デジタルプライバシーの行方
Focus
デジタルの未来とEUのビジョン
誰もがスマホ1つであらゆる情報にアクセスできるようになった。デジタル技術の発展は、私たちに様々な恩恵をもたらす一方、それと同時にハッキングによる国家機関の麻痺、アルゴリズムによる情報の自動的な取捨選択など、新たな問題が生まれているのも無視することはできない。今週は、デジタル社会におけるプライバシーの行方に着目したい。
ロシアのウクライナ侵攻は、セキュリティ強化/プライバシー保護の重要性を改めて実感する事態となった。特に近隣諸国のヨーロッパでは、デジタル分野の脆弱性を見直す動きが加速している。
そのひとつにEUにおけるAIの法制化がある。これはAI活用におけるリスクを軽減させると同時に、AIを活用したセキュリティネットワークなど、イノベーションを促進させるためのものだ。とはいえ、規制が強すぎると技術革新を妨げてしまう可能性があるため、安全性とのバランスを取る必要がある。
また、EUのサイバーセキュリティ機関、AI技術を活用したスタートアップ・中小企業への包括的な支援も求められる。
ただし、これらの動きはEUを取り囲むファイアウォールを築くものではない。欧州の人々が自分たちの手でデジタルの未来を開拓するためのものだ。この歴史的瞬間をターニングポイントに、EUは断片的ではなく、長期的なビジョンを掲げる必要がある。
Opinion
誰のためのデータ保護?
各国で整備が進むデータ保護規制。デジタル空間におけるプライバシーをいかに守っていくかは非常に重要なトピックだ。
しかし現行法に疑問を投げかける声もある。テキサスA&M大学の研究チームは、米国の保護法が公益に資するデータ利用を規制する一方、営利目的での利用は容認していると指摘する。
たとえば、健康データの利用制限ゆえに、公衆衛生機関はコロナ禍であっても、重要な情報にアクセスできないことがあったという。似たような課題は、医師や研究者も抱えている。
もちろん健康データはセンシティブだけに、厳しい規制がかけられるのも理解できる。しかし、アメリカ在住者およそ500名への調査では、公衆衛生や研究を目的とするデータ利用について、好意的な結果が見受けられる。
一方、もっとも否定的な意見を集めたのは、企業による、営利目的のデータ利用だ。しかし、ビジネスシーンにおける個人情報の利用は、緩やかな規制の元、広く行われている。
ここに、行政が定めるルールと、人々が求めるデータ利用のあり方の、乖離が見てとれる。
このようなズレを修正していくことが、データの正しい保護と活用による公益の実現に向けた第一歩となるだろう。
テック企業に飲み込まれないために
「テック企業が膨大な個人情報を管理し、私たちを広告市場と化した画面に釘付けにさせる」
そんな力強いメッセージを発信しているNetflixドキュメンタリー、「監視資本主義」を視聴したことがあるだろうか。
今や日本の20〜50代の95%以上がスマートフォンを所有している。企業VSユーザーという構造の中で、一消費者としてプライバシーをどのように守りながら、必要分を提供すべきであるか熟考するときだ。
最近の記憶に新しいのは、個人情報の流出への懸念の高まりからGoogleが発表した、3rd Party Cookieサポートの廃止だ。Appleが実際にこの変更を施行してから、iPhoneユーザーのほとんどは行動追跡を許可していない。
それ故、Cookieを顧客リサーチに役立てていた企業側は変革を迫られている。未来の企業の取り組みとして、プライバシー利用の透明性を確保していくために、①ユーザーの情報提供によるメリットが明白に説明されること②広告を受け取る側の選択肢を確保されることが求められていくだろう。
このようにいかに企業とユーザーの在り方を「対等」にしていけるかが鍵になりそうだ。
ここで一ユーザーとしてプライバシーという観点から企業と消費者の構造を読み解いてみると、やはり情報リテラシーを高めることの重みをひしひしと感じる。「何だか分からないので、流れに任せておこう」という安易な考えでは大きな時代の流れの中で溺れてしまうかもしれない。
情報を主体的に管理して最大限の利益を享受出来るよう、今後もテック企業の動きに敏感でありたい。
バブル、見えてますか?
本屋に入った時のわくわくを長らく経験していない気がする。語学本コーナーにいたはずが、気づいたら旅行雑誌を眺めているような、自分の興味の範疇を越えた新しい出会いをしなくなってしまった。
今では本屋に赴くことなく、手元のデバイスで即座に欲しい本を見つけることができるようになった上に、自分の興味をアルゴリズムが分析しておすすめまでしてくれる。Kindleで本を読む際に、ページを捲る速度、どのフレーズを強調表示するかまでもがデータとしてAmazonのサーバーにフィードバックされ、利用者の好みを割り出しているという。
このアルゴリズムは本に限らず、ネット上のあらゆる場面で活用されている。調査によると、上位50位に入るインターネットサイトは平均して64種のデータをクッキーやその他の追跡アルゴリズムによってサーバーにインストールしているという。
このアルゴリズムによって自分が欲しくなる情報しか得ることができない状態を「フィルターバブル」と呼ぶそうだ。
フィルターバブルによって生まれる弊害として、プロパガンダによる思想の分断や、思考の偏り、フェイクニュースの拡散などが挙げられる。私たちはページを開くごとに、知らず知らずのうちに自ら情報統制してしまっているのだ。 情報に溢れた現代だからこそ、バブルに包まれていることを認知した上でもっとニュートラルに世界を見つめることに注意を払っていきたい。
シークレットブラウザを開いて、本屋での出会いのようなランダムな情報に興味を散らしてみよう。