ビューティーの現在地
Focus
メンズコスメの浸透
国際的なリサーチ会社 Ipsos は3月、メンズコスメの市場レポートを発表した。グルーミング・スキンケア・メイクの3つの分野から、市場・消費者の動向を調査している。
レポートによると、アメリカにおけるメンズコスメの市場規模は2倍にまで拡大すると想定される。この要因として、ECの持つ匿名性、SNSの拡大が考えられる。一方、世代間で比較してみると、そこには様々な違いを見ることができる。
メイクにおいては、18〜65歳の約30%が使用を前向きに検討しているという。ところが、18〜34歳と51歳以上ではその結果に大きなギャップがある。18〜34歳の男性では「使用を検討していない」と回答した人が37%であるのに対し、51歳以上では73%となっている。彼らの考える「男らしさ」とのギャップから、自分がメイクをしていることを知られることに大きな懸念を抱いているようだ。
一方、スキンケアでは、51歳以上の男性は18〜34歳の男性と比較して毎日のスキンケアを習慣化している人が多い。その動機として、若く見られたい、見た目を良くしたい、という意見が多く、18〜34歳で多く見られる「モテたい」とも異なっている。
このように世代における意識・動機への違いはみられるものの、すべての世代においてメンズコスメは浸透し始めている。今週は、時代や地域、シーンにおいて変化してきた美への価値観に着目したい。
Opinion
現代に返り咲いたメンズメイク
「男性と化粧」の歴史を紐解いてみよう。
実は男性の化粧は有史以前から始まっていたらしい。
ブリストル大学のジョアン・ジルハン教授が2010年に行った考古学的発掘によれば、ネアンデルタール人は、自分の特徴を際立たせるために黄鉄鉱や光る石を砕いて使っていた。今で言うファンデーションも付けていたそうだ。
もう少し身近な近現代の話。1800年代、フランスのルイ14世が男性にルージュやカツラ、パウダーを使うことを奨励し、男性用の化粧品がブームになった。
この風潮に大きな舵を切ったのは、イギリスのヴィクトリア女王。彼女が化粧を悪魔と関連付け、恐ろしい発明と宣言したとき、男性の化粧は社会的に抑圧されるようになった。第二帝国とも称されるこの時代、世界に与えたインパクトは大きい。
新しい風を吹き込んだのは、派手なメイクを施したロックスターや、誰もが知るK-POPスターBTSなど現代の男性美容のパイオニア達。
男性の化粧の意義は時代によって移り変わる。古代から近代にかけての文化は、そのほとんどが「富」を象徴するものであったそう。現代においては社会的な抑圧への反抗だったのかもしれない。そうして固定概念を覆した先は、どう優れるかよりどうオンリーワンであるかを問う。
先人の築いた化粧の歴史を辿ってみると、自然・宗教・政治的要因の中で時には抑制されながらも「美」は鮮やかな変容を遂げている。今流行りのジェンダーニュートラルな化粧品の数々が、またフレッシュな文化を創造していくだろう。
”Unrealistic”な美の基準を超えて
美しいってなんだろう。
肌の色、体型、その他諸々。様々な角度から定義される(外見的な)美の基準に、私たちは囚われすぎていないだろうか。
例えば、カラリズム。他民族間はもちろん、同じ人種の中で、相対的に肌が暗い人を差別する風潮だ。”Hair Story”の著者として知られるTharps氏は、アフリカ系アメリカ人の間で明るい肌色が好まれる背景として、白人の生物学的優位性という、過去の間違った認識をあげている。一方、アジアにおける美白信仰は、必ずしも白人至上主義的な価値観のみと結びつくものではない。古代中国で日焼けをしていない肌がエリートの象徴とされたのは、その一例だ。
いずれにせよ、多くの有色人種が「白い肌」に憧れてきたこと、そのような憧れを背景に化粧品産業が大きく成長してきたことは事実だろう。
また、いわゆる白人にも当てはまるのが、ファットフォビア(肥満恐怖症)といった言葉に代表される「痩せ型礼賛」だ。好まれるのは、例えばウエストが細く、曲線的な、砂時計のようなスタイル。
あまり現実味のない基準にも聞こえるが、このような美の定義と比して、自分が美しくないと感じている人は多いようだ。例えば、Doveの調査”The Real Truth About Beauty”によると、自らが美しいと考えている女性はわずか4%しかいない。特に近年では、ソーシャルメディアや加工ツールの発達により、再現なく美の基準が引き上げられているとの指摘もあり、”Unrealistic beauty standard”という言葉で非難されている。
翻って自分自身に目を向けると、肌は浅黒いし、お世辞にもスタイルがいいとは言い難い。とはいえ、今から美白を目指すのはあまりリアリティがないし、身長を伸ばすのも(フォトショップで時空を歪める以外)だいぶ厳しい。ここまできたら、既存の価値観、美の基準に無理やり自分を当てはめようとするより、自分自身の愛すべき点を探すことに時間を割くほうが、有意義かもしれない。
美の大量消費
何か欲しいものがある際に、インターネットを使って商品を比較したり、口コミを集めたりすることは多い。洋服などとは違って、一度でも使って仕舞えば返品交換が難しいコスメであれば、より色々な情報が欲しいものである。
そこで活発になっているプラットフォームがソーシャルメディアである。YouTubeでは、美容系Youtuberが男女問わずメイクアップチュートリアルやコスメレビューをしていたり、インスタグラムやTikTokなどでも様々な方法でスキンケアやコスメに関する情報を見つけることができる。
特にTikTokはこの3年間でダンスのアプリだけではなく、広告宣伝としての機能としての影響力を急激に強めてきている。Tiktokの中毒性の高さを利用して、#TeamNoSleepのような美容トレンドに関する宣伝の生成が行われたり、SephoraやKylie Cosmeticsなどの大手コスメブランドが2021年のショッピング宣伝イベントに参加した。
いわゆるTikTokで”バズる”というのは相当な経済効果を生み出すようで、Deciemの The Ordinaryの化粧品の売上はTikTokで話題になった後に売上が426%も急増したという。
「TikTokはブランドが消費者と繋がる最適なプラットフォームである」という意見があるものの、”バズる”ことによって盲目的に消費行動が行われているのではないか。個々が持つ性質というものは違うゆえに、スキンケア一つとっても、いわゆる”One fits all”というものは存在し難い。特に美容においては、”誰のための何なのか”を忘れないようにしたいものである。