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映像コンテンツの未来

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映像コンテンツの未来

動画配信サービス大手のNetflixは、ビデオゲーム市場への参入を計画している。同社の有料会員数は21年6月末時点で、2億900万人にのぼるが、米国とカナダ、合わせて約40万人の会員を失うなど、一部地域では市場が飽和状態にあり、成長し続ける方法を模索してきた。

Netflixは、これまでも『Black Mirror: Bandersnatch』や『You vs. Wild』、『Headspace: Unwind Your Mind』など、視聴者の選択によってストーリーや体験が分岐するインタラクティブコンテンツを制作している。より双方向性の高いビデオゲームには、既存ユーザーのエンゲージメントを高め、新たなユーザーを惹きつける効果が期待される。

Apple Arcadeや、Amazon Lunaなど、ゲームストリーミングに進出するライバルは多いが、追加料金を課すことなく、映像コンテンツもビデオゲームも同一プラットフォームで配信し、競争優位の確立を目指すという。

過去には、外部の制作会社とライセンス契約を結び、人気シリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』をゲーム化したこともあるNetflix。今後は社内のゲームチームを増強する予定で、自社IPを活かしたゲーム開発にも乗り出していくかもしれない。

他にも、アパレルブランドとNetflixオリジナル作品のコラボグッズを販売し、その世界観に浸れるECサイト「Netflix Shop」などを立ち上げている。もはや映像コンテンツの楽しみ方は画面を見続けるだけにとどまらない。

 

BACKGROUND

1,797億ドル:Netflixが狙うビデオゲームの市場規模(2020)

1,000億ドル : 映画産業の市場規模(2019)

Netflix Plans to Offer Video Games in Push Beyond Films, TV

Opinion

他のひとの人生を生きる

最近どれだけ忙しくとも、週に1度は映画館へ足を運ぶようにしている。

大きなスクリーンを前に体験する世界は格別だ。物語に浸れば、90年代LAの街中をスケートボードで駆け抜けたり、逆行世界で国家任務に関わったり、あるいは宇宙世界を救うチームの一員にもなれる。「もしかして、自分も手首から蜘蛛の巣を出したり、伝説のハンマーを持ち上げることができるのでは?」・・そんな気さえしてくる。「映像を視聴する」ということは自分を別世界に置くということであり、カメラレンズはその世界における自分の眼差しだ。

またハイライトの記事にもあるように、映像コンテンツはもはや一方向のコミュニケーションに留まらない。Netflixのプログラム「You vs Wild.」「ブラックミラー:バンダースナッチ」では、別世界の登場人物として傍観するだけでなく、コンテンツの操作を通じて主体的に物語を体験することが可能になった(もちろんパターン化されたものにせよ)。さらにビデオゲームに視野を移せば、PS4でプレイできる「Detroit: Become Human」など、より複雑で詳細なシナリオ分岐で別世界を体感できるコンテンツもある。

先週参加したあるカンファレンスで「(なぜ自分は)他のひとの人生を生きられないのか?」というトピックスを耳にする機会があったのけど、その際、先の視聴体験となにかが交差する感覚を得てハッとした。というのも、ヒトには自分と異なった人の世界や物語を求め、愛しみ、共感するという本能がインストールされているように感じられたからだ。

共感の物語は文字が刻まれた石版から巻物、書籍、フィルム、そしてVR/ARといったミラーワールドやメタバースへと在り方を変化し、その宇宙を膨らませる。しかし、その根底に共通するのは「他のひとの人生を生きる」ということに対する本能や願望のようなものが、万有引力のような作用として働いているからではないか。僕は思わず鼻をムズムズさせてそう考えた。

横断的なエンターテインメントへ

6年前、映像体験に劇的な変化をもたらしたNetflixの日本上陸は記憶に新しいだろう。(当初は「黒船」などと表現されていたが、創業者Reed Hastings氏は初回から配信された『Orange is the new black』をもじって「我々は黒船ではなく希望をのせたオレンジの船」とコメントしている)

私自身もNetfilxユーザーであり、登録年月を調べてみると2016年11月とかれこれ5年近く使っている。それ以前の映像エンタメといえばテレビかYouTubeに限っていたが、今ではテレビを持たない生活にまで変化した。映画に関しても映画館に足を運ぶ機会は滅法少なくなった。映画館には十分満足できる映像と音響のクオリティがあるのに、なぜ私の体験方法は変わったのか。

理由としては2つある。1つ目はハズレを引いてもすぐさま次の映画を探すことができること。映画館だと費やした時間・お金への見返りを求めてしまうが故、意地でもエンドロールまで観てしまうことになる。そして2つ目は家という1番落ち着く場所で、食事やお酒を楽しみながら鑑賞できること。映画とピザの組み合わせはもはや定番となっているのではないだろうか。服装にだって気を使う必要はない。このように新しい映像体験の登場は、私自身の体験も少しずつ変化させてきた。

そして2020年、新型コロナウイルスの影響を大きく受けた映画館業界でも映像体験の変化が起きている。米・デニスにある映画館Cape Cinemaでは近隣の飲食店と提携し、ピザやデザート、お酒やコーヒーなどの提供を開始した。Cape Chinemaの最高経営責任者Josh Mason氏はこの取り組みについて、「お客様はひとつの空間ですべてを楽しむことができる」と述べている。以前は映画館に来る前に別の場所で食事をしていた人々が、食事をしながら映画の世界に浸る。彼はそんな食事と映像の体験をつなぐことこそが、映画の将来だと考えている。

映像コンテンツが日常とシームレスになった今日では、特に映画館に求められるものがより幅広くなったように感じる。映像・音響の「見る・聞く」体験はもちろん、その前後・最中のより横断的なエンターテインメント体験へとシフトしていくのではないか。

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