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ワークアウトとコミュニティの効用

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ワークアウトとコミュニティの効用

ハーバード大学の古人類学者Daniel Lieberman氏は、運動のモチベーションを維持するためには、友人と一緒に運動するバディシステムが最適だと述べる。ひとりではなく誰かと行うことで、社会的な結びつきや仲間意識、責任感が芽生え、モチベーションを高めることができるという。

運動は心身の健康を向上させるという研究結果が数多く発表されているにもかかわらず、運動に対して腰が重い人は少なくないだろう。実際にCDC(米国疾病予防管理センター)は、成人の75%が十分な運動量を確保できていないと報告している。

Lieberman氏の研究によると、人間には生物学的、文化的に運動を避けようとする動機があるという。人類は進化の中で、食料確保や遺伝子継承といった活動に優先的にエネルギーを使い、不要な活動は避けてきた。言ってしまえば、人間は遺伝子レベルで運動への内発的動機付けが難しいということだ。研究を行うLieberman氏でさえ、自らの意思で運動することには難しさを感じるという。

そこで重要なのが、社会環境である。例えば、彼は運動について研究する立場であるがゆえ、職場ではエレベーターでなく階段を利用する。その行動に対する同僚からの評価は、彼の運動の動機付けになっているという。また、友人と一緒に行うランニングは、運動ではなく社会的経験として位置づけることで動機付けがなされている。もちろん、約束を破ってはいけないという責任も伴っているが。

このように、人々の相互関係や結びつきを高めることは、運動へのモチベーション、ひいては心身の健康に結びつけることができる。オンラインでフィットネスクラスに参加できるPeloton社のようなサービスやコミュニティに参加するのもひとつの手だろう。目標達成のため、まずはトレーニング仲間を探してみてはいかがだろう。

 

BACKGROUND

・150〜300分:1週間で推奨される中強度の有酸素運動
・540億米ドル : 運動不足による世界的な医療費の増加
・33.8% : 日本国内で友人や仲間と行うスポーツ人口の割合

A Harvard researcher says working out with friends is the best way to meet your goals

Opinion

マインドフルネスと心の健康

日々積み重なるタスクや、人間関係、プライベートの過ごし方など、現代人の悩みは数えきれない。モノで溢れかえり、情報の行き来も複雑化した世の中であなたは、「息をつく」時間が取れているだろうか。行き詰まってしまい、パンク状態に陥ってしまった時におすすめしたいのが「マインドフルネス」である。

マインドフルネスとは、インドの仏教やヨガの文化において古くから伝えられている瞑想に由来した考え方である。そもそも、「瞑想」の英訳 “meditation”はラテン語の”meditaus” (熟考した)が派生したものであり、「落ち着いた状態で考えること」が本来の語源だそうだ。

一言に瞑想といっても、その方法は多岐に渡り、座って行うものや滝行のようなもの、そしてダンスのように動きながら行うものもあるという。

近年、瞑想の効果が科学的に証明されつつあり、関心が高まっている。アメリカ国立補完総合衛生センター(NCCIH)の研究によると、2012年から2017年にかけて瞑想を行うアメリカの成人人口は約3倍に急増した。瞑想は、痛みの軽減や、不安や鬱状態の解消、血圧を下げる効果や禁煙者にも有効であると科学的に立証されている。

ハーバードビジネスレビューによると、瞑想法は脳認知科学の視点から考えると集中力を訓練するものであり、「マインドフルネス」は健康のみならず、パフォーマンス向上にも寄与する。「マインドフルネス」で今起きていることに全意識を集中させることを繰り返し行うことで、脳の回路の一部が強化され、集中力の向上につながる。「マインドフルネス」はいわゆる「心の筋トレ」のようなものだ。

私自身この一年ほど、ヘッドスペースがNetflixで提供しているコンテンツを利用して、息抜きのように瞑想をしている。やることが多すぎて目の前のことに集中できないときや、忙しい一日を過ごした夜など、その日の状態に合わせた瞑想法を音声インストラクションに沿って行う。初めは瞑想の効果に懐疑的であったものの、呼吸を意識することが文字通り「息抜き」として日常の小さなやすらぎとなっている。

コロナ禍において家の中で作業をすることが多くなった。本来リラックスするための家が「作業場」として使われることで、プライベートと仕事の境界線が曖昧になりつつある。プライベートと仕事が混ざり合う中でもメリハリをつけて集中するためのルーティンとして「マインドフルネス」を是非試してみて欲しい。

サウナから考える習慣化:「ととのう」というインセンティブ

「運動が、心や体の健康、QOLの向上に寄与することを示す数多の研究にも関わらず、75%の人々は十分な運動をしていない。」そんな指摘に耳が痛くなる。ピチピチ?の20歳にも関わらず、昨年還暦を迎えた母より体力の無い私は、間違いなく運動不足のマジョリティ、その中でもとびきり不健康な部類に(不名誉ながら)入るだろう。

もちろん、運動、ひいては健康的な日々を過ごすメリットは理解しているつもりだ。BMC Medicineによれば、(私のように)フィットネスレベルの低い人々は、測定値の高かった人々と比べ、うつ病を発症する可能性が倍になるという。また、不摂生な食事が原因で、寿命より早く亡くなる人は毎年1100万人にのぼる

にも関わらず、重い腰を上げられないのは、(言い訳じみて聞こえるかもしれないが)未来の大きな利益より、目先の小さな利益を優先してしまう人の性質だ。行動経済学の領域で「現在志向バイアス」といわれるように、私たちにとっては、数十年後に尽きるであろう寿命をどれだけ伸ばせるかといった深遠な命題より、美味しいご飯でも食べて「いま」を楽しく生きることの方がはるかに重要だ。

そのため、健康的な習慣を定着させるには、健康のメリットにかわる、より短期的で分かりやすいインセンティブを提示する仕組みが必要だ。

このような報酬制度は人為的に設計できる。たとえばNIKE RUN CLUBはランニングのゴールを、健康になるという抽象的なものから、目標走行距離との差分を縮めること、あるいは仲間との競争に落とし込むことで人々をモチベートし、ポケモンGOは、ウォーキングの報酬をポケモンの捕獲という冒険的な体験に置き換えている。

あるいは、短いスパンのインセンティブを自然に提示しているケースもある。その例として、マイブームが到来しつつあるサウナを挙げたい。近年にわかに注目を集めるサウナだが、『LIFE SPAN:老いなき世界』という書籍では、サウナの利用が健康維持に寄与することを示唆する研究が複数紹介されている。

とはいえ、サウナに入る主目的として「健康」をあげる人は少ないだろう。かくいう私も年初にデビューを果たしたサウナ初心者だが、サウナと水風呂を行き来する中で「ととのう」独特な感覚を忘れられず、沼に片足を突っ込んでいる。同様に、サウナ愛好家にとって「ととのう」ことが目先の利益となり、長期的な健康習慣の形成に寄与していると考えられる。

長期的な健康より目先のにメリットに飛びついてしまい罪悪感を感じるよりも、そのような習性をうまく利用して習慣形成に繋げることが、健康的な日々を過ごすための第一歩ではないだろうか。

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