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ポストコロナとオーバーツーリズム

Focus

When New York Was Ours Alone

観光業界はコロナ禍において最も打撃を受けた産業の一つであり、WTTC(世界旅行ツーリズム協会)の調査によると、2020年の損失は実に4.5兆米ドルにものぼるという。2019年比のGDP貢献度は49.1%減少した。さらに業界における雇用は18.5%減少し、約6,200万人もの雇用が失われた。

世界の観光主要都市が受けた影響は大きく、2019年の来訪者数が6,000万人と過去最多を記録したニューヨークも2020年の打撃はかなりのものであった。ロックダウン以前におけるニューヨークの観光産業は40万人の雇用と460億ドルの年間消費をもたらしていたが、2020年の3月に実施されたロックダウンによってニューヨーク市の失業率は14.1%を記録した。これは、全米の2020年における失業率平均の2倍を上回るという。ロックダウンによってニューヨークは先例を見ない観光客のいない街と化したのだった。

しかし、地元住民の反応は思いの他悪くないようであった。年間を通して観光客が絶えない街に訪れた静寂を楽しんでいたのである。美術館や博物館などの施設では定員が通常の25%まで制限され、時間制限付きのチケットが販売された。このため、市民は鑑賞のために長時間列ぶ必要も、人混みを避けながら鑑賞する必要もなかった。公園やコニーアイランドのような娯楽施設でさえも溢れかえる観光客の存在を忘れて楽しむことができた。

コロナウィルス感染拡大防止のためのロックダウンは、観光業界に大きな打撃を与えるとともに、観光地に住む市民に一時的なゆとりを与えたのであった。

とはいえ、観光産業がニューヨークにもたらす経済効果は莫大であり、観光客を再び集めるのは景気回復の必要条件だ。実際に、ニューヨークの観光復興機関である、NYC&Co. は観光客を呼び戻すために3,000万米ドルを費やし、広告キャンペーンを打ち出した。ニューヨークを訪れる観光客数が回復するにはかなりの時間を要すると言われているが、回復の見込みは着実に立ってきている。

コロナ打撃によって見えてきた「飽和した観光」と「ゆとりのある観光」。これらが与える影響は今後のツーリズムに新たな風をもたらしそうだ。

 

BACKGROUND

・69.4%:2020年における海外旅行客の支出の減少率

・- 4.9 %: 2020年におけるモビリティに対する制限によって変化した世界のGDP(前年比)

・-3.7% : 2020年におけるGDPに対する観光業の割合の変化(前年比)

When New York Was Ours Alone

Opinion

没入感を求めるスローな旅

ロナ禍で注目を浴びているのがスローツーリズムだ。たとえば、ヨーロッパでは環境負荷の高い航空機による移動から、伝統的な鉄道旅行に回帰する動きがみられる。短距離の国内フライトが禁止されたフランスのスタートアップは、ヨーロッパ12都市を寝台列車で結ぶ計画を発表し、ドイツでも国営の鉄道会社が長年閉鎖していた20路線の再開を目指すという。

スローになるのは移動手段だけでない。滞在場所や期間にも変化の兆しが見える。AirDNAの調査は、米国における国内旅行のトレンドが大都市から小さな町や自然豊かな土地へ移行しつつあることを示唆している。また、AirbnbのCEOブライアン・チェスキーは、予約のうち約1/4が28日以上の滞在であることを明かし、旅行がより長期化するとの見立てを述べた。

こうした流れは、コロナ禍で抑圧された人々の反動的かつ短期的なニーズによるものだろうか。私はスロートラベルが、旅行に対して「深い没入感」を求める姿勢と結びつき、中長期的なトレンドになるのではないかと考えている。そのきっかけになったのが、2020年の2月初頭のスペイン旅行である。

のちに新型コロナウイルス感染の震央となるスペインも、この頃はまだ賑わいをみせていた。参加したのは、5日間で6都市を股にかけ、観光名所を次々に制覇する超過密日程のツアー。移動用バスを降りるたび、ガウディ未完の傑作「サグラダ・ファミリア」や、イスラムの香り漂う「アルハンブラ宮殿」など錚錚たる顔ぶれに出迎えられた。

