仮想世界とリアルの接点
Focus
都市のミラーリング
私たちの生活でもっとも身近な仮想世界。それは Google や Apple を始めとしたテック企業が提供する「地図」の中にあるのではないか。初めて訪れる旅行先の探索から、打ち合わせ先のビルに辿り着くまでの電車乗り換えまで。リアル世界の移動・体験にさきがけ、私たちはディスプレイに映るミラー都市を駆け巡る。
今年1月末にリリースされた Google Research ではカナダの大学の共同研究は、このデジタル上での「旅」をさらに加速させるものだ。この取り組みでは、都市の屋外環境世界地図を作成するため、ストリートビューで一般的に展開されているキャプチャデータと3Dビューを合成し、新しい仮想世界を再構築する。
これまでLiDARセンサーを用いてキャプチャーしたデータは、周囲の物体までの距離を光りを当てて測定するという特性上、遠方では解像度が低くなり、シーンの一部が消失してしまう課題を抱えていた。今回の研究では、複数の視点をもった画像を参照することでこの課題の解決し、より”リアル”なシーン生成を目指す。
かつてのSecond Life や映画フリー・ガイのような仮想世界はもちろん、これまで語られてきたミラーワールドでの生活が研究の進展と共にますます「現実」味を帯びてくる。
Opinion
VRが最適化するコミュニケーション
パンデミック禍の就活事情を覗いてみると、面接では当たり前にZOOMやGoogle Meetなどオンラインサービスが利用されている。対面で面接官と会えれば、もっと熱気が伝ったかもしれないのに…。と度々画面上での限定されたコミュニケーションに不満を垂れ流している。(これはきっと単なる言い訳にすぎない。)
そんな不満も束の間、パンデミックが長引きそうな世界では、就活のシーンにおいても面接やWebテストにおけるVRの活用が加速しそうだ。
実際、人と企業を繋ぐプロセスにおいて、リアルではコスト・時間・空間の側面から合理的ではなかった体験がVRでは可能になる点が多くの企業から注目を集めている。VRを利用した採用メリットとして、SHRM(The Society for Human Resource Management)
は以下の3点
1. 志願者は特定の職種や職場での働き方を疑似体験できる
2.企業は志願者の実践的なスキルセットを評価できる
3.入社後は、実生活に近いトレーニングを受けることができる
を挙げている。このように、平面的だった画面上でのやりとりは、体感を伴って立体的に進化した。そんなVRによって追求されるのはコスト・時間・空間面の利便性に止まらない。VRの世界では、個人が分身を自由にカスタマイズ出来る点も魅力的だ。ジェンダー・宗教・人種などの違いによるマイクロアグレッションが問題視される現代において、人々の色眼鏡を取り払い、対等な議論を促進するきっかけになるかもしれない。コンプレックスを抱える人にとっては、より安心して自信に満ちたコミュニケーションを可能にするだろう。
バーチャル空間を活用することで、従来の問題を解決し、インターアクションの効率を高められるのだ。
パンデミックによってデジタルシフトは加速、日々のコミュニケーションはリアルとバーチャルを行き来する時代に突入している。そんな境界線に翻弄されながら、「自分」をいかに魅せるか模索していくことになりそうだ。
子供にとってデジタルは悪?
