Scanner

ENGLISH

これからのエルダーケア

Focus

パンデミック禍の隔離とその功罪

パンデミック時、ニューヨークの高齢者は特に外出を控えるよう促されたが、それは思わぬ弊害を招いた。ニューヨークでコロナウイルスが感染拡大し始めたころ、老人ホームはCDC(米国疾病予防管理センター)の指導に従い、入居者を完全に隔離し、訪問者の面会も禁じた。 この結果、認知機能や身体機能、社会的コミュニティの縮小などにより、高齢者がすでに感じていた孤独感はさらに悪化の一途をたどった。AARPニューヨークの州ディレクターであるBeth Finkel氏は、「孤独であることは、1日にタバコを15本吸うことと同じである」と語る。実際、心臓病や脳卒中、認知症の発症率を高め、うつ病や不安症の原因になるという。

多くの高齢者施設はzoom等のビデオ会議サービスの導入を進めているが、中には使いこなすのが難しく感じる人もいる。Yang Hu氏の研究では、パンデミックの間、社会的な接触を全くしないでいるよりも、デジタルのコミュニケーション手段を使う方がフラストレーションが溜まる高齢者もいることが明らかになった。

ニューヨーク市は、高齢者のデジタルディバイドを埋めるため、技術トレーニングサービスや1万台のインターネット接続可能なタブレットを無料で提供。また、非営利団体は市と協力し、エクササイズクラスや教育クラスなど、様々なバーチャルプログラムの活動を実施した。これらが実を結び、高齢者間のデジタルディバイドはある程度解消されたと報告されている。一方で、高齢者ケアの専門家の多くは、心身の健康には直接会って交流することが最も有益であると考えている。

パンデミックは、高齢者のデジタルディバイドを埋めることの重要性と、社会的交流の価値を改めて考えるきっかけになったのではないだろうか。

Living in isolation has saved – and harmed – New York’s seniors (CITY&STATE)

Opinion

ペットケア市場の現在

幼い頃、夏休みには母方の実家に帰るのが我が家の恒例行事だった。

実家の門をくぐるときの、祖父母・従兄弟家族・柴犬のマル・三毛猫のミケ(そのままだ!)の暖かい出迎えは今も記憶に残っている。残念ながら今は祖父母とも亡くなってしまい、晩年には2人とも認知症が進み介護が求められた。そんな祖父母を支えたのは、従兄弟のフィジカルなケアであり、同時に”モケモケ”とした小さな家族たちのメンタルケアだったと思う。

本当記事ではアメリカのペット業界の現在の活況が紹介される。シニア層はもちろん若い世帯まで、パンデミック禍の孤独緩和を背景にペットの人気は加速する。過去18か月でペットとの養子縁組は急上昇、ペットフードのコマースサイト「Chewy」は第4四半期の売上高を51%増加させる。パンデミック発生前、すでに1,000億ドルだったアメリカのペットケア市場は、今後10年間で3倍に成長するという見通しもある。

市場の活況とともに飼い主の負荷を軽減するサービスが増え、また伴侶であるペットの幸せをサポート選択肢も多様化する。犬の健康をトータルケアする「Barkyn」「Small Door」といったスタートアップは投資家から期待も大きい。

ヒトとペットの付き合いは長く、特に犬との関係は数万年前にも及ぶと示す研究もあるが、市場の活況を見るにより今後の数十年でより親密を増すことになりそうだ。いつか自分もシニアになった時、モケモケの家族を迎えることができたら…。そんな未来を想像する。

Pet Startups Are Having a Field Day (WIRED)

これからのお金の話をしよう

スタンフォード長寿センターとミネソタ大学の研究員が、信頼できる人にお金を管理をしてもらえるためのロードマップ「Thinking Ahead Roadmap」をリリース。認知症の兆候として言われているお金の管理が難しくなる前に、代わりに管理してくれる適切な人物を選び、必要な法的権限(委任状)を与えるステップがまとまっている。

その他、親が歳をとったことを認めたくない子どもや、お金の話をするのが苦手な人々に向けた、代理管理の重要性を説く記事も掲載されている。お金というセンシティブな話題だからこそ、当事者・関係者の双方が問題に向き合える仕組みづくりが重要なのだと感じる。

How to Keep Your Money Safe in the Future (TheStreet)

エルダーケアと交通機関

加齢によって筋力が低下した高齢者にとって、短い距離でも移動することはかなりの負担がかかる。介護者をターゲットとしたエルダーケアのウェブサイトDaily Caringは、シニアが活用できる交通手段をまとめている。記事では、公共交通機関はもちろん、Lyftなどの若者も気軽に利用できるライドシェアサービスなどをはじめ、高齢者向けに展開されたサービスもいくつか紹介している。例えば、保険会社や医療施設と連携し、保険給付対象ではない医療輸送を行うアプリなどもあった。

このような高齢者向けのアプリやサービスが充実することで、高齢化社会における介護のハードルが下がることが期待できるだろう。しかし、高齢者が利用しやすいデザインが施されているか、これはまた別問題である。高齢化に向けてサービス開発と同時にデジタルディバイド対策についても考える必要がありそうだ。

6 Affordable Senior Transportation Options (DailyCaring)

高齢者ケアとデジタルリテラシー

IT技術の進歩が著しい昨今、私たちの生活は日々便利になっている。そんな前提に疑問を抱くことがある。日本では、総人口のおよそ29%を占める高齢者のうち、どれだけの人がテクノロジーの恩恵にあずかれているのだろうか。デジタルディバイドは高齢化社会において決して軽視できない問題だ。

そんな中、日本と同じ超高齢化社会に突入しつつある中国では「タイムバンキング」という興味深い取り組みが行われている。これは、仕事をリタイアして間もない人々が、後期高齢者のデジタルリテラシー向上に寄与するもので、デジタルディバイドの解消はもちろん、前期高齢者の雇用創出や認知症予防など、さまざまな副次的効果も期待できる。

Aging China Relies on ‘Young Old’ to Take Care of Oldest Seniors (Bloomberg)