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ストレスとの共存

Focus

ストレスの種とリスクの分解

ストレスとは、環境変化に適応するため私たちの身体が引き起こす反応だ。

しばしば否定的に描かれるストレスだが、その影響と程度からストレスには良し悪しの2つの面がある。適度なストレスは「eustress」とも言われ、心地よい緊張感は私たちのメンタルを刺激し、新しい環境へ進む挑戦の糧となる。

問題は私たちが対応しきれないストレスが生じたときにどう向き合うかだ。

そもそも、ストレスには急性/慢性の2種類がある。「就職の面接に行く」「公の場で話す」と言った短絡的で課程が認知しやすいものは急性ストレス。厄介なのが「慢性的な病気への対処」や「経済的な心配」「家族や人間関係の問題」といった慢性ストレスで、明確な終わりがない課題に直面した時、私たちが24時間の臨戦体制になることで感じるものだ。

知っているように悪いストレスは精神面だけでなく、高血圧・心臓病・糖尿病といった循環器系の疾患や脳な身体にダメージを与え、最悪には私たちを死に至らせるリスクをもたらす。大切なのは、自身でストレスレベルをマネージメントし、同時に自身が抱えきれないときに、必要な助けを周囲へ求めるか。

今回のニュースレターでは、ストレス発散としての購入行動(平たく言えばヤケ買いだ!)、オリンピック選手をはじめとした過酷な心身状況にあるアスリートのストレスマネージメント、企業内でのストレスケアの取り組み、ソーシャル・コミュニケーションとどう付き合うかをリサーチし考察する。

もしいまストレスに苦しんでいる誰かの手助けになれたなら、ニュースレターの書き手としてこの上ない幸せだ。

How Stress Increases Your Risk of Heart Disease (healthline)

Opinion

リテイルセラピーのあり方を考え

やることに追われながらパソコンに向かっていると、ついつい息抜きがてらに服や最近欲しい家具、新しいカメラなど、気づけばインターネット上のショッピングサイトに辿り着いていた経験はないだろうか。嫌なことがあった時、疲れた時などにストレスを買い物で発散したことがある人は多いはずだ。

物欲というものはモチベーションを大きく動かすことがある。「今月乗り切ったらずっと欲しいと思っていたあれを買おう」といった感じに自分自身に向けられるものや、「頑張ったご褒美に」と他の人のモチベーションを動かすためにも用いられるものもある。

ストレスが溜まった際にも人の心理に大きく作用する。health essentialsの記事によると、この「リテイルセラピー」はオンラインでショッピングカートに商品を追加したり、お気に入りのオンラインショッピングサイトにアクセスするだけでも心理的な効果が見られるという。

これには、購買行動の決定が個人的なコントロールの感覚を強化するというメカニズムが働いており、これが自分だけではどうにもならないストレスを和らげると考えられている。

ミシガン大学の研究は、個人の趣味に直結するような購買行動は、買い物をしないよりも40倍ものコントロール感を与える可能性を示している。

しかし、この買い物でストレス発散をする「リテイルセラピー」にも落とし穴はあるため注意が必要だ。例えば、ストレス発散に身を任せて深く考えずに買ってしまう「衝動買い」は後の後悔や不安、コントロールの喪失感に陥りやすくなるそうだ。買い物がセラピーではなく、中毒的行為になってしまえば最終的に強迫観念としてかなりのストレスを抱えることになってしまう。

最近では、ウェルビーイング的考え方として、消費行動よりも、繋がりや自分自身の成長に視点を向ける考え方も増えてきている。一方で、「買い物」が私たちの小さなストレスを解消してきたことも事実である。その中で私たちが買い物とどのように向き合っていくべきかについては考えていく余地がある。これに対して「愛着」が大きな鍵となるのではないかと思う。「購入すること」ではなく、その先の製品とのつながりを意識することで、買い物後の幸福度の持続は大きく変わりそうである。

Using shopping as a Stress Reliever (very well mind)

肥大化するオリンピックの魔物と心の健康

ついに幕を開けた冬季五輪。見ているこちらがハラハラしてしまう、そんな緊張感漂う舞台で、選手たちは鎬を削っている。「魔物が住む」とも揶揄されるオリンピックだが、アスリートや帯同チームは、メンタルヘルスとどう向き合っているのだろうか。

心身ともに強靭なイメージのあるアスリートだが、両肩にのしかかる重圧は、キャパシティを超えつつあるように映る。SNS上での誹謗中傷や、厳格な感染対策、物議を醸す競技規定など、選手の「外側」の問題が肥大化しているからだ。

