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クリエイターエコノミーの現在地

Focus

小さなクリエイターが生むビッグビジネス

ここ1-2年で賑わいを見せるクリエイターエコノミー。既知の知識かもしれないが簡単に説明すると、個人の情報発信や行動によってファンや顧客と双方向でつながり、サブスクリプションや投げ銭などといった収益を得られる経済圏だ。

このクリエイターエコノミーという概念は、2つのグループから成り立っている。1つ目は、その名の通り個人のクリエイターだ。ミュージシャンやアーティスト、デザイナー、ブロガーなどが含まれる。そして2つ目は、彼らの創造活動のためのツールを提供する企業やプラットフォームだ。2021年にはGoogleを追い抜き、最も訪問されるプラットフォームとなったTikTokやYouTube、scanningでも活用しているニュースレタープラットフォームSubstackなどがその代表格だろう。

映像コンテンツのスーパースターと言えばNetflixが思い浮かぶが、同社は2020年7月に行われた株主総会でTikTokを真のライバルとして認めている。2021年3月にはTikTokのような縦型ショートフォームビデオ「Fast Laughs」を発表していることからもその内容は見て取れる。決してスーパースターではない普通の人々が、ニッチ戦略で熱烈なファンを獲得し、ビッグテックのスターモデルに風穴を開けているのだ。

そしてWEB3.0の時代に突入し、クリエイターエコノミーはさらに飛躍していくことが考えられる。メタバースにおけるプラットフォームの活用やコンテンツ制作による新しい収益源の獲得、AIを活用した制作プロセスの効率化など、よりクリエイターの創造活動を容易にする方向に向かっている。

とはいえ、繰り返しになるが、クリエターエコノミーは1人のスーパースターがいるわけではなく、大ヒット作があるわけでもない。小さなクリエイターの集合体だ。彼らを支援し、適正な報酬を提供し、クリエイターをスポンサーやパトロンと結びつけるプラットフォームを継続的に改善していくことが求められる。

Small creators are big Business (Tech Crunch)

Opinion

コミュニティが支える経済

クリエイターエコノミーにおいて、ファンとのつながりは大切だ。HIGHLIGHT記事の冒頭でもあるように、双方向のつながりによって成り立つ経済圏だからである。そんな「クリエイターとファンとのコミュニティ」に加え、「ファン同士のコミュニティ」の2つが重要だと考える。

クリエイターとファンとのコミュニティ形成においては、メタバースが重要な役割を果たすと予想される。K-POPスターのAleXaが昨年の11月に行ったバーチャルファンミーティングでは、1,450人のファンが仮想アリーナを自由に歩き回り、AleXa本人と交流するという体験が実現された。メタバースは空間やキャパシティといった制約を超え、コミュニティの親密性を高めるだろう。

ファン同士のコミュニティ形成においても、新しいサービスが生まれている。クリエイターのコミュニティ形成を支援する「Playground β版」というソーシャルプラットフォームは、ニュースレターやポッドキャストの配信から、物販やサブスクリプションの管理まで、1つのアカウントで管理できるというものだ。中でも、現在開発中のコミュニティのメンバー同士が互いにつながることを助けるツールは重要な役割を果たす。創業者のジアリン・ヤン氏も「オーディエンスとコミュニティの違いは、メンバーが主催者のいないところで実際に交流できるかどうか」だとコミュニティの重要性を語っている。

とはいえ、つながり過ぎた世界が必ずしもプラスにだけ働くとは限らない。私たちは、自分にとって最適なコミュニティ形成をうまくコントロールしていく必要がある。

Playground launches in beta to help creators cultivate community (TechCrunch)

クリエイター脳のリセット

クリエイターエコノミーによって誰もがクリエイターになれる時代が来た。

YouTubeやTiktok、Instagramなどの、ソーシャルメディアによって映像コンテンツの編集が身近に、そして簡単になった。また、アフィリエイト広告の普及によって副業的インセンティブを得ることも可能になり、クリエイターとして制作活動を始める機会が増え、ハードルも圧倒的に下がった。さらに、作品を共有拡散するプラットフォームの拡大によってオーディエンスとのやりとりもスムーズ且つ手軽になった。

