Scanner

ENGLISH

移動のグランドデザインとCO2削減

Focus

エネルギー危機と気候危機のバランス

輸送を考える上で動力となるエネルギー課題は切り離せない関係性にある。また2022年3月現在では、ウクライナ侵攻に関わる社会情勢もその未来の在り方に影響を及ぼす。

まず、マクロ的な輸送手段である海運を数字から追うと、 海運業において1日で使用される化石燃料の対価は約5.18億円、世界の商業船舶の数は5万艘、今後20~30年の間に世界の海運を脱炭素化するための総コストは約200兆円とも言われる。

世界経済がパンデミックから回復するに従い需要が供給量を上回り、今年2月から石油価格は高騰の兆しがあった。しかし、2月下旬のロシアの侵略により原油の価格は急騰。今週は3月前半には130ドル/1バレルに近づく。ロシアからの原油輸入に頼るヨーロッパをはじめ、アメリカは原油に依存しないエネルギー政策が急務となった。

アメリカでは、クリーンエネルギーへの移行を加速するため主要法案である「BuildBackBetter Act」が提議されている。法案には、風力・太陽光・地熱などの低炭素技術を導入するための5,550億ドルの支出、EVの購入者への税額控除、建築物のエネルギー効率・動力源の変更といった内容が含まれる。

シンクタンク・EnergyInnovationの分析によると、法案を通じた電気自動車の供給により、米国の石油消費量は2030年までに年間1億8000万バレル削減建築物の規定により、2030年までに米国の天然ガス使用量を年間4.7兆立方フィート削減するなどの見通しがある。これはヨーロッパが昨年ロシアから輸入したエネルギーの85パーセントに相当する。

ヨーロッパ各国でも風力や太陽光発電、電気自動車などのよりクリーンなエネルギー源に移行することで、石油やガス市場の激しい変動に対する脆弱性を大幅に減らす見込みがあるが、完全な移行にはもう少し年月がかかりそうだ。

As War Rages, a Struggle to Balance Energy Crunch and Climate Crisis (The New York Times)

Opinion

「優雅な空の旅」とエネルギー問題

「飛行機で旅行するよりも、鉄道の方がサステナブルでしょ。」

デンマーク留学中、現地学生と旅行の話になるとよく聞くセリフだ。

The Economistの記事によれば、空の人・モノの移動を支える航空産業が排出する二酸化炭素量は世界全体の炭素排出量の約3%を占めているという。移動距離1キロメートルあたりの排出量の中では最悪だ。移動の容易さとコストの低下に加え、排出量を抑制するための規制がないため、このままでは2050年までに炭素排出量全体の9%を占めるまでに増加する可能性がある

そんな中、KLMオランダ航空は先進的な取り組みを加速させている。アムステルダム発のフライトに0.5%のサステイナブル航空燃料(SAF)を追加し、更に乗客にサステイナブル燃料を追加購入するオプションを提供したのだ。

そんなSAFのCO2排出量は、化石ケロシンに比べて75%以上少ないが、一方でサステイナブル燃料のコストは少なくとも4倍であり、生産も遅れているという。実際2019年のSAFのシェアは0.18%で、まだKLM社の総燃料消費量の1%未満にすぎない。

シェア拡大のため「利便性」と「サステナビリティ」のトレードオフを考える必要があるが、「空」と大きく捉えるとどうしても一消費者としてエネルギー問題を自分ごと化することが難しい点がネックになりそうだ。

しかし北欧に住んでからというもの、市民社会のイニシアチブを身近に感じることから自身の消費の意義を考え直すようになった。スウェーデン語で「flygskam(フライトの恥)」と呼ばれる、飛行機が環境に与える影響への懸念の高まりなども目立つ。このような声を聞くと、とても「ヨーロッパ中を飛行機で飛び回る」などという発言は優雅に聞こえないのだ。

産業のエネルギー問題に対して、企業という大きな組織の取り組みを変革していくと同時に、どれだけ消費者にとって身近なイシューとして噛み砕いていけるのか注目していきたい。

How today’s reviled airlines could become greener (The Economist)

