テレコミュニケーションと余白の必要
Focus
いま求められる、新しい社交の場
パンデミック発生から早20ヶ月。私たちの生活様式は大きく変化した。
ワークスタイルにもその変化は生じており、短期間で転職を繰り返すジョブホッパーが増加している。
彼らの多くは、実際に同僚と会ったことがない。すべてのコミュニケーションがビデオ会議やチャット上で行われ、職場や同僚、仕事とのつながりが希薄化している。そうして愛着が薄れた結果、転職へのハードルが下がっているという。米国労働省によると、パンデミック後の離職者数は記録上最多の390万人/月に上る。
企業には今、仕事におけるコミュニケーションを生み出す環境をいかに築くかという対応が求められる。
フェイスブックは2020年11月、リモートファーストな企業となるべく”Director of Remote”という役職を新たに設けた。リモートワーカーの人間関係や福利厚生など、様々なサポートを行う役割を担っている。
スタンフォード大学の研究員Jen Rhymer氏は、社交の場を設けることが有効だと語る。グループ活動の実施や、たわいもない会話をできる空間・時間の確保が必要だ。
また、カメラをオンにしてビデオ会議に参加するのも、モチベーションを高めるためには効果的だろう。もちろんこれには、相手への配慮を欠くことなく、弊害の可能性があることも理解しておく必要があるが。
日本では10月から全国的に緊急事態宣言が解除された。今後はコロナ以前の働き方に戻る企業、ハイブリッドな働き方を採用する企業など様々だろう。少しずつ過去の日常へと戻りつつある中、求められるコミュニケーションの変化を見逃さないようにしたい。
Opinion
対面か、リモートか、はたまた
対面か、リモートか。
教育現場でも職場でも、これほど白黒つけがたい問題は珍しいだろう。
リモートワークに対するスタンスは、企業によってまちまちだ。
対面コミュニケーションの創発性などを重んじるアップルが、従業員に”最低”週3日の出勤を促す一方、デジタルファーストを標榜するSlackは、役員の出社頻度を週3日”以下”に抑えるよう求めている。
個人的な話をすると、1年半ぶりの対面授業に心躍る一方、日々の通学はやや煩わしい。
案外、この「どっちつかず」というのが、働く人々の本音かもしれない。
英フィンテック企業 Revolut の内部調査によると、従業員の98%がリモートワークによく適応していると回答したものの、依然として65%の従業員はオフィスへの自由な出入りを求めているという。
この結果を受け、同社は、新しいリモートワークプログラムを提供しつつ、コラボレーションに特化した空間としてオフィスを捉え直しているという。
対面とリモート、軸足がどちらにせよ、コロナ禍で問い直された「直接会うことの意味」をベースに、対面でのコミュニケーションや人が集まるオフィスを再設計する必要があるだろう。
近接性バイアスにどう向き合うか?
10月の緊急宣言の解除以降、周囲から徐々にオフィスへ通う機会が増えているという声を耳にする機会が増えた。
海外ニュースを眺めていると、日本国内だけでなくシリコンバレーをはじめ世界的なワークスタイルの流れとしても、リモート/オフィスを並列した「ハイブリッドワーク」が主流になりつつあるようですが、そこにはまだまだ課題もあるよう。その中でも特に着目したいのが「近接性バイアス」への対応。
近接性バイアスは、リーダーの近くにいるスタッフは他の従業員よりも優れた労働者として認識される現象で、職場機会の公平性やモチベーション維持にも影響を与える。世界中のリーダーはこの課題に新たなアプローチをとる必要がありそう。
記事ではオンライン会議/タスク管理の透明性を高めるツールの導入、企業文化の構築やコミュニケーションの場づくりといった話題に触れられる。もちろんシステム/環境づくりも大事なのだけど、個人的な体感としては日々の打ち合わせをいかにコーディネートするかに重要性を感じてる。
私自身、オンライン会議のファシリテーション機会も多いのだけど、その際、特に意識しているのは「必ずアイスブレイクの時間を設ける」「全員から話を聴く」の2つ。アイスブレイクは全体の10〜20%の時間はかけるようにしていて、話題は全員が共通して話せるポジティブものなら週末の過ごし方/最近あった嬉しかった出来事などなんでも。その後の議事では、5分以上黙っている人がいないよう全員に話を聞き「だれでも話してOK」な空気感をつくっていく…など。シンプルだけど、チーム内の共通項をもうけ、いい空気を醸成するのにこの2つは欠かせないもの。
最近では事業や職場へのDEI(多様性・平等性・包括性)に対する意識の高まりも感じるのだけど、人種や性別といった課題だけでなく、労働環境や共有体験の違いみたいな要素も今後は概念の中に含まれていくんじゃないか?近接性バイアスへの対応からはそんなことも考えさせられます。
不完全なことばが生み出す共創
「適切な」テキストコミュニケーションとは?
コミュニケーションのデジタル化が進む中で、テキストに求められるエチケットも変化している。
10代を中心とした若い世代では、カジュアルな内容の文末にピリオドが打たれていると、相手との距離を感じ不安になるという。つまり、文法としては完璧でない表現が、ある種の心地よさを生み出しているのだ。
ちょうど最近読んだ『伝え方が9割』という本の中でも、似たような事例が紹介されている。「愛している」と「愛してる」。教科書的に正しいのは前者だが、相手の心に届く言葉は後者。これもまた、完璧ではない表現が相手との関係を結んでいる。
その他、絵文字の活用も効果的だろう。オタワ大学が実施した絵文字の影響に関する調査によると、ポジティブなメッセージにポジティブな絵文字を組み合わせると、送信者の暖かさを感じるだけでなく、情報処理速度も向上するという。ネガティブな絵文字も同様に大きな効果を持つため、こちらは基本的に使わないのが安全だろう。
このように、形式的には正しくないものでも、場合によっては「適切な」コミュニケーションとなることもある。もちろん、相手との関係や状況に合わせたさじ加減は必要だ。ぜひ自分と相手との間に生まれる「適切」を探してみてはいかがだろうか。
生産性と有意義性の天秤
朝起きてコーヒーと共にパソコンを開けばたちまち家は職場や学校と化す。今では普通となったテレワークの概念だが、直接顔を見たこともないような人とも仕事をする機会が増えたのだから、なんとも不思議な世界になったものだ。つい2年ほど前まで毎朝眠い目を擦って電車に乗って通学をしていたことが俄かに信じ難い。
今やリモートワークの是非は世界中の議題となっている。その中で、スタンフォード大学はリモートワークによって生産性が13%ほど向上する研究を発表している。さらに、ConnectSolutionの研究によると、月に数回のリモートワークが最大77%も生産性の向上につながるという。
ここで今一度立ち止まってウェルビーイング視点での仕事の有意義さである。現在私が留学しているスウェーデンも規制緩和が進む動きがありつつも多くの授業がオンライン開講となっている。その中でグループワークやフィールドリサーチで他の学生と集まると、やはり対面のコミュニケーションの楽しさや有意義さに心が躍る。
一般的に多くの人は人生の30%ほどの時間を労働に費やしているという。この人生の30%を効率化の波に飲まれて無機質なものにしてしまっては少し寂しい気もする。昼休みに友達や同僚と今日のランチや週末の予定を話す時間があってもなかなかいいものではないか。