最近ではプロのクリエイターがこのようなソーシャルメディアを活用して編集ツールの基本的なチュートリアルを紹介していたりもする。まさに、ウェブ上でクリエイターが双方的なやりとりをする時代になったのだ。 クリエイターの母数が増えるほど競争率も高くなり、クリエイター業界はこれからより厳しいものとなるだろう。クリエイティブが飽和していく中で、唯一無二性を見出すためにも私たちは常に様々なことを学び続ける必要がある。しかし、無意識的に過去の経験や知識が固定観念として自分のクリエイティビティを縛り付けているかもしれない。 そこでマインドセットをリセットして新しいものをインプットするプロセスである、アンラーニング (unlearning) を紹介したい。アンラーニングとは言葉の通り、学ぶことをやめる(知識の取捨選択を行う)ことで形式的な学習から離脱し、先入観を取り除いた状態にすることである。これにより、より自由で柔軟な思考を促進することができる

ハーバードビジネスレビューによると、アンラーニングのプロセスは主に3つに分けられる。1つ目のプロセスとして大切なのは、自分や周りの行動について認知した上で効果的ではないモデルを特定することである。次に、目標を効率的に達成することができる代替的なモデルを考案し、最後に新しい精神習慣とともにそのモデルを定着させる。

このアンラーニングだが、自分の思考回路を認知した上で知識を取捨選択する(全く新しい思考回路を考え出す)というのは中々一筋縄でいかないらしい。ある程度の訓練はつきものである。いずれにしろ、自分のためにやるのであれば、訓練というよりも知らないうちに凝り固まった脳のリラックスくらいに考えてアンラーニングを日常的に取り入れたいものである。

Unlearning Is the New Learning: A Neuroscientific and Theological Case for How and Why to See the World Differently (University of Notre Dame)

クリエイター支援のこれまでとこれから

クリエイターが、クリエイターであり続けるのは、なかなかに難儀なことだ(と思う)。創作意欲を掻き立てるような内的動機づけはもちろん、外部からの働きかけも、重要な役割を担うだろう。

創作活動における外的動機づけの肝は、クリエイターとその作品をどう「承認」するか、だ。また、ファン目線からは、創り手へのロイヤリティをどう表現するか、という問題も浮かびあがってくる。

こうした議論に、ネット時代のサービスがどう答えてきたか、その歴史を紐解きたい。

クリエイターを承認する仕組みと聞いて、多くの人がパッと思い浮かべるのは、いいねボタン👍だろう。

Facebookにいいねボタンが導入されたのは、2009年。同年に買収したソーシャルフィードサービスFriendFeedの機能を流用したのがはじまりである。Twitterの”favorite” buttonは、それよりも早い2006年、ツイートをブックマークする用途で生まれた。

誕生から早10数年、今ではSNSに欠かせない存在となった「いいねボタン」だが、欠陥も存在する。そもそも、いいねは金にならない。内発的モチベーションとの相反を指摘する声もあるが、創作活動で身を立てようとしている人々にとって、金銭的インセンティブの欠落は重大な問題だ。(世間の注目が、間接的に恩恵をもたらすことはあるものの)広告収入に頼らざるをえず、プラットフォームへの依存度も増す。加えて、「誰もが手軽に押せる」いいねボタンでは、ファン側も熱量をのせにくい。

そんな中、ライブ配信サービスを中心に浸透したのが、いわゆる「投げ銭」機能である。これは、クリエイターの承認欲求と、金銭的ニーズを同時に満たしうる仕組みだ。実際、2021年、世界で最も投げ銭を集めたYouTuberの売上は、およそ2億円にのぼるという。不躾な話だが、ファンもクリエイターに贈るアイテムの価値で、ロイヤリティの高さを示せる。

プラットフォーマーにとっても、金銭的インセンティブの設計は急務だ。提供できる機能・サービスのコモディティ化に伴い、競争が激しくなる中、優れたクリエイターの誘引は、差別化要因となりうる。たとえば TikTokは2020年、2億ドルのCreater Fund 設立を皮切りに、さまざまなマネタイズ手段を提供している。

さて、Web3.0の時代に突入しつつある今、クリエイターを承認するシステムも更なる進化を遂げていくだろう。例えば、ブランドのロイヤリティプログラムにNFTを組み込むといった話を耳にする機会も増えたが、クリエイターとファンの繋がりにも、このようなコンセプトは持ち込まれていくだろう。今後の展開にも注視していきたい。

Twitter officially kills off favorites and replaces them with likes (THE VERGE)