そんな目まぐるしく景色の変わる日々に刺激を受ける一方、どこか物足りなさを感じる自分がいた。早々に記念撮影を済ませ、すぐさま次の目的地に思いを馳せる。心に引っ掛かったのは、スターウォーズやワールドカップのダイジェスト映像を見ている時のような「没入感の浅さ」である。

私たちは、インターネットと繋がることで、簡単に「浅い没入体験」を得ることができる。世界各地の画像・映像が溢れかえり、リアルタイムで世界と繋がること、ECサイトで地方 / 海外の特産品を取り寄せることも容易になった。そんな時代の旅行に求められるのは、深い没入体験、言い換えれば現地でしか得られない情報を最大限に引き出すことではないだろうか。そのために、旅行はファストなものからスローなものへと転換していくと考えられる。

都市と観光、そして経済成長

観光客まばらな街並みと対象的にポストパンデミックの兆しあるニューヨークを満喫するローカルの人々。ハイライト記事で印象的だったのは、そんなゆとりやヒューマニティを感じる景色だ。

・・というのも2019年にニューヨーク滞在した際に見た、観光客で溢れるタイムズスクエア、通行人が行き交うハイラインやブルックリンブリッジ…そんな記憶の風景と大きく違っていたから。「わたしたちはいったい、この光景から何を学ぶべきなのだろう?」、そんなことを記事から考えさせられた。

少し前のことだけど、『人新世の「資本論」 (集英社新書)』と『ビジネスの未来 – エコノミーにヒューマニティを取り戻す』の2つの書籍を読んだ。

人新世の「資本論」では、豊かな生活を約束していた近代化や経済成長、大量生産・大量消費が現在の環境危機を招き、グローバル・サウス (グローバル化によって被害を受ける地域/住民)にその代償を押しつけている事実を。ビジネスの未来では、無限の成長を求めるビジネスの破綻や、成長を終えた後の経済の有り様が考察される。これらの本を読み終えて、経済成長が目指すべき意義の再考を投げかけられたように思う。

今回ニュースレターで取り上げたオーバーツーリズムの事例は、ニューヨーク以外にもバルセロナやフィレンツェ、プラハなど観光政策の見直しを図る都市が複数ある。その中、以前オランダ国内を旅行した体験もあって、アムステルダムが推進するポストパンデミックの観光に注目したい。

アムステルダムは、年間820億ユーロ (日本円換算で10兆円 / 2019年) を観光収益とする都市でありながら、同時に大麻販売・セックスツーリズム・公害・題旅行者向け物件の増加による地価の向上など、都市観光の発展とともに多くの課題を抱えていた。

環境客の激減するパンデミック下の2020年。市は機会を前向きに捉えて、都市観光のシステムや環境の改善にむけ、将来的に持続可能な観光業態を目指して多くの政令やガイドラインを制定した。

歓楽街のガイド付きツアーの禁止、短期旅行者へむけたバケーションレンタルプラットフォームへの制約、あるいはセックスワーカーへのケアなどはその一例だ。

記事では、観光業を通じた都市のモノカルチャー化(文化の単一化)についても述べられる。観光用の施設や商材が増えることで、ローカルが独自性を失ってしまうことで、文化や魅力を失う危険性にも触れられる。

わたしがこれらニューヨークやアムステルダムの事例から感じるのは、経済最優先の現状から離脱することで、「ローカルのカルチャーを守り、魅力的な文化を未来に継承していく」という意義だ。

いよいよ五輪開催を来週に控える東京。街中を歩けば、TOKYO 2020の街頭フラッグや電車内の持続可能化を目標に掲げた広告が目にはいる。しかし、そのいずれもが「HOW」の話ばかりで「WHY」が語られていない空虚さを感じるのは私だけだろうか?

都市と観光、そして経済成長がともに目指すべき意義はなにか。

新しく作業場に構えた外苑前のオフィスビルから街を眺め、そんなことを考えている。

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