昨年の東京オリンピックでは、米体操界のスター、シモーン・バイルス選手が、心の健康を守るため、競技を途中棄権している。

アスリートのメンタルヘルス問題に一石を投じた彼女のアクションを受け、アメリカ代表チームは自国選手のケアに注力している。USOPCのジェシカ・バートレイ氏によると、アスリートは、精神科医の診断やセラピーセッションを、選手村・会場全体で受けられるという。また、メンタルヘルスのスクリーニングや、ウェルネスアプリの無償提供も対策の一部だ。

日記を書く、散歩をするなど、個人で出来る予防・対策は知られるようになってきたが、精神科医など、プロに相談するという選択肢は、まだまだ遠い存在に思える。

チームUSAのように、その距離を縮める取り組みこそが、今後求められていくのではないだろうか。

Mental health is a focus for Team USA at Beijing Olympics (abc NEWS)

リモートで育むレジリエンス

常に「オン」になりがちな生活は身近になった。

メールの返信やオンラインミーティング…。リモートワークやフレックス制度の時間・場所を問わない利便性の裏に、オン・オフが上手く利かない側面が強調されることも少なくない。

そんな多様化する働き方の中で、メンタルヘルスのケアは重大な課題だ。精神状態の悪化は欠勤や離職率に直結し、企業に経済的な打撃を与えてしまう。

リモートワークの導入によって社員の状態が見えづらくなってしまった中で、企業は彼らに対してどのようなケアが施せるだろうか。鍵は、企業がエンパワーメントや成長といった自己啓発を継続的に支援する仕組みをいかに整え、ストレスを可視化できるかということになりそうだ。

忙しい街ニューヨークにある企業Noomでは、アサイーボールや会議の間のヨガだけでなく、エンパワーメントや成長など、燃え尽き症候群を防ぐために重要な社員の経験もウェルネスとして捉えている。そのため、メンターシップや仕事上の目標やワークライフバランスに関するオープンなコミュニケーションを推進している。その結果、Noomの従業員の97%が「仕事とプライベートのバランスをとることが奨励されている」と回答している。

オンライン上にもストレスを共有できる空間を創り、ワークライフバランス確保の重要性を共通認識出来る仕組みだ。従業員の回答からは、働き方に対してポジティブな見解を持っていることが垣間見える。組織という枠組みの中で従業員を見守り、レジリエンスを育んでいくことで効果的なストレスマネジメントが期待できそうだ。

今後、更に働き方の自由度が増すだろう。多くの選択肢に囲まれ、セルフマネジメントが重要視される現代において、メンタルヘルスの悪化は「個人」の問題に帰結してしまいがちだ。デジタルが私たちの生活を取り巻く事によって、人の温かみが感じられなくなってしまうのはどこか寂しい。

オフライン・オンライン問わずに「心の繋がり」を持ち、大きなコミュニティーの中で支え合える工夫を探求していきたいものだ。

Well-being is now an essential benefit for the best workplaces in New York (Fortune)

アルゴリズムと情報の取捨選択

ソーシャルメディアの使用率はここ15年で大幅に増加している。2005年のアメリカではすべての世代で7%以下だったものが、2021年には18-29歳で84%、30-49歳で81%、50-64歳で73%と幅広い世代で使用されていることがわかる。わたし自身の生活を考えても、YouTubeやTwitter、Instagram、zoom、Slackなど、コミュニケーションの中核を担う存在となっている。

一方、メンタルヘルスとの関連性に懸念の声が上がるのも事実だ。Facebookの内部告発をはじめ、ソーシャルメディアへの依存率が増加したパンデミック禍では話題に上がる機会も増加した。

これらの問題に対し、すでにいくつかの策が講じられている。Instagramは、自分が設定した時間が経過すると「Time for a break?」という画面が表示され、深呼吸や曲を聴くことを推奨する新機能の提供を開始している。また、保護者向け監視サービス「Bark」は、子どものSNSやメッセージなどをスクリーニングし、懸念を示す用語が検出されるとアラートされる仕組みとなっている。

このようにプラットフォーマーや企業による対策が進められるなかで、この記事では少し違った視点からソーシャルメディアとの向き合い方について語られる。

それはアルゴリズムの影響を知ることだ。多くのソーシャルメディアでは、ユーザーの興味によって画面がカスタマイズされている。このおかげで、近しい人やコミュニティとのつながりを深めたり、興味のあるコンテンツを探すのが容易になった。

問題は、アルゴリズムが興味の種類を見極められないときだ。例えば「ヘルシーレシピ」と検索した人の画面に、過激なダイエットや摂食障害に関するコンテンツが表示された場合、その結果として不安や鬱につながることは想像に難しくない。

プラットフォーマーの対策が求められるのはもちろんだが、わたしたちもオンラインでの行動に責任を持つ必要があるだろう。アルゴリズムの影響を理解した上で、本当に見たいものなのか、繋がりたい人なのか、と情報を取捨選択し、自分の社会を形作っていきたい。

How social media is changing our brains (The Dallas Morning News)