学びの多様化とそのイシュー
Focus
オンライン授業をどう位置付けるか?
「これからの教育の在り方」はパンデミック禍でも注目の議論の一つだ。アメリカ政府は「American Rescue Plan」として3年間で1,220億ドルを教育支援金として捻出し、その資金の多くの部分がオンラインで行われる個別授業の普及に使用される。
授業はディスプレイを介して行われ、講師の対面授業だけでなく、時にはライブビデオやチャットサービス、AIなどが活用される。授業内容は宿題を中心に編成されるものも少なくない。
オンライン授業は、教育テクノロジーの分野はいま大きなビジネスチャンスを迎える。教育を専門とするVC・Reach Capitalの市場調査によると、教育ビジネスへの投資は、2019年全体の17億ドルから2021年上半期に32億ドルに急増。
それでは、すべての授業がオンライン化が是であり、もはや学校教育は必要ないのか?と問われると懸念も多い。特に知識以外の部分のソーシャルスキルの育成に置いて、リアルな場から学ぶ影響は大きい。
小学校で校長を努めるジャクリンこうは述べる。「何ヶ月にもわたる学校での授業機会を逃した後、多くの子供たちは運動能力に苦しんでいる。幼い生徒の中には、コミュニケーションスキルの観点から人に手紙を書くのに苦労しているものもいる ー 彼らのソーシャルスキルを構築することに悩みを抱えているのだ」。
記事中のインタビューにあった一文は、フィジカルな教育機会がソーシャルスキルや創造性をどう育むかを象徴する印象的な一言だ。
“Even though we access technology, we still put pencil to paper and crayon to paper,”
いくらオンラインテクノロジーが発達しようと、私たちに紙と鉛筆、そしてクレヨンは欠かせないものなのだ。
Opinion
学生時代の対面経験
パンデミックが拡大してから3度目の1月が過ぎ去ろうとしている。
3年目に突入した”リモート”生活に、対面授業は遠い記憶にされてしまった。オミクロン株によって私の留学する大学もオンライン授業継続を余儀なくされてしまった。
春から全面的に対面授業を開講すると聞いて、街に引っ越してきた多くの留学生にとって、急すぎる通知はあまりにも厳酷だった。私も春こそは、キャンパスで留学生と勉強を楽しみにしていた分、モチベーションをかなり奪われた気分だ。
”オンライン”の効率性については、ここ2年でかなり議論されてきた一方で、対面の有用性も否めないのが現状である。学生であれば尚更、プロジェクト遂行や、コミュニケーションの円滑化を実践的に学べる機会が減ってしまうのは惜しいものである。
対面でのコミュニケーションの主な利点としては、モチベーション的な影響はもちろん、相手を説得する際に有用であることが挙げられる。他にも、言語的情報以外にも受け取ることができる情報が多いことから、相手に対する理解を高めたり、より強い繋がりを作ることに適している。このような点を鑑みると、学生にとって対面で授業を受ける体験は貴重なものである。
教育に関しても、”オンラインか対面か”という議論は絶え間なく続いている。時間はかかりつつも、世界はパンデミックの収束に向かって動き出している。しかし、オンラインの”楽さ”を知った私たちが、完全に元通りになることはないだろう。その中で、いかに双方の有用性を活かすかが課題である。
MOOCのジレンマ
コロナ禍で大きな注目を集めているのが、MOOC、大規模オンライン講座だ。その理念は「誰もが、無償で、質の高い教育にアクセスできる」ようにすること。Coursera、edXといったプラットフォーム上で、およそ950の提携大学が、約19,400コースを提供している。
2010年代初頭に普及したMOOCだが、ここ2年で1億人の新規ユーザーを獲得するなど、躍進ぶりには目を見張るものがある。学びの間口は、着実に広がっているといえるだろう。
そこで気になるのが、MOOCの学習効果だ。どれだけ学びを深められるか(≒コースの修了 / 継続率)、キャリア形成にもたらすインパクトはどの程度か、などなど。
実際、ビジネス領域のコースを修めた4000人に対する調査では、およそ75%がキャリアに良い影響を与えたと回答している。しかし、多数派に思えるこの見解が、実は少数意見かもしれない。なぜなら、およそ9割のユーザーは登録初年度にサービスを離れている(2015-2016)からだ。
たしかに「学び始めるハードルが下がれば下がるほど、途中で投げ出すことへの抵抗も薄れていく」という結果は、直感的にも理解しやすい。私自身、意志力の弱さに定評があるため、誰から強制される訳でもないコースを、最後までやり遂げる自信は皆無だ。
そうなると、今後MOOCが更なる発展を遂げる鍵は、コンテンツの幅や質、よりも習慣化を促す仕組みづくりにあるかもしれない。
サブカルチャーが生む教育の好循環
戦後日本で発展した「サブカルチャー」。インターネットの大衆化により、もはやその線引きは難しいものの、代表例としてアニメ、漫画、映画、ドラマなどが挙げられる。そんなサブカルチャーは、私たちの生活に大きな影響を与えてきた。1981年に少年ジャンプで連載を始めた「キャプテン翼」が、サッカー競技人口の増加に寄与したという話は有名だ。
そして現在、NetflixやYouTube、Spotifyをはじめとするプラットフォームの発展により、言語学習にも大きな変化が起きている。英国・University Council of Modern Languages が2021年に発表した、同校の2012-18年における言語学習に関するレポート (コース数・応募者数・合格者数) によると、韓国語と日本語の合格者数が大幅に増加しているという。最も人気のあるフランス語やドイツ語、スペイン語は減少傾向にあるなか、韓国語は3.5倍、日本語は約1.7倍に増加している。
この背景にあるのもはもちろん、数々のヒット作を生み出す韓国のエンタメ業界や、日本のアニメ、J-POPをはじめとするサブカルチャーの盛り上がりだ。かつて、アジアの言語を学ぶ動機として「就職の可能性を高めるもの」というものが多くを占めていたが、それらが「言語や文化が好きだから学ぶ」へとシフトしているのだ。
このような流れを受け、英国の大学における言語学習の提供機会にも変化が起きている。2018年には日本語を教える大学の割合は19%だったが、2020-21年には39%まで増加した。韓国語もわずかではあるが、増加傾向にあるという。
このように、サブカルチャーは学習への間口を広げるだけでなく、それを追いかけるような形で教育機会の増加にも影響を与えている。文化と教育が混じり合うこうした好循環は、教育のイメージを大きく変えていくかもしれない。