Scanner

ENGLISH

祭礼にみる文化のアップデート

Focus

夏祭りの再来とオーバーツーリズム

オーストラリアの真夏に開催されるフェスティバル「Woodford Folk Festival」。コンサートやダンス、演劇など様々なイベントが6日間を通して行われ、人口約5600人の都市に約13万人もの人々が集う大規模なイベントだ。2020年、2021年はパンデミックの影響で中止を余儀なくされていたが、2022年から再開することが決定した。このようなイベントは、経済の活性化、地元コミュニティの強化、地域社会の体験など、非常に多くのメリットをもたらす。

一方、オーバーツーリズムの問題に備える必要もある。アメリカ・シアトルにある人口2000人ほどの小さなドイツ村、レブンワースには、毎年100万人もの観光客が訪れる。特にクリスマスを祝うイルミネーションの点灯式には、一晩で1万人以上が訪れ、地域住民の人々が公共交通機関に乗れない、レストランで食事ができない、といった問題が発生している。

この問題に対処すべく、イルミネーションの開催期間を週末のみから1週間に延長し、平日での来場者誘致を計画。また、イベントの目玉であった点灯式は中止にしたという。レブンワースは観光業で栄えてきた町であり、この先の繁栄のためにも祭典の形態を変化させているのだ。今週は、祭典に見る食や舞踊、テクノロジーのアップデートに着目したい。

Woodford Folk Festival set to return in 2022 (ABC)

Opinion

七面鳥が語る感謝祭の歴史

日本ではあまり馴染みのない感謝祭の休日。11月のお休みで七面鳥を食べる慣習があることしか私も知らなかったのだが、留学先のアメリカ出身の友人が伝統的なサンクスギビングディナーに招待してくれた。野菜を詰めてオーブンで丸焼きにする七面鳥を実際に直接見るとその迫力はなかなかだった。(なかなか火が通らず、夕食が2時間後ろ倒しになったが、笑)他にもマッシュポテトとクランベリーソース、ピーカンナッツパイなどの伝統的な料理が食卓に並んだ。

1621年から始まったと言われており、去年で400周年を迎えた感謝祭の伝統。現在では、11月の第4木曜日に家族と美味しい料理を食べて過ごす慣習があるが、七面鳥など食事の文化や「感謝」の意味合いは時代と共に変化している。日常的に行われていた英国の収穫祭が、ワンパノアグ族とイギリス人が一緒に食事をするようになりアメリカに渡ったとされている。しかし、西部開拓時代には、ネイティブアメリカンとの戦いに勝利したことを祝う慣習として変化した。また、感謝祭の休日は頻繁に変化しており、エイブラハムリンカーン大統領が南北戦争中の国民の祝日として感謝祭を再び確立したことにより、「ご馳走の日」から「秋の収穫を示すもの」として祝われるようになった。

現代の慣習にも、西部開拓時代の面影を残している慣習が七面鳥を食べる文化である。ネイティブアメリカンが、ガチョウや七面鳥などの野鳥を狩って入植者に振る舞ったことをきっかけに、狩りやすい大きな鳥は入植者にとっても重要な食糧源となった。

「秋の収穫」は皮肉にも、ネイティブアメリカンにとっては負の記憶を想起させるものとして残ってしまった。慣習の意味は歴史に揉まれて必然的に変化を遂げていくが、刻まれた歴史に目を向けて今一度自分達の文化を辿ってみたい。

How the traditional Thanksgiving feast has evolved over centuries (National Geographic)

盆踊りの懐かしさを繋ぐ

夏祭りのアンパンマン音頭はどこか郷愁をそそるものがある。

1000年前を起源とする盆踊りは、世界からも注目を集める風物詩だ。祖先を弔い、豊作を祈願することが目的だが、江戸時代には、憂さ晴らしや出会いの場としての素朴な祭りへの進化したそう。現代にも、そのほとんどが老若男女誰でも参加できる娯楽として親しまれる。

アップデートされた盆踊り文化を覗いてみたい。日本の伝統舞踊に関して、旅と祭りの編集プロダクションB.O.N代表 大石始氏へのインタビュー記事では、「盆踊り」の意義と、「ダンス」自体の価値変遷について語られている。盆踊りは「見せる」ではなく、「一緒に踊る」舞踊として、流動性のある地域では再会の場所として機能し続ける。地域コミュニティーにどのような人が居て、どんな関係性が築かれているのかをフィジカルな空間で観察できる。ダンスの価値変容にはSNSの影響が大きい。今やTikTokではテンプレートのダンスを自分流にアレンジして投稿することが流行っている。若い世代はSNSという空間で「ダンス」の中に人々との共通性を見出すようになった。伝統舞踊も一つのコンテンツとして、浴衣を着て盆踊りにいくというコスプレ的な意味合いが高まり、伝播性を持つようになっていくだろう。

大石始氏へのインタビューは2017年のものだ。当時から新型コロナウイスの蔓延を経た今、より地域のコミュニティーとしての帰属意識はより薄れがちだ。今年こそ野外での夏祭りが舞い戻ったら、盆踊りの輪にダイブインして地域の人と心繋がる瞬間を体験してみてはいかがだろうか。私も留学から帰国する夏には、アンパンマン音頭を聞いて湧き上がる新たな感情や、昔懐かしい人との再会を今から密かに楽しみにしている。

DANCE 360 ― 舞踊分野の振興策に関する有識者ヒアリング (アーツカウンシル東京)

民芸を未来に繋ぐテクノロジー

今年3月に開催された「バーチャル身体の祭典 VIRTUAL NIPPON COLOSSEUM」。芸術・芸能・スポーツの垣根を超え、デジタルパフォーマンスの可能性を模索するプロジェクトだ。

中でも興味深いのが、パフォーマーの動きをモーションキャプチャーで記録・保存する試み。少子高齢化やコロナの影響で失われつつある民俗芸能を、未来へ継承していくことが狙いだという。実際に、プロジェクトでは山形県上山市の民俗行事「加勢鳥」がアーカイブされ、そのモーションデータを販売している。

これまで「伝統芸能×テクノロジー」の分野では、既存の表現手法をどうアップデートするのか、という未来志向のトピックが注目を集めてきた。しかし、新しい表現を模索する上では、背景にある歴史や宗教観などを深く理解するプロセスが不可欠なように思える。単に組み合わせの妙から生まれただけの突飛な表現が、真に伝統の延長線上にあるとは言い難い。

その点、芸能の担い手が蓄積した技術をデータ化し、オープンにする取り組みは、民俗芸能を研究するための資料としても、デジタル空間における表現の実験材料としても有用なものになるだろう。過去を見つめ直し、新たな表現を築くための橋渡しとして、このような取り組みに期待したい。

テクノロジーで芸術と芸能とスポーツを越境する:AR三兄弟が実践した「祭りの伝統を継承する」ためのデジタルアーカイブ (WIRED)