冬休みの旅行から帰る飛行機の席がなぜか家族連れに囲まれていた。子供が多く、賑やかなのは微笑ましいが、当の両親はそれどころではない。あの手この手でどうにか数時間を乗り切ろうとしている中で有力だったのはiPadのようだ。私の隣に座っていた親子も含め、幼児から5、6歳くらいの子供までみんなiPadやタブレット端末に夢中だった。 レストランや、空港の搭乗口、バス停などでゲーム機やタブレット端末に夢中になっている子供達を見かけることが多くなった、というより、日常的な光景になってしまった。私の小学生くらいの頃はよく携帯(まだガラケー時代だったが笑)を取り上げられていたが、「デジタル=悪」の等式は現在でも成り立っているようだ。
THE CONVERSATIONの記事によると、83%の保護者がテクノロジーやデジタル機器が子供に悪影響を及ぼすと考えている。さらに、Pew Research center の調査によると、子育てが20年前よりも困難になっており、その原因は、デジタルデバイスにあると考える親は多いという。一方、子供たちが平均して3台のデジタルデバイスをもっており、それらを使わずに過ごす子供はほとんどいないという事実も無視できない。 The New York Timesの記事では家庭内でどのようにしてデジタルと向き合うべきかについて、年齢別にまとめている。どのパートでも言われていることがデジタルとリアルの「バランス」である。当たり前のように言われているが、スクリーンタイムを「バランス良く」コントロールできている大人もかなり少ないのではないか。オンラインとオフラインの境界をはっきりと線引きすることは、これからデジタル社会と向き合う際に必要不可欠だ。 世界が常にインターネットと接続されている現代で、家庭内教育でデジタルリテラシーを高めることも当たり前となっていくだろう。オンラインの恩恵を受けつつも「家族」としてのつながりを忘れないでいたいものである。
おうちからお店巡りをする未来
パンデミックは私たちの購買行動に大きな変化をもたらした。McKinsey&Companyの調査によると、オンライン普及率の増加に伴い、2021年の米国におけるEC売上は20年比で約35%増加している。また、店舗での売上も回復傾向にあり、約60〜70%の消費者が購入までのプロセスにECと店舗の両方を活用しているという。私自身、オンラインで洋服を探し、気になるものは店舗で試着・購入といった流れは珍しくない。一見するとこのようなハイブリッドスタイルは合理的にも思えるが、ECと店舗の境界線と捉えることもできるだろう。
ECのメリットは、アクセシビリティと商品検索から購入(場所によっては発送まで)に至るスピード感だ。店舗のメリットはもちろん、実際に商品を見て、触って、試用することができること。そしてメタバースは、これらを1つの購買体験へと融合していくという。
現在はまだまだ黎明期にあるものの、すでに提供されているサービスもある。AmazonのARツール「Room Decorator」は、スマホの画面を通して家具や家電を自宅に試し置きすることができる。同時に複数を配置したり、保存して後から見返すことも可能だ。また、自宅にいながら仮想空間の店舗で買い物が行えるバーチャルストアの事例も増加している。プラットフォームを提供する「Obsess」は、RALPH LAUREN や Dior をはじめ数多くの店舗を手掛けている。
このようなバーチャルストアは、24時間365日、あらゆる場所からの訪問を可能にする。自宅にいながら海外の店舗へアクセスでき、世界観まで感じることができるのは大きなメリットだろう。また、気になる商品をタップすると、商品詳細や動画、製作背景など様々な情報が表示されるのは、ECに店舗での接客を融合させたような機能だ。とはいえ、これらがどこまで私たちの生活に浸透していくのかは未知数だ。現にヘッドセットの必要性やVR酔いなどの問題も存在する。私たちの購買体験の変化は、一消費者として注目したいトピックだ。
仮想化するコミュニティと、ロイヤリティ
コロナを機に、コミュニティの仮想化が進んでいる。授業も、インターンも、卒業後の働き方もリモート、といった具合だ。当初こそ、オンライン上で全てが完結する様に違和感を覚えたものの、今や、通勤・通学のために早起きしたり、満員電車に体をねじ込ませたりする日々の方が耐え難いモノに思える。
さて、一個人としては諸手を挙げて歓迎したい潮流だが、コミュニティ側(会社など)の直面する課題も想像に難くない。スタンフォード大学のサットン教授は、リモートワークに移行することで、転職の心理的ハードルが下がる可能性を示唆している。一方、労働者の多くが(私のように)リモートワークを望んでいることも事実だ。21年8月、米国で行われた求職者調査によると、約41%が少なくとも週1日はリモートで働くことを望んでいるという。企業はこのようなジレンマと向き合わねばならない。
そこで注目を集めているのが、バーチャルオフィスだ。MetaのリリースしたVR会議ツール”Horizon Workrooms”などは記憶に新しい。いわゆるビデオ会議より、同じ「場」を共有している感覚が強く、創発的なコミュニケーションも生まれやすいという。帰属意識 / ロイヤリティを高める施策として、導入が検討されるのも肯ける。
ビル・ゲイツもオフィス(365ではなく物理的な)がメタバースに飲み込まれると予測している1人だ。Microsoftは、TeamsとWorkspaceの統合でMetaとの提携を発表しており、今後メタバースへの関与度を深めていく可能性もある。
ここまで語ってきたバーチャルオフィス / 会議だが、単なる「物理空間の代替」以上の可能性を秘めていると感じる。たとえば、メンバーの創造性を刺激するため、ユニークなギミックを取り入れたオフィスが一時期話題になったが、バーチャル空間であれば、より多彩な表現が可能になる。また、議事録を取るといった、会議のワークフローも大きく変わっていくだろう。
コミュニティの仮想化、そのポジティブな側面の最大化に期待していきたい。