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COP26にみる炭素排出の今

Focus

気温2.4度上昇への警笛

今月の初めから2週にわたり開催された、世界190カ国以上のリーダーが地球温暖化を食い止めるための世界的戦略を協定する「COP26」。2015年のパリ協定で定められた「2100年までに地球温暖化を産業革命以前の水準から1.5度以内に収める」という目標を達成するため、世界の炭素市場のルールや気候変動のための資金調達、新たな排出目標、途上国への資金支援など具体的な施策が議論された。

そんなCOP26の1週目に「2030年を目標に各国が定める温室効果ガスの削減量では、2100年までに気温を2.4度上昇させてしまう」という衝撃的なレポートが発表された。

イギリスの気象庁は、平均気温が2度上昇すると、海面上昇や干ばつ、熱波などの異常気象から世界で10億人が影響を受ける可能性があると警告する。

このような誤算が生まれた背景には、今後10年という短期の目標設定が軽視されていること、定めた目標と行動との間にギャップがあることが挙げられる。先進国や新興国は多くの場合、2050年以降のカーボンニュートラル達成を目標に掲げている。しかし、今後10-20年での排出量次第では、カーボンニュートラルは達成できたとしても1.5度の気温上昇を上回ってしまう。目標達成のひとつの指標として、2030年までに温室効果ガスを45%削減する必要がある。

このレポートは、今後10年間での行動が不可欠であることを各国に示した。今回のCOP26での動向も踏まえ、主要国の取り組みを見ていこう。

Cop26: world on track for disastrous heating of more than 2.4C, says key report (The Guardian)

Opinion

CO2排出最多国としての責任

世界一のCO2排出国である中国。経済発展とともにCO2排出量も増加し続けている。人口的な要因が考えられるものの、世界で排出されるうち、3割近くのCO2が中国が排出している事実はあまりにも深刻であり、中国の環境政策に注目が集まっている。

中国は昨年9月に、増加傾向であるCO2排出量を2030年までに減少傾向に転換させ、2060年までにCO2排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を達成することを表明している。

また、COP26気候変動サミットで掲げられた「石炭の使用を段階的に削減する」ことも、世界の石炭消費量の52%を占める中国にとっては大きな課題になりそうだ。 中国は環境政策として、鉄鋼、アルミニウムの減産に踏み切っている。この政策を受けて、アルミニウムの価格は3.9%高騰し、2006年以来の高値を記録している。この一年を通してアルミニウムの価格変動は50%上昇しており、脱炭素化によって揺れ動くエネルギー市場に注目が集まっている。

一方で、中国の環境政策に対する姿勢には、まだまだ疑念が残されている。中国では、石炭火力発電所の新設が相次いでいる。新型コロナウィルス感染拡大によって電力需要が増加したこととや、中国にとって安価な上に自給可能である石炭を利用した経済政策でコロナ禍の景気の落ち込みを回復させることが背景として挙げられる。環境負荷の低い最新型への置き換えによって長期的な視点での「排出量の抑制」に向けて取り組んでいるとの見解もあるものの、脱炭素に対する姿勢に疑問が残される。

中国における気候変動への取り組みは、多くのステークホルダーに影響を与えるものとして今後も国際情勢やエネルギーセクターの市場の動きなども踏まえて注目していきたい。

China plans for net-zero carbon by 2060, meeting Paris Agreement goals (Red Green and Blue)

ドイツで向かい風にさらされる風力発電

環境先進国との呼び声高いドイツ。今年5月にも、温室効果ガス削減目標を引き上げ、2030年までに65%削減(1990年比)、2045年カーボンニュートラルの実現といった、野心的な数値目標を掲げている。

その達成に、再生可能エネルギーへの転換は不可欠だろう。政府は石炭火力発電の段階的廃止(2038年までの全廃)に向け、総額およそ5,220億円の補償金を支払うという。

現在、総電力消費量に占める再エネの割合はおよそ42% 、主力となる太陽光・風力発電にかかる期待は大きい。しかし、ここにきて、電力供給の最も多い風力発電が、向かい風にさらされている。

鳥類や景観の保護、風車が設置されることによる不動産価格の下落、土地利用の競合、さらにはブレードが回転する際の低周波による健康被害まで、争点は様々だ。

加えて、地方分権的な政治のあり方も、問題を複雑にしているという。住民の反発を受けたバイエルンなど、州政府が風車の建設にかかる規則を掲げ、設置場所の確保はますます難しくなっているという。

