私たちの公共を築くために
Focus
シームレスな公共スペース
公園や広場といった一般的な「公共空間」の概念は、パンデミックによって変化している。『domus』の記事では、アメリカの街路構造ガイドラインを策定する『NACTO』のデザイン・アソシエイトディレクター、ファブリツィオ・プラティ氏と、3人の建築家が公共空間の再設計について語っている。
例として挙げられる道路の利用目的はかつて、「目的地までの移動」と捉えるのが一般的だった。しかし、自転車や徒歩での移動が「運動」や「街の散策」といった側面を持つようになった結果、道路という空間を「目的地までの移動」という1次元的なカテゴリーで考えるのが難しくなっている。
都市全体で考えても、ストリートで行われるコンサートやパーティー、カフェや公園のオフィス活用など、空間活用の概念はより拡大している。
道路は移動するためのもの、公園は人々がくつろぐためのスペース、といったある種の区別はもはや意味をなさないのかもしれない。公共空間はシームレス化し、すべての人に開かれた空間が時代とともに変化するのだ。
パンデミックという不測の事態が明らかにした公共空間のユートピア。この変化を一時的なものから永続的なものへと発展させるのが今後の課題だ。
Opinion
公共とコミュニティの自立共生
11月の始まる今週、衆議院選挙の結果は記憶に新しい。
投票を前に政党ごとの施策や争点となる課題、それに対する候補者の姿勢などを比較する中で感じたのは、『どこまでをパブリックドメインの課題として扱うか』という線引きの難しさだ。もちろん誰一人として置き去りにしない政治を望んでいるものの、属性やコミュニティに応じた細かなケアと国策レベルの施策に優先順位をつけ、天秤にかけるのは率直に言って困難な判断だ。
冒頭で紹介した記事では、共同住宅に住む著者 Judith Shulevitz 氏が自身の生活体験を通じて感じたコミュニティや公共に対する考察がまとめられる。「共同住宅」の概念で興味深いのは、コンドミニアム形式で空間を共有して支え合いながらも、個々の経済や生活という点では独立している点であり、コミュニティを支えるのは孤独・格差・差別といった社会的障害に対する価値観と、その課題を解決するために必要な相互サポートへの共通信念だ。
衆院選挙の結果を受け、OSとしての国家がカバーできない領域が増える以上、アプリケーションとしてのコミュニティに多くの機能が求めらる未来を想像する。それは「公共」として認知される概念の範囲あるいは濃度のようなものが変化していくことにつながる。数十年後の未来では、公共の概念は国/地域といったフィジカルな物差しではなく、コミュニテイを単位に測られていくんだろうな。そんなことさえ感じる。さながら、共同住宅の中でシェアされる空間や設備、あるは共有理念のように。
ひとのための道路
もしも、道路が車のためではなく人々のための再設計されたら?
そんな疑問から生まれた“Park(ing) Day”というイベントが、2005年のサンフランシスコを皮切りに世界各地で開催されている。人々が路上駐車スペース (Parking) を、遊びやアート活動を行うための小さな公園 (Park) に変える日だ。人間を都市計画の最前線に置くことを目的に、毎年9月の第3金曜日に開催されている。
その方法はオープンソースとして公開されており、世界各地で独自の進化を遂げている。NY・オナイダでは、路上駐車場が犬の遊び場に。豪・ブリスベンではハチやチョウが好む植物を設置し、生物多様性にスポットライトが当てられた。
本記事のアトランタで開催されたイベントでは、食事のできるテーブルセットや巨大なジェンガで遊べるスペースなど、バラエティに富んだ活用方法を見ることができる。
開催の数ヶ月前から地域住民に協力を仰ぎ、「どのようにコミュニティを成長させていくのか」「イベントを行う通りはどのような役割を果たすのか」といった議論が地域コミュニティの間でなされたという。
このように行政が管理する道路において、民主的に公共空間を創造するという試みは、そこで生活する人々をエンパワーすることにつながる。
Park(ing) Day は日本でも開催されているため、約1年後の次回開催に参加してみるのは面白いかもしれない。
街の愛着を高める場
サウンドアーティスト権デザイナーとして活動しているスズキユウリによって、ロンドンのブラウンハートガーデンズにポップなインスタレーションが制作された。
これはソニックブルームと呼ばれ、カラフルなホーン型の伝声管が花が咲くように配置されている。伝声管を通じて花に見立てたホーン同士が繋がっており、これを介して糸電話のように離れた相手とコミュニケーションを取ることができる。
また、いくつかのホーンは上向きに設置されており、街の環境音を拾うことができる仕組みとなっている。
音という視点で街と人との繋がりを考えるのは実に面白い。視覚的な要素だけではなく、その街の匂いや音などがその街の記憶や愛着になることがある。旅行から帰ってきた際に、自分の街を五感で感じ、帰ってきたことにほっとする。
コロナ禍で街と人との関係性は大きく変化した。パンデミックが収束に向かう中で、今一度人と街とを新たな形で繋ぎ直し、街への愛着を高める場として公共スペースのあり方を考えたい。
持続可能な公共インフラを築くために、わたしたちができること
10月末、衆院選を控え、環境問題にも注目が集まっていたように思う。そんな中感じた疑問は、選挙で一票投じる以外に、公共の気候変動対策に一個人が寄与できる方法はないのだろうか、ということだ。
ロンドン北部に広がる街、イズリンドンは個人投資家向けグリーンボンドの発行を通し、地域住民がCO2排出削減や気候変動の緩和に寄与する機会を提供しようとしている。 調達された資金は、EV充電スタンドや公共施設のソーラーパネルなど、環境配慮型のインフラ整備に充てられるほか、ゴミ処理・リサイクル技術の発展などにも用いられる。 “Greenium”(Green + Premium)という造語も生まれるなど、グリーンボンドは借入コスト(あるいは発行者利回り)が低く抑えられる傾向にあり、英国では1/4以上の地方議会が独自のグリーンボンド発行を検討しているという。 サステナブルな公共空間の実現に向け、私たちのコミットできることが、少しずつ広がろうとしている。