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気候変動という健康危機

Focus

増大する災害と求められる対策

世界気象機関 (WMO) が発表した最新のレポートによると、過去50年で気象関連の災害発生件数は5倍に増加している。

1970年から2019年の間に約11,000件の災害が記録されており、死者数200万人、経済損失は3.6兆ドルに上ると推定される。

このような災害は人命や経済損失にとどまらず、世界中で住めなくなる地域が増える可能性も示す。オーストラリアのシンクタンクIEPの調査では、2050年までに12億人が気象関連の災害によって避難する可能性があると予測している。

これらの災害の大きな要因となっているのはやはり地球温暖化だ。国連IPCCが発表した最新のレポートでは、「温暖化の原因は人間の活動である」と断定表現が初めて用いられるなど、その重要性や緊急性は増している。実際、世界各地で熱波や干ばつ、森林火災、熱帯暴風雨などがより高い頻度で発生している。

その一方で、早期警報システムや災害管理の向上により、過去50年で死者数は約1/3に減少している。1970年代には年間平均5万人が亡くなっていたが、2010年代には2万人を下回るようになった。

しかし、これらのシステムが十分に整備されていない国は多数存在する。先進国と発展途上国の間には大きなギャップがあり、実のところ死者数の約91%が発展途上国だ。

災害の発生頻度や規模に合わせたリスク管理への投資、さらに災害による気候難民問題に備え、国を超えた協力関係の構築は今後ますます求められていく。

Weather Disasters Have Become 5 Times As Common, Thanks In Part To Climate Change (NPR)

Opinion

自然をいかしたインフラ構築

今年7月に中国河南省で発生した、1000年に1度と言われるほどの記録的豪雨。その2ヶ月後には米ニューヨークを襲ったハリケーン「アイダ」による200年に1度の大雨。温暖化による気象災害は、その頻度を増して私たちの生活を脅かしている。

そんな中、オランダでは洪水に対して、従来の堤防などとは違ったアプローチが講じられている。それは、川の周りに水を浸透させるための緑地を人為的に作り、都市部に流れ込むのを防ぐというものだ。

7月に起こった大規模な洪水では、実際にひとりの死者も出ていない。氾濫した川の水は吸収され、水位は約33cm低下したという。

このプロジェクトを立案した水文学者のファン・デル・ブレック氏は「川には自然本来の広い空間が必要であり、私たちはそれに抵抗すべきではない。」と語る。

現に川本来の環境を取り戻したその地域には、今まで見ることのなかった野生の動物や鳥などが生息する光景が生まれたという。防災という側面だけでなく、より多くの自然を生み出すことにもつながっているのだ。

先のハリケーン「アイダ」の発生後にも、自然環境を社会の課題解決に活用するグリーンインフラの重要性が説かれている

具体的には、舗装された道路を土に置き換えたり、道路脇に水を浸透させるための緑地をつくる、といった対策だ。特にコンクリートの多い都市部では、これらのインフラが防災と自然保護の双方に大きな効果をもたらすだろう。

災害を減らすための温暖化対策が大義なのはもちろん、災害との共存、自然との共存を考え実行していくことも同じくらい重要だと考えられる。

To Avoid River Flooding, Go With the Flow, the Dutch Say (The New York Times)

山岳地帯を脅かす湖

ヒマラヤなどの山岳地帯では、近年洪水によって多くの人々が犠牲となっている。この洪水は雨による河川氾濫ではなく、氷河湖決壊洪水と呼ばれるものである。氷河湖とは気候変動などの理由から氷河が溶けてできる湖のことである。氷河湖決壊によって突然大量の水が狭い河川に放出され、時に数日にも渡って下流域を直撃し甚大な被害を及ぼす。

1940年以降の氷河に関連した洪水による被害者は推定3万人以上にものぼり、世界的に大幅に後退している氷河によって年々氷河湖決壊の被害も大きくなりつつある。

温暖化の影響でヒマラヤの氷河湖水量はこの60年ほどで50%も増加したという。グリーンランドが過去25年で失った氷河の総量は4億2000万トン以上にものぼり、富士山約4.2個分の氷河が失われている。

スイスなどの一部の国では、脅威となりうる特定の湖の水を抜く取り組みが行われているものの、世界でそのようなプロジェクトが行われているケースはごく稀であるという。

氷河の融解がもたらす問題が一見私たちの生活からかけ離れていたとしても水面下で繋がっている。そう言った面で、気候変動を身近に感じることがなくとも、深刻化しつつある問題に目を向けることは私たちの生活を見直すきっかけとなるだろう。

Mountains, Ice and Climate Change: A Recipe for Disasters (The New York Times)

気候変動と植栽のデザイン

いよいよ寒さが厳しさを増してきたデンマーク。氷点下、とまではいかないものの、湿度が高いため、実際の気温以上に体が冷え込む。

時折、現実から目を背け、夏のリゾート地へ思いを馳せる。青い海、白い砂浜、そして生い茂るヤシの木。しかし、そんな心象風景もいずれ、変わっていくかもしれない。

フロリダ州南部、全米屈指のビーチリゾート・マイアミで、ヤシの木より優先的に他の樹木を植えるプロジェクトが進んでいる。炭素の貯蔵能力が低く、日陰も作らないヤシの木にかえて、CO2の吸収力が高く、樹冠も大きい、そして天災に強い樹木を増やすのが狙いだ。

2050年には、公共の樹木に占めるヤシの木の割合が25%まで下がっている計画だという。

街路樹の環境効果を数値化・公開するNY市の Street Tree Map も話題となったが、データに基づき、より気候変動の緩和に寄与する樹木を選定して植える試みは今後も増えていくだろう。

とはいえ、森林火災やハリケーンなど、様々な自然災害からの保護もセットで進めなければ、せっかく固定した二酸化炭素も再び放出されてしまうことに注意が必要だろう。

Florida is ditching palm trees to fight the climate crisis (CNN)