政府は、事業者が収益の一部を自治体に還元する仕組み、具体的には近隣住民の電気料金割引といったインセンティブを通し、市民に働きかけようとしている。

しかし、そもそもの論点が必ずしも金銭がらみでないため、有効な打開策となるかは不透明だと感じる。

9月の総選挙を経て、連立政権の一角に名を連ねると予想される緑の党は、国土の2%を風力発電に充てると謳っているが、再エネ導入と環境保全の対立といった問題に、どのような解を出すのか、今後の政策に注目が集まる。

Germany's energy transition is at the heart of the 2021 federal election (euronews)

インドの Five Elixirs (5つの宣言)

2020年の炭素排出量が世界3位となるインドは、今回のCOP26で次の5つの目標を宣言した。

・2030年までに非化石エネルギーの容量を500ギガワットに増加

・2030年までに国内電力の50%を再生可能エネルギーで生成

・現在から2030年までに予測される炭素排出量を10億トン削減

・2030年までにカーボンインテンシティを45%削減

・2070年までにネットゼロを達成

 

宣言背景のひとつには、国内の電力エネルギーの約7割を石炭で担っているという状況がある。もちろん石炭を用いたエネルギーはインドの発展の原動力となっていたが、近年では環境への影響だけでなく石炭価格の高騰に経済へのインパクトも課題視される。

その解消に期待されるのは太陽エネルギーによる発電だ。というのもインドは年間250〜300日の晴天に恵まれる国であり、そのエネルギーはインドの陸地で年間5,000tn / kWhに相当すると推定、そのほとんどの部分が1平方メートル(平方メートル)あたり毎日4〜7kWhを受け取ることができる。現状21.5%と再生可能エネルギーを50%まで引き上げるべく政府は技術投資を進めている。

その一方、電力に関してインドが独自に抱えるローカルな問題も多い。レポートによると、例えば電力販売に関する課題として、発電会社への未払い金や州政府の意向で売電価格が恣意的に設定される実態。あるいは、インフラの課題として、20%を超える送電ロス(日本は4%弱/中国は5%弱)や蓄電設備の不足、さらに盗電・不正検針といった状況もある。

前者の電力販売については電力販売の自由化を目指す2021年度の予算法案、送配電ロスを12~15%などに前進させるインフラ改善など、政府と業界団体・企業の間で調整が行われている。

西側諸国が2050年のネットゼロを宣言する中で、インドが宣言した2070年という20年遅れの目標への批判も目立つが、こうした政治的な調整や技術改善が必要な状況、人口GDPもほぼ正比例で右肩上がりに成長する状況を考えると、意外と現実的な目標なのではないか?とも感じる。ネットゼロへの試金石になるのは30年の4つの宣言だ。発展の只中にある諸国がネットゼロに向けてどのような取り組みができるか、そのリードとして経済・技術ともに発展の目覚ましいインドのこれからに着目していきたい。

COP26: India PM Narendra Modi pledges net zero by 2070 (BBC)

脱炭素への取り組みとのしかかる責任

中国に次ぐ世界第2位のCO2排出国であるアメリカは、2019年の排出量が2005年比で-13%と着実な削減を進めている。

バイデン大統領はパリ協定への復帰後、「2030年までに2005年比で温室効果ガスを50~52%削減する」と野心的な目標を掲げた。そして10月、クリーンエネルギーへの投資や、温室効果ガスの削減を目的とする5,550億ドルの予算案を盛り込んだ『Build Back Better』法案を発表した。

この多額の予算には、企業や消費者を対象とした税額控除・補助金が含まれており、ソーラーパネルや風力発電などの自然エネルギーの導入、EVの購入促進などを図る。ホワイトハウスの資料や専門家の分析によると、この法案が可決された場合、年間のCO2排出量が現在の約1/6まで削減されるという。

とはいえ、産業革命以降のCO2累積排出量を考えると歴史的責任は重い。多くの温室効果ガスを排出する国と、それによる被害を受けている国は必ずしも一致しないからだ。今回のCOP26で、海面上昇により水没の危機に晒されている太平洋の島国ツバルのサイモン・コフェ外相は、膝まで海に浸かりながら行ったスピーチで気候変動の緊急性を訴えた

先進国から途上国に対する資金援助は、2020年までに年間1,000億ドルの拠出が約束されていたが、OECD (経済協力開発機構) によると2019年は約800億ドルにとどまり、2020年も目標の達成は難しいという。これらの課題を受け、アメリカは2024年までに年間約114億ドル、ドイツは2025年までに年間60億ユーロまで資金援助の増額を表明しているが、途上国側からは実効性に欠けると非難の声が挙がっている。

New budget deal marks the biggest climate investment in U.S. history (The Washington Post)