもらうシンプルな考え方がある。つまり、賞味期限に応じた段階的な値引きで、在庫消化と利益の確保を両立する『マークダウン最適化』という手法だ。

アメリカ・ヨーロッパ各国にも拠点をもつテックスタートアップ「Wasteless」では、AIを用いたサプライシステムを提供することでこの最適化に挑む。

彼らは “スーパーマーケットに行って2日または7日で期限切れになるチーズに同じ価格を支払うのはナンセンス” であり、賞味期限に近づいた商品ほど価格を下げることで、顧客にインセンティブを与えることができると主張する。

同社がスペインで行ったテスト調査の結果によれば、未利用食品の廃棄を1/3削減することに成功したという。機械学習のアルゴリズムは常にアップデートされており、食品廃棄物の80%削減という目標に向けて順調に進んでいるという。スーパーマーケットの既存のシステムに統合できる同社のテクノロジーは、ユーザーだけでなく小売店にもメリットをもたらす。せっかく入荷した食品を廃棄するのは、小売店にとって大きな機会損失であり、賞味期限が切れる前に全ての食品を売り抜ければ、今まで以上の利益が見込める。

食品廃棄への課題は家庭内にとどまらない。 サプライチェーン全体を意識した消費の広まり、生産の最適化へと繋がっていく。気候変動への影響は私たちが食品廃棄物をゴミ箱に捨てるずっと前から始まっているのだ。私たちが適切な消費を考えることは、地球規模でのより最適な生産という未来へ繋がっていくのだ。

 

BACKGROUND

・74kg:年間1人あたりが廃棄する食品量

・13億トン:年間無駄になる世界の食料生産量

・1億5500万人:紛争・経済的ショック・異常気象などで深刻な飢餓に直面する人口

Waste less, sell more - how one startup is using AI to transform food retail

Opinion

食の生涯学習

今回の記事を書くにあたり、食生活について妻と話してみることにした。会話の中で特に盛り上がったのは、5ヶ月の娘に対する「食育」だ。「好き嫌いがない子に育って欲しい」「ファストフードは月に数回まで」「家族揃って食卓を囲みたい」など、色々な意見が挙がった。そんな子どもに対する熱い想いとは裏腹に、自身の食生活を振り返ると、朝食を食べないことが多々ある、昼はコンビニ弁当など、教える立場として十分でないのが現状だ。親になった瞬間、名ばかりの教育者になってしまっていたのだ。

加えて、厚生労働省から出ている「朝食を週1~4回食べない」子ども(1~6歳)が約10%いるというデータは、自分の子どももそうさせてしまうのではないか、と強い危機感を抱かせた。「子は親の鏡」という言葉の通り、自分の食生活が子どもに影響を与えかねない。子どもの食育はいわば、大人の食育であるのではないか。

ここで「食育とは何か」について改めて調べてみると、「生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきものと位置付けられるとともに、様々な経験を通じて『食』に関する知識と『食』を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てるもの」とかなり幅広い分野を含んでいる。食育プロジェクトの1つである農林漁業体験などは、生産者理解や自然の恩恵への感謝といった点から、食べ物を大切にする姿勢を醸成し、食品ロスに貢献することが期待されている。

生涯にわたって続く営みである「食育」を学び続けることは、人生を豊かにする第一歩ではないだろうか。自分はもちろん、大切な家族を守るため、そして重要な社会問題である食品ロスを無くすためにも。

「おうち時間」で向き合う無駄のない生活

自分の日常生活の中でどれくらいの食べ物が廃棄されているか想像ができるだろうか。1日にどれほどのフード・ウェイストが生まれているのか、実際に数値と向き合うと目を覆いたくなるような現実が横たわっている。農林省のウェブサイトに掲載されている資料によると、一年に13億トンもの食料が廃棄されている。イギリスのフード・ウェイストが群を抜いて一番多く、一人当たりで比べてみてもヨーロッパが上位を占めている。日本も例外ではなく、年間の食料廃棄は約612万トンと想定されており、国民一人当たりに換算すると毎日お茶碗一人分の食料が捨てられていることになる。世界レベルで比較したら少ないものの、食料自給率が低い日本では、少ない食料にもかなりのコストがかかっていると考えられる。そう考えると我が国の食料廃棄問題も深刻である。

知れば知るほど深刻なフードウェイストの問題。実は自分のお財布や日常生活においても知らず知らずのうちに損をしている可能性がある。本来使えるはずの食材を見逃していたり、安いからといってついつい多く買ってしまった食材を傷めてしまったり。もっと自分やお財布にも優しい消費をフードウェイストの問題と考えていきたい。

フード・ウェイストの多さが問題となっているイギリスでは、ロックダウン中のフード・ウェイストの量はロックダウン前と比べて3分の1まで減少したという。コロナ禍において外出が自由にできない中、冷蔵庫の食材を効率よく消費するようになったことや、家での料理の機会が増加したことが原因として考えられる。いわゆる「おうち時間」で「今あるもの」を有効活用する機会が増えたように感じる。今まであまり使わなかったものを使ってみたり、今まで作ったことがなかった料理を作ってみたりなど、視点を変えて見てみると意外な発見があったりするものだ。食品に関しても、実は美味しく食べられる部分を捨ててしまっているかも知れない。食べれない部分でも堆肥化することで窓辺の観葉植物を元気にすることができるかも知れない。

「おうち時間」に自分の持っているものと改めて対峙することで自分の生活を豊かにする隠れたヒントを見つけることができるのではないか。

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