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公共とアクセシビリティの実現

Focus

公共図書館のあたらしい在り方

ケンブリッジ公共図書館は初となる、生活に問題を抱える人々を支援する「ソーシャルワーカー」の採用を実施。採用されたマリー・マシュー氏の仕事はもちろん、本と人をつなぐことではなく、それ以外の目的で図書館を訪れる人々を支援することだ。例として、ホームレスの人々が利用可能な公共サービスの紹介や、移民の人々が必要とする書類作成のサポートなどが挙げられる。

このようにソーシャルワーカーを採用する図書館の数は、過去10年間でかなり増加している。2013年には米国内で10箇所だったものが、2019年には100箇所を超えるまでになった。

マシュー氏は「情報の中心地である図書館を、すべての人々が自由にアクセスできる場所にしたい」と語る。収入や年齢、地位や能力に制限されることなく、人々に情報を提供する図書館こそ、真の公共空間なのかもしれない。

A New Chapter for Public Libraries: Helping people in need

Opinion

マイノリティのための公共政策

BLM運動やアジアンヘイトの高まりをうけ、再び大きな注目を集めている人種差別問題。抗議の声を上げる人々はこれまで、アメリカの都市交通政策からも排斥されてきた。

1950〜60年代にかけて建設された高速道路は差別的なインフラ整備の一例だ。人種的マイノリティの居住地は故意に孤立させられ、社会・経済的な基盤が大きなダメージを受けた。

環境学者のロバート・ブラード氏は、このような状況を「Transportation Racism」と表現する。

例えば、ミズーリ州・セントルイスでは、デルマー通りを境に白人とアフリカ系アメリカ人の居住区が分断され、所得や教育、健康に深刻な格差が生まれているという。

ハーバード大の研究者は、「デルマーデバイド」の調査結果を踏まえ、健康状態の予測に遺伝コードより郵便番号の方が適していると結論づけた。

バイデン大統領は、孤立した地域の再接続に200億ドルの投資を提案しており、1兆2000億ドルにのぼるインフラ法案の資金がどのように割り当てられるかに期待が集まっている。

人種差別問題と聞くとどこか馴染みの薄いトピックに思えるが、日本国内でも雇用などの機会を得ることが難しい地域/人々は数多存在し、対岸の火事とはいえない問題だ。

マイノリティの人々と様々な「機会」を物理的にもデジタルでも繋げていくことが、これからの「公共」に求められていくだろう。

Removing urban highways can improve neighborhoods blighted by decades of racist policies (THE CONVERSATION)

チェスが育む、地域社会と教育

ドイツやオランダをはじめとする欧州の国々では、巨大なチェスが設置された公園を見つけることができる。1500年以上の長い歴史を持つチェスはいま、都会で忙しい生活を送る人々に精神的、社会的健康をもたらすツールとなっている。

言語や年齢、性別、身体能力にかかわらずプレイできるチェスは、人々の出会いの場となり、つながりを育む役割を担っている。特に、高齢者の孤独感解消への効果は、地域社会における重要な意味を持つ。また、空間認知のトレーニングにもなり、アルツハイマー病の予防にも効果的だ。

また、チェスが持つ子どもたちへの教育的効果も、様々な研究で明らかになっている。ルールの重要性や自分の行動結果の理解、想像力やコミュニケーション能力といった様々な知識を学ぶことが期待されている。

「遊びから学ぶ」という言葉は、子どもだけでなくすべての世代の人々にとって重要な意味を持つように感じる。公共という言葉の認識は1つではないかもしれないが、共通のコミュニケーションツールを介して人々が交じり合うこの空間は、素晴らしい公共モデルの1つだろう。

What Role does Chess Play in Public Spaces? (arch daily)

ワクチン普及と公共施設利用

アラブ首長国連邦ではワクチン接種率が対象者の93%に達し、緊急危機災害委員会が市民の健康を守るための方針として、公共施設利用をワクチン接種者に限定する方針を発表した。具体的な施設としては、飲食店や大型商業施設、テーマパークはもちろん、体育館や娯楽施設など広範囲に及んでいる。なお、日用品を卸売りするスーパーや薬局などは除外されているものの、学校や保育所、研究機関などもこの制限の範疇となっている。この制限は大部分の人にとっては問題がないものの、残りの7%の国民にとってはかなりの公共施設利用を制限されることになる。

ヨーロッパでもワクチン接種を受けていないことによって飲食店の利用ができないことが多い地域もあるという。日本でも新型コロナウィルスのワクチンの普及は広まりつつある。一方で、ワクチンを打つことを国民全員が前向きに捉えていないことも事実である。異例の事態に見舞われる中で開発されたワクチンに対して抵抗や不信感を抱く人々も多い。ワクチン接種をするかどうかに関して、国民に対して選択の余地が与えられるべき中で、このような制限によってワクチン接種に対して見えない圧力がかかっているようだ。今の公共施設は、全ての人が広く平等に利用できるものと言えるだろうか。

公共施設への立ち入り、8月からワクチン接種者に限定 中東アブダビ (CNN)