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気候変動がコネクトする未来

Focus

Last, Best Chance

気候変動の対策には2つの要件が求められる。それは即効性と長期性であり、いま私たちが取る行動は将来に無関係ではない。

特に長期性に着目すると、その対策方針は政治的な要因から大きく影響を受ける。アメリカは民主党と共和党の2大政党であるが、気候変動対策に積極的な姿勢を見せるのは与党・民主党だ。

バイデン大統領は、10年間で5,550億ドルを気候変動対策に充てることを計画する。具体的には、再生可能エネルギー導入への補助金、企業や一般家庭に対するEV購入サポート、さらには研究機関に対する炭素回収技術への投資などに割り当てられる。

しかしながら、今年の11月には中間選挙を控えている。気候変動対策には否定的な共和党が勝利することも十分に考えられる。もし議会が、民主党が与党である間にCO2排出を抑制する法案を通過させなければ、何年経っても通過しない可能性も考えられる。

政治家やジャーナリスト、アクティビストが気候変動について語るとき、“Last, Best Chance (今こそが最後で最高のチャンス) ” という表現が用いられるが、まさにいまがその時なのだ。

Will Climate Action Happen Now? (The New York Times)

Opinion

「教師と生徒」から「全員が生徒」へ

英国の教育大臣ナディム・ザハウィ氏は、昨年11月に開催されたCOP26で「気候変動を教育の中心に据える」と発表した。しかし今日では、この議論の雲行きが怪しなっており、法案化は難しいという見解もある。

この背景には、英国で実施された気候変動教育に関する調査結果が関係している。4,690人の教師を対象に行われたこの調査では、中等教育における教師の79%が「気候変動を適切な方法で教えることができていない」と回答。さらに、全体の70%が「生徒に教えるための適切なトレーニングを受けていない」と回答していることからも、教師にとって扱うのが非常に難しい題材であることが分かる。

また、この結果に付随して、「気候変動について十分に理解している」と回答した生徒はわずか4%。68%の生徒は「気候変動についてもっと学びたい」と回答している。

英国・リーズで英語を教えてるマット・カーマイケル氏は次のように述べる。「教師たちは気候変動について話すことにプレッシャーを感じています。私はこの問題について学んだものの、同僚たちは自信が持てず、教える準備ができていないと感じています。しかし、SNSを中心に多くの情報が錯綜していることから、教育として教えることは非常に重要だと考えています。」

COP26でも明らかになったように、私たちは気候変動に対してアクションを起こすことが求められている。そんな中、基盤となるシステムの構築が不十分なまま事が進められるのは勿体無いように思える。まずは教育システムを築くため、学生に向けられていたベクトルをより多方向に広げていくことが重要になるのではないかと考える。

UK pupils failed by schools’ teaching of climate crisis, experts say (The Guardian)

ベンチャー投資とESG

利潤の追求だけでなく、環境や社会に対する責任の履行を、企業に求めるESG投資。上場企業のESG評価が進む中、その波はベンチャー投資にも押し寄せつつある。

もちろん、高いリスクと引き換えに、並外れて大きいリターンの実現を目指すVCにとって、「経済合理性の追求」と「社会課題の解決」は両立が難しいテーマだ。しかし、最大の出資者である機関投資家は、社会にポジティブな変化をもたらすことを求めている。

では、VCがいかにしてESG基準を組み込むべきか、各要素ごとに見ていきたい。

「環境」に関する情報は、注意深く読み解く必要がある。たとえば、ソフトウェア開発を事業活動の中核に据えるハイテク企業は、カーボンニュートラルに見える。しかし、実際のところ、データを利用すればするほど、多くのエネルギーを消費することになる。そのため、カーボンフットプリントの可視化と排出削減に向けた取り組みの評価が必要となる。

「社会」と「ガバナンス」に関する評価は、従来のそれと大きく変わらないだろう。テクノロジー活用の倫理基準を定めることは、これまでも求められてきた。また、優れたガバナンス構造の存在は、投資の前提条件だ。

3兎を追うESG投資は、財務リターンにマイナスの影響をもたらす恐れもある。しかし、パブリックイメージの向上は、次世代の起業家やESGファンドの誘引といった中長期的メリットに繋がる可能性も高い。

VC業界も競争が激しくなるなか、「ESG」が優位性確立の鍵を握るかもしれない。

How Venture Capital Can Approach ESG (Forbes)

わたしの寄付金のゆくえは?

毎年ふるさと納税をするたび悩むことがある。

それは、返礼品を肉1.5kgにするか季節の果物にするか、はたまた山盛りの海老にするのか・・・ではなくて(いや、それもあるんだけど!)、わたしの寄付金がどのように使われるかだ。自治体にもよりけりだけど用途が抽象的なケースも多く「私の送ったお金はちゃんと人の役立っているのかしら…?」と不安になる場面も多い。

せっかくの寄付なら、適切な運用で大きな影響を与えてくれるところへ送りたい。このような「Effective Altruism (効果的利他主義)」という考えは近年生まれた思想のひとつ。2009年には、慈善ドルの最も効果的な使用法の研究に専念する最初の組織「Giving What We Can)」が、オックスフォード出身の哲学者 Will MacAskill、Toby Ordの2名によって社会実装された。

もちろん、今回扱う気候変動も社会的な観点で「大きな影響」のひとつ。しかし、世界的な気候変動を防ぐために必要な分野であるにも限らず、そこに割り当てられる寄付金は僅かだ。2020年アメリカの寄付金総額「4,710億ドル」のうち、環境NPOに割り当てられたのは全体の僅か2%相当の「80億ドル」。さらに温室効果ガスの排出を防ぐことに直接焦点を当てた組織への寄付はさらに少なく全体の0.4%にすぎない。

Effectuve Altruism に基づく組織やサービスはアメリカでも増えていて、「Evergreen Action」「Rewiring America」「WE ACT for Environmental Justice」といったサービスでは、非営利団体に寄付された1ドルごとに、米国の政策措置で約1トンの温室効果ガス排出量が削減されると推定する。

寄付金の運用には投資的な面もある。適切な組織に早期に割り当てられれば、複利収益によって10,20年後には数十〜数百倍の力になる可能性だってある。ぜっかくの善意が無駄にならないために、国内でもこのようなサービスが増えて欲しい。

Why climate charities can deliver the most charitable bang for the buck (QUARTZ)