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学習のボーダレス

Focus

クリエイターは新時代の教師?

活況を呈するクリエイターエコノミー。その市場規模は2021年に1,000億ドルを超えており、多くのクリエイターが自身のコンテンツから収益を上げることに成功している。「学習」というジャンルにおいても、クリエイターエコノミーは学ぶ手段の選択肢として広がり始めているようだ。

これまでの教育機関にはなかったメリットとして、価格の安さや自分のペースで学べることが挙げられる。また、常に生み出される新しいコンテンツから何を学ぶのか、どんな人から学ぶのか、といった多様な選択肢も大きな魅力のひとつだ。Canvaの創業者からビジネスを学び、ナタリーポートマンから演技を学ぶこともこともできる時代となった。

学び手にとっては多くのメリットがある一方、その影響が及ぶ範囲に目を向ける必要もある。大学や専門学校への入学者数が減少すると、医師や看護師など専門職への新規参入率が低下する恐れがある。また、資格という価値が低下したとき、限られた市場での競争が激化する可能性も考えられる。オンラインにより学習手段や地理的条件、アクセス環境など多くのボーダーラインを超えたとき、私たちの学びはいかに変化していくのか。今週は学びのボーダレス化に着目したい。

How The Creator Economy Is Disrupting Higher Education (Forbes)

Opinion

VUCAに生きる主体性

高福祉国家と呼ばれる北欧のスウェーデンでの留学生活もいよいよ残すところ1ヶ月を切った今、「学ぶ」ことに対する考え方や姿勢の違いについて感じることがある。日本の大学と比べて、圧倒的に授業数が少ない。1学期合計で受講する授業の数は4つ程度で、授業がある日は週に2〜3日ほどしかない上に、出席を取る授業もほとんどない。

日本の時間割と比べてなぜこれほど、生徒に自由が与えられているのか。もちろん、授業にも出ずに何も勉強せずに単位が取れるかと言ったら大間違いだ。代わりに、私たちはその授業内で読むべき論文が大量に与えられる。授業はそれらの論文を読んだ前提で進められ、そこで学んだことを基に議論をする。そもそも授業はメインとなる学びの場ではなく、あくまで自分の学びを深め生かす場として補足的なものと考えられているようだ。

大学4年にもなって恥ずかしいのだが、大学に通うことの意義を再確認させられた。大学は学ぶ意志を持って通う場所であって、義務教育ではないのだ。使えるものは何でも使って自分の学びを広げられることが大学で学ぶ最大の利点なのではないだろうか。そう考えた際に、スウェーデンの大学は学生のポテンシャルを引き出すためのシステムが整っている。あくまでインプットは個人で。大学では主にアウトプットを促すことによって学生の学びを最大限活かすことができる。無論、自分が何を学びたいのかをはっきりさせなくては何も始まらないが、「学ばされる」よりも「学ぶ」方が効果的なのは明らかだ。いわゆる「アクティブ・ラーニング」というもので、学習能力の強化や、継続力の向上など多くのメリットが発見されている。

主体的に学び、自分の持てる環境を最大限に活かすことが必要なのは、大学での学びに限ったことではない。VUCA時代を生きる私たちにとって、自分の耳や目を世界に向け続けていくことは必須であり、生涯学習におけるアクティブラーニングは鍵になりそうだ。

若者の将来が盗まれないために

盗まれた将来。そう題されたユニセフの報告書(2018)によれば、3億300万人もの子供(5〜17歳)が学校に通えていないという。

3分の1にあたる1億400万人が暮らすのは、紛争や自然災害の被害を受ける地域、たとえばナイジェリアや中央アフリカ共和国、南スーダンなどだ。しかし、人道危機に晒された国々への教育支援は、十分なものと言い難い。いわゆる人道支援金のうち、教育に割り当てられているのは、たった4%にも満たない額である。

また、ジェンダーや社会階層も、子どもたちから教育機会を奪う要因として(残念ながら)健在だ。就学率の性差は世界的に縮まりつつあるが、紛争地域では依然、2.5倍もの開きがある。加えて、貧困層の子供は、富裕層の子供と比較して、初等教育を受けられない可能性が、4倍以上あるという。

このように、さまざまな理由で「将来を盗まれた」子どもたちと教育機会を、いかにして再接続するかは、SDGsの目標にも掲げられる大きなテーマである。そこで今回は、サハラ以南の国ガーナにおける教育改革を取り上げたい。

高等教育就学率40%を2030年までの目標に掲げるガーナは、EUとのパートナーシップを強化することで、若者へより多くの留学機会を提供しようとしている。実際、2004年から2021年にかけて、学生およびスタッフ1200人が、EUの提供するエラスムス奨学金を利用してヨーロッパに短期留学し、400人が共同学位プログラムで修士号を取得したという。

教育機会の損失は、個々人にとっても、社会全体にとっても経済的インパクトが大きい課題である。そのため、国境を越えて質の高い教育にアクセスできるシステムは、教育格差の深刻な地域で学ぶ若者が将来を切り開くうえで大きな意義をもつことになるだろう。

A Future Stolen:Young and out of school (Unicef)

世界の有志と学ぼう

オンラインで気軽に学びが得られるのは良いけれど、結局3日坊主。

語学や金融など、世界中の学びを地球のどこにいても得られるこの時代に、オンライン学習へのハードルは2つあるように感じられる。まず「学びをはじめる」壁。もうひとつは「学びをつづける」壁だ。どんな興味の湧く内容を、どの講師から学ぶのか。そしてどう生活の中に学びの習慣を定着させるのか…。そんな悩みを解決するかもしれないのが、Discordをはじめとするコミュニケーションアプリ。興味のあるトピックごとにチャンネルを作成し、テキスト、ボイス、ビデオを駆使してコミュニケーションが取れるサービスだ。YouTubeの登録者数が7万6千人を超える高校教師のSinn氏も、このアプリを利用して人文地理学を学ぶ場を提供している。数千人の生徒がいるこのコミュニティには、勉強のヒントやリソース、毎日の復習問題、ユニット別のチャンネルがあり、スタディナイト、Q&A、ゲームナイトといった機会も作り出しているという。アプリ内を探検して興味のある学習コミュニティを見つけ、そこに集う世界の有志とコミュニケーションを取りながら学べることは、モチベーション維持に繋がるだろう。

このように学習コミュニティは世界に開かれているとは言え、それが「平等」に与えられているかと問われれば懐疑的だ。今やDiscordのみならず、Slackや個人オンラインサロンなど、多様なチャンネルで一流講師の講義を得ることが出来るゆえ、アクセス情報を有意義に収集することが鍵となる。さらには、ネットそのものへの接続が危うい環境に置かれる人もいる中、学習格差が拡大してしまう危険性も否めない。

デザイン次第で実りあるユーザー体験を実現できる、オンライン学習の未来は無限大だ。ワクワクする学びに出逢いながら、その体験を広げていく取り組みにも注目していきたい。

EIGHT EDUCATIONAL COMMUNITIES TO FURTHER YOUR FIELD OF STUDY (Discord)