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メタバースが築くもう1つの社会

Focus

メタバースが拡張する日常

Facebookは10月、社名を「Meta」に変更し、メタバース構築の計画を発表した。メタバースは、Metaverse とは《Meta- (超越した) + Universe(宇宙・世界)》の合成語であり、多人数参加型の仮想空間を意味する。

ここで重要となるのが、VR (仮想現実) やAR (拡張現実) といった技術だ。AIを活用し予測や決定を行うプラットフォーム「Swarm」を提供する「Unanimous AI」のCEOルイス・ローゼンバーグ氏は、「10年以内にARグラスがユビキタスとなり、デジタルコンテンツに接する手段としてスマホに取って代わるだろう」と予測する。ARグラスを所有しない人は、お店に行っても値段を見ることができないといった世界が存在する可能性があるのだ。

メタバースのような革命は以前にも起きている。それは、遠く離れた人とのコミュニケーションを可能にした電話の誕生だ。このような過去の事例は、メタバースの普及を考える上で参考にすることができる。現実とデジタルの間での人間の行動を調査するビップ・ジャスワル氏は、「スマホ時代になると、私たちは家族と話すよりもスマホを触る回数のほうが多くなった」と語る。

そしてこれは、メタバースの普及に伴う懸念点としても挙げられる。私たちが現実よりもデジタルの世界で生活するようになる瞬間だ。ローゼンバーグ氏は「私はこの時期が必ず来ると確信している。 そしてそれは、人類にとって良いものではないだろう」と語る。

とはいえ、メタバースはまだまだ発展途上だ。市場の大規模な成長が見込まれているように、いまの私たちでは想像もしない進化を遂げる可能性を秘めている。

Silicon Valley's metaverse will suck reality into the virtual world — and ostracize those who aren't plugged in (Business Insider)

Opinion

世界観を築くためのルールづくり

メタバースがにわかに注目を集める中、これまで仮想世界を描き出してきた様々なコンテンツに思いを馳せる方も少なくないだろう。たとえば、今週末に18年ぶりの新作公開を控える『マトリックス』は、その先駆け的な作品(なんと第一作が公開されたのは私が生まれる1年前)だ。私の場合、『サマーウォーズ』の舞台、OZが原風景的に浮かび上がってくる。

ショッピングからスポーツ、行政手続きまで完結する仮想世界。そんなフィクションに、現実が近接しつつある。

例えば、お隣、韓国のソウル市は、22年末までに独自のメタバースプラットフォームを構築すると発表している。行政相談や施設予約といった手続きから、バーチャル観光まで、様々なサービスを段階的に提供していくという。

また、カリブ海の島国バルバドスは、仮想空間「Decentraland」に、メタバース大使館を設置する予定だ。メタバースの潮流を新たな外交機会と捉え、電子ビザの発行、アバターを様々な世界へ移動させるテレポーターの建設などに取り組むという。

しかし、メタバースに行政機能を組み込むプロジェクトは、前例がないだけに、懸念する声もある。

たしかに、現実と仮想空間の紐付きが強くなればなるほど、アイデンティティの自由度や、プライバシーをどのように保証していくのかといった課題が出てくるだろう。

特に、見た目や声、仕草などを自由に編集できる、複数のアバター / 個性を使い分けられる、といった自己表現の幅広さは、メタバースの大きな魅力だけに、担保されていて欲しいところだ。

ソウル市のケースでは、本名ではなくハンドルネームの利用を認めるなど、個人情報の収集・利用を最小限に抑える取り組みがなされるという。

このように、既成概念の押し付けではなく、メタバースという新しい世界観を尊重する、あるいは新しい世界観を築き上げていくためのルールづくりが求められていくだろう。

Seoul will be the first city government to join the metaverse (Quartz)

A Whole New World

ウォルト・ディズニーのチャペックCEOは、11月10日 同社がメタバースへの参入を準備していると明らかにし、「われわれのこれまでの取り組みは、物理的な世界とデジタル世界をより密接に結び付け、独自のディズニー・メタバースにおける境界のない物語が可能になるまでの序章にすぎない」と述べた。同社はメタバースと連動したテーマパーク体験を新しいマジックバンドや音声アシスタントで実現するというニュースもある。

