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ネットワークとアクセシビリティ

Focus

Twitter 買収狂奏曲

4月25日、イーロン・マスク氏はTwitterを約5兆6000億円で買収。2億人のユーザーを抱えるソーシャルメディアの再構築が始まろうとしている。

買収にあたり、彼がもっとも強く訴えているのは「言論の自由」だ。Twitterをデジタル版・町の広場と表し、仮に攻撃的なツイートがあったとしても、それが合法であれば削除すべきではないというのが彼の考えだ。これを後押しする機能として、編集機能の追加、アルゴリズムの一般公開、ボットアカウントの撲滅などを提案している。

一方、暴言や嫌がらせを助長する、証拠隠滅が可能になる、といった懸念の声も上がっている。また、ピューリサーチセンターが調査したアメリカ人のTwitter利用状況によると、ニュースの情報源として活用している人の57%は時事問題への理解が深まったと回答する一方、31%は「ストレスレベルが上がった」とも感じている。今後進められる投稿規制の緩和により、私たちの情報取得のあり方にも変化が起こる可能性がある。今週は、そんなITインフラへのアクセシビリティとそのリスクに着目したい。

Elon Musk bought Twitter. Here's what he says he'll do next (npr)

Opinion

スワイプで真実を見極められる?

緊急事態が発生した時、人はどう情報を集めようとするだろうか。

テレビやラジオの速報に加えて、今やツイッターは大切な情報インフラだ。自身のアクションの正誤を明らかにするべく、実際に人がどのように考え行動に移しているのかをいち早く知れる。発信先は全世界であり、ハッシュタグ一つ検索してみれば、ありとあらゆる視点から情報を検討することが出来るのだ。

ソーシャルメディアが生活に欠かせない存在になりつつある中、ロシアの国家通信規制当局はウクライナ戦争中、ツイッターの利用を制限した。情報インフラが政府によって奪われるのは衝撃だが、その決断に至った背景を一歩引いて見つめてみたい。まずは「情報収集の自由」は保証されるのかという問いだ。ここでは個人の情報収集自体が企業や政府によって操作されうるものであるという危険性を喚起させる。特に情報へのリーチに多大な影響があるオススメや広告欄のアルゴリズムまで巧妙に再設計されるのだ。もう1つは「言論の自由」がどこまで確保されるべきかという観点だ。情報の海の中には必ずフェイクニュースや極端な意見も存在する。これは誰の発言でも瞬時に全世界に行き渡る気軽さに潜むリスクだろう。現にツイッターは誤報の拡散などを受け、ロシアのプーチン大統領を含む300以上のロシア政府公式アカウントのコンテンツを制限した

情報へのアクセシビリティーを考える上では、個人として大きな権力が必ずしも信頼性の高い情報を公平に発信しているのではないという前提を胸に刻み、「安心安全な情報」に対して基準が設けられていく背景にも目を光らせていきたい。

Russia blocks access to Facebook and Twitter (The Guardian)

アフリカのデジタルデバイド解消に向けて

5GやIoT、光回線など、インターネットが進化する中、アフリカでは一体どれほどの人がサービスを享受できているのだろうか。

国際電気通信連合によると、世界で約29億人 (世界人口の約37%) がインターネットにアクセスできていない状態にあるという。特にアフリカでは、推定8億7100万人 (人口の約67%) がオフラインだ。このような人々にとって、インターネットを介したサービスの享受・提供は不可能であり、コミュニケーションや情報へのアクセスも難しくなる。

とはいえ、アフリカにおけるネットワークの普及は着実に進んでいる。様々なステークホルダーとのパートナーシップにより、都市部と地方でのギャップは2014年の51%から2020年には19%まで減少している。

より大きな問題は、デジタルデバイスとデータ使用量の価格の高さだ。サハラ以南のアフリカは世界で最も (給与と比較し) デバイス価格の高い地域となっている。そのため、インターネット接続圏内に住んでいながらもアクセス出来ていない利用者のギャップは2014年から広がり続けている。

私自身、大学時代から使っているiPhone XSの価格は当時10万円を超えており、かなり高額な買い物だったことを覚えている。とはいえ、格安スマホや他メーカーの安いデバイスなど、価格を抑える選択肢を選ぶことは可能であった。アフリカにおける利用者のギャップを解消するためにも、より多様な選択肢の構築が鍵となるだろう。

To Close Africa’s Digital Divide, Policy Must Address the Usage Gap (Carnegie Endowment for International Peace)

社会インフラの礎となるアイデンティティを築くために

デンマークに着いて、真っ先にした手続きがCPRナンバー、日本でいうマイナンバーの取得だ。医療・行政サービスはもちろん、口座開設や賃貸契約など、官民問わず様々な場面で、個人認証に利用されており、CPRナンバー無しではかなり不便な生活を強いられることになるだろう。そのような事情もあってか、外国籍でも3ヶ月以上デンマークに滞在する場合、CPRナンバーの申請が必要とされる。

自分の場合、PCR検査を受ける時など、用途こそ限られているものの、恩恵は大きく、社会インフラとしてのマイナンバー制度、その浸透具合に驚かされた。専用ページでの予約から結果通知、ワクチンパスへの自動反映まで、スムーズな手続きがCPRナンバーによって支えられている。

マイナンバー制度が効力を発揮した例としては、他にも台湾のコロナ対策などが挙げられるだろう。日本でマスク不足・買い占めが問題となっていた中、国民データとマスクの販売データを活用し、実名販売制を採用した台湾の試みは記憶に新しいだろう。

とはいえ、このような取り組みを進めるうえではプライバシー保護との兼ね合いが論点になるだろう。

たとえば、台湾は他にも、スマホの位置情報を利用した隔離状況の確認システムなどを運用している。その背景には、SARS流行後、有事に国民への強制力をもった法整備を進めたことが挙げられる。

またデンマークの場合、CPRナンバーやそれに紐付く個人情報へのアクセスは、公共機関や民間企業にも一部許可されているが、公開範囲や条件が明文化されている。

マイナンバーのような制度を社会インフラとして成立させるには、個人情報がどのように守られ、どのように活かされていくのか、明確な法整備を進めていくことが必要になるだろう。

CPR -デンマークのマイナンバー制度 (Zoom Up 世界のマイナンバー)