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メディアとジェンダーギャップ

Focus

ハリウッドが取り組むダイバーシティ

2015年、アカデミー賞俳優部門に白人のみがノミネートされたことに対し、ネット上では #OscarsSoWhite (オスカーは白人だらけ) と批判の声が上がった。このトレンドは大きな波紋を呼び、映画業界における俳優だけでなく、制作スタッフの多様性も見直されるきっかけとなった。

しかし、UCLAが発表した2022年の調査によると、女性の映画監督は全体の22%以下、脚本家は33%以下と、制作スタッフのジェンダーギャップは否めない。この一因として、映画制作における資金調達の問題がある。女性の監督は白人男性の監督と比較し、2000万ドル以上少ない資金で制作するケースが多いという。

これらの現状は、制作スタッフの多様性の欠如、という問題だけではない。作り手の多様性は、作品にも影響を与える。実際、女性が脚本・監督を務める作品ほど、多様性に配慮したキャスティングが行われる傾向にある。

アカデミー賞を主宰する映画芸術科学アカデミーは、2024年から作品賞の選考に人種やジェンダーに関する新たな基準を設けることを発表した。画面を通じて世界をつなぐメディアとして、業界全体での変化を目指している。今週は、メディアとジェンダーの関係性に着目してお届けしたい。

Here’s where Hollywood’s efforts to improve diversity really stand in 2022 (UCLA)

Opinion

バリキャリ・プリンセス

華やかなディズニーのプリンセス達。

今でこそ分からないが、私が幼稚園生だった頃には「プリンセスごっこ」が流行していたものだ。「女の子の憧れ」と位置づけられるキャラクター象は、一昔前から現在までかなりアップデートされている。おしとやかに、繊細で、王子のために至れり尽くせりという姿はもう存在しないのかもしれない。

記憶に新しいのが実写版「アラジン」だ。アニメ版ではアラジンとの結婚を許可してもらうところで物語がハッピーエンドを迎えるのに対し、実写版ではプリンセス・ジャスミンが才能を認められ次期国王に任命されるまでを描いている。家庭の領域を超えて、確固たる意思を持ちキャリアを積んでいく主体性が強調されているのだ。

このようなプリンセスを見て、子供達の思い描く未来の自由度やそのスケールが一気に広がっていくことにワクワクする。その一方で、「アメリカナイズ」されたジェンダー観を絶対正義とするのは危険だと身を引き締める。世界を見渡して、地域や宗教によって倫理観が異なることを柔軟に考慮していくべきだろう。

ひとつの正しい姿を追求するのではなく、より「ニュートラル」な視点を持ちながら、映画に表現されるジェンダー観を吟味してみたいものだ。

8 Empowering Lessons We Can Actually Learn From Disney Princesses (The Global Citizen)

セグメンテーションか、ステレオタイプか

人は平均して1日に最大で10,000個もの広告を目にしていると推定される。無意識と言えど、それほど多くの広告を目にしていれば、広告は私たちの思考や価値観に影響を与えていることは明らかである。

その中でも問題として懸念されているのは、ジェンダーステレオタイプの刷り込みである。 日本では、電車の中やYouTubeの広告で多くの脱毛サロンの広告を目にすることが多い。しかし、その多くは「女性向け」に作られた広告で男性が広告の中で登場することは圧倒的に少ない。加えて、「ムダ毛があると女性は恋ができない」「ムダ毛がないことが正義」のようなメッセージを広告に込め、恐怖心を煽るような広告も存在する。

インドでは、「国際女性デー」にちなんでキッチン家電を女性に売る広告を打ち出し、ジェンダーステレオタイプの押し付けであると批判が寄せられた。未だに、洗濯やキッチン用品、ベビー用品の広告として女性が多く出演していることは、女性が家事の担い手であるといったメッセージが含まれているように感じる。

このような広告に対して消費者が取る行動にも変化が現れてきているという。Microsoftの研究によると、Z世代の70%が広告において多様性を表現しているブランドを支持しており、49%が多様性を阻害するブランドからの購入をやめているという。若い世代では、自らの買い物が一票を投じるという考え方がより顕著に現れているようだ。

若者の清き一票を投じてもらうためにも、広告業界は、セグメンテーションの過程においてジェンダーステレオタイプが混ざっていないか、一層注意を払う必要があるだろう。

Pursuing Best Practices For Representation In Advertising (Forbes)

高等教育とジェンダーギャップ

教鞭をとる女性の多さ。

デンマークの大学で感じたギャップの1つだ。私が通っている Aarhus BSSのデータ(2020年版)を見ると、Associate Professor以下の各職位で、男女比がほぼ1:1になっている。Professorに占める女性の割合は30%と、数字的に見劣りするが、日本(女性教授は全体の18%)よりは高い水準にある。

内閣府による2017年の調査では、女性研究者が少ない理由として、職場環境だけでなく「家庭と仕事の両立が困難」「育児期間後の復帰が困難」といった回答も目立つ。その一方、デンマークでは、お腹に赤ちゃんのいる先生がオンラインで講義するといった光景を目にすることも(日常茶飯事ではないが)多い。

いわゆる子育て支援に関する制度を拡充する企業は日本でも徐々に増えているが、高等教育機関など、研究現場にも同様の議論・取り組みを広めていくことが一つ重要なポイントになるだろう。

教育・研究における男女共同参画 (男女共同参画白書令和3年版)