言わずもがな、ディズニーは地球で最も多くの「世界」を持つ企業だ。シンデレラやアラジンといった往年の名作はもちろん、アイアンマンやスパイダーマン、さらに最近ではシャン・ツィーとやエターナルズいったヒーローが活躍を広げるMARVELも傘下に加え、そのシネマティックな世界やコンテンツ資産は止まることがない。チャペック氏はCNBCとのインタビューで「ディズニー+の延長線上に『3次元のキャンバス』を想定している」とも語る。

どこかの宇宙でヒーロと共闘して敵を倒したり、プリンセスの冒険やロマンスを登場人物の一人として体験できる。そんな最高のイマーシブシアターに興奮し、新しい世界に飛び込む日を心待ちにするのは、きっとシネフィルだけではない。

「A Whole New World」を歌う中で、アラジンはジャスミン姫にこう声をかけるのだった。”絶対に目を閉じるなんて事しないで、驚きで溢れる場所があるのだから” と。

A whole new world: Disney is latest firm to announce metaverse plans

ファッション表現は青天井?

「どうしてアバターに着せるデジタルファッションは、コスチュームのような変わったデザインが多いのか?」これは私が抱いていた率直な疑問だ。今回取り上げるGQの記事では、その答えともなるメタバースにおけるファッションの重要性を、デジタルファッション (代表的なのはスニーカー) ブランド「RTFKT」の3人の創業者が語る。

現実世界とメタバースとの大きな違いは、アバターによって人々の創造性を解き放ち、限界を超えることができるようになったということだ。ロボットのようなスニーカーや、炎に包まれた洋服を見かけるのも、メタバースが可能にした物理的制約のないファンタジーでの表現方法なのだ。

つまり、メタバースと現実世界ではファッションに求められるデザインが異なる可能性がある。ここ2-3ヶ月の間にバレンシアガやステファンクックをはじめ、数多くのブランドがメタバースへの参入を表明しているが、各ブランドは新たな戦略を築く必要がある。

裏を返せば、メタバースにおけるファッション業界は、かつてのような天才デザイナーが1人勝ちするものではなくなってしまったのだ。ファッションスクール出身ではない新しいデザイナーも数多く登場するだろう。メタバースという新しい世界は、多くの人々に門戸を開く。

Why Is Fashion So Obsessed with the Metaverse? (GQ)

思い出のプレミア化

先日、テスト期間中の休暇(明らかに勉強に充てるべき時間ではあるが)を利用して弾丸でロンドン旅行に行った。最終日に駆け込むように訪れたブリティッシュミュージアムでは、北斎の作品がNFTとして販売されていた。

NFTはブロックチェーン技術を用いて個々のデータに識別可能なコードを付与することにより、複製やデータの改竄などを特定可能にし、唯一性を確立させている。これにより、「所有する」価値が圧倒的に高まると同時に手数料や売却益など、取引によって付加価値が生まれる。

ロンドンの大英博物館は今年9月から葛飾北斎の大規模企画展を開催すると同時に、ブロックチェーンプラットフォームを展開する「LaCollection」と提携し、北斎の作品をデジタル画像のNFTとして販売を開始したのである。企画展では北斎の作品が103点も展示されかつてない規模の展示となっている。加えて、富嶽三十六景の作品はもちろん、近年発見された作品を含む200点以上の北斎の作品がNFTとしてオンラインで購入可能となっている。

NFTを販売する美術館は大英博物館だけでなく、マンチェスターのウィットワース美術館やフィレンツェのウフィツィ美術館などでもメディア化した作品をNFTとして販売しているという。

私は美術館に行くと必ず気に入った作品のポストカードを記念に買って帰る。留学生活中に行く旅行では、様々な美術館を回るたびにポストカードを購入し、家族や友人に送ることがお決まりのルーティンとなってきた。もちろん自分自身で収集しているものもあり、かなりの量となっている。これらの思い出が、これからはデジタル化されていくことはコレクター癖をくすぐるが、何だか少し温かみを失うようにも感じている。

British Museum to Sell NFTs of Hokusai Works, Including ‘The Great Wave’ (ARTnews)