空きトラックから始まる物流改革

世界的なサプライチェーンの混乱や、環境負荷など、物流を取り巻くさまざまな課題が噴出する中、AIの活用が注目を集めている。

Analytics Insightの記事によれば、物流分野におけるAI市場は、2025年に最大38億ドルまで達する見込みだという。

有名なデータだが、旅客輸送および貨物輸送は温室効果ガス排出量の28%を占めている(2018年時点)。AIによる物流網の最適化は、より効率的で汚染の少ない輸送を実現するゲームチェンジャーになりうるだろう。

一例として、空きトラックと積荷のマッチングが挙げられている。荷物を届けた後、空の状態で帰路に着くトラックを有効活用する試みだ。Uber Freight など、さまざまなサービスがドライバーの支援に乗り出している。

物流におけるCO2の削減というと、モビリティの転換が脚光を浴びているが、より大きなシステムとして、いかに無駄を減らしていくかが、鍵を握るのではないだろうか。

How Logistics Procedure Optimization With AI Can Help Diminish The Transportation Sector's Environmental Impact (Forbes)

ガソリン価格とEV普及

ウクライナ情勢を受け、世界各国でガソリン価格が高騰し続けている。日本でも3月7日時点でレギュラーガソリンが174.6円/リットルと、リーマンショックが起きた2008年9月以来の高値水準となっている。

そんな中、改めて注目を浴びているのがEVだ。AutoPacific社のデータによると、EVの購入を検討するアメリカのドライバーは、2019年には4%だったが、2022年には11%まで上昇している。各メーカーによるラインアップ増加の影響はあるものの、ガソリン価格と関係していることも確かだ。実際、EVの購入を検討している人の83%が「充電の方が安い」という理由を挙げている。

EVメーカー「TESLA」のCEOイーロン・マスク氏は2006年、初のテスラ車「Roadstar」の発表とともに「テスラの目的は、化石燃料に頼る経済からの脱却」とブログで述べている。電力網や原材料、リサイクルなどの観点から環境負荷への疑問の声は上がるものの、ほとんどのEVはガソリン車と比較して、温室効果ガスの排出量が大幅に少ない傾向にある

とはいえ、調査からも明らかなように、消費者にとってインセンティブがもたらす影響は大きい。EV先進国であるノルウェーを見てみると、減税措置や補助金によって、EVの方がガソリン車よりも安く購入できるという状況になっている。(ノルウェーは自動車などのぜいたく品にかかる税金が世界でも非常に高い) 。電力の90%が水力発電、世界有数の産油国であるという状況から、ロールモデルにするのは難しいものの、アメとムチの絶大な効果は見て取れるのではないか。

Will high gas prices supercharge electric vehicle sales? (NBC News)

移動に遊び心と柔軟性を

クーターや電動自転車などのシェアリングサービスを利用したことがあるだろうか。これらの自動車よりもコンパクトで小回りが効き、環境性能に優れ、手軽な移動の足となるものをマイクロモビリティと呼んでいる。

ビジネストレンドが、「所有」から「シェア」に移行するとともに、マイクロモビリティも爆発的に普及している。市場はここ数年で驚くべき成長を遂げており、世界のマイクロモビリティインフラストラクチャの市場規模は、2028年までに142億9000万米ドルに達すると予想される。

ヨーロッパで電動スクーターのパイオニアとして市場をリードする「TIER」は、今月北米のスクーター会社を買収し北米進出を果たすこととなった。

これらのマイクロモビリティ普及の背景として、消費者間の柔軟な輸送手段に関する意識の高まりや、二酸化炭素排出量の削減に対して広い解決策が求められていることが挙げられる。

私自身、歩くのが少し億劫になってしまう距離をスクーターで移動することがある。指定のエリア内の移動が許されており、そのエリア内であればどこでも乗り捨て可能なシステムになっている。ステーションありきのシェアリングサービスのシステムを撤廃し、より自由なモビリティを実現している。

実際に乗り捨てできる柔軟性はマイクロモビリティの普及に一役以上買っている。自転車や車に比べて圧倒的に手軽で、コンパクトなスクーターだからこそ実現できる柔軟性なのかもしれない。 バスや車は、必ずしも効率的な移動手段になるとは限らない。遠回りや渋滞などが付き物である。より自由に、融通の効くモビリティがお財布にも環境にも負担がない状態で利用できる上に、スクーターの遊び心も加わればついつい利用したくなってしまうのでは。

Global Micro-mobility Charging Infrastructure Markets (Business wire)