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メディアと情報の健全性

Focus

変化する消費者とメディアトレンド

私たちがデジタルで過ごす時間がますます長くなる中、メディアにはどのような変化が起きているのか。Deloitte.が2022年のデジタルメディアトレンドをまとめている。

大きなトレンドのひとつは動画ストリーミングサービス、SVODだ。大手Netflixはこの10年間で躍進的な成長を遂げ、ユーザー数は2億人を超えている。一方、2022年4月に発表されたQ1決算報告書では、20万人のユーザーが減少したことを明らかにした。この背景には様々な要因が考えられるが、ここではコスト問題ともうひとつのメディアトレンド、SNSの成長を取り上げたい。

コンテンツに惹かれてサブスクリプションに登録するものの、コストが高いという理由から解約に至るのは想像に難しくない。そんな中、過去1年間で解約と再加入を経験した人は約25%にのぼる。コストを削減するため、割引や好きな番組の新シリーズが始めるタイミングで再び登録しているのだという。もちろん、この変化に合わせて企業はより多様な価格オプションを提供し始めている。NetflixのCEOリード・ヘイスティングス氏も、広告モデルを導入した低価格プランを真剣に検討していると語る

またSVODと対照的に、SNSは様々なジャンルのコンテンツが無料で提供されている。1分でも1時間でも楽しめるというのは大きな魅力であり、その結果約80%のユーザーが毎日利用している。

このように私たちを取り巻くメディアの環境が変化する中、健全性の担保は重要な問題だ。今週はメディアの制作者・消費者の双方の観点からヘルシーなメディアについて考えたい。

2022 Digital media trends, 16th edition: Toward the metaverse (Deloitte.)

Opinion

AIが埋め込むバイアス

人々の検索履歴や、トレンドなどウェブ上のすべての動向から、「一般的な」または「常識的な」人々のためのアルゴリズムが生成され、メディアでの自動生成コンテンツや、コピーライティング、Siri、AlexaなどのAIアシスタントに活用されている。

このアルゴリズムを生成するデータベースを調査した結果、女性は男性よりも否定的な捉え方がされていたり、イスラム教徒とテロリズム、メキシコ人と貧困など、言葉の関連付けに偏りが生じていた。他にも調査では、3分の1以上のアルゴリズムに偏りが生じていることが分かっている。 検索欄に投げ入れた言葉の先に現れる予測変換や、自動でキャッチコピーを考えてくれるソフトウェアが悪気もなくバイアスを埋め込んでいる可能性がある。

そもそもAIが存在する理由は、パターンの特定、活用によって予測を行うことであり、パターンを特定するための母集団に偏りが生じていたら、AIに偏りが生じるのは必然である。

AIを活用したコンテンツが増加するにつれて、偏りのないデータの重要性は増している。そして、このようなAIによって偏った情報がアルゴリズムによって集約され、無意識的に拡散されてしまっているのだ。南カリフォルニア大学の研究チームのZhou氏は、データの送信から咀嚼されるまでのプロセスに、偏った情報をフィルタリングするステップを追加することで、偏った情報の流出を防ぐ方法を提唱している。

また、Facebookなどを運営するMeta Platformsは5月26日にデータを収集、使用、共有する方法をユーザーがより簡単かつ明確に理解できるようにすることを目的として、プライバシーポリシーと利用規約の再設計を発表した。これには、プライバシーコントロールの改訂のみではなく、ユーザーがより理解しやすいように、比較的易しい言葉を用いたり、多くの動画や小見出しを活用した工夫が見られた。これもまた、「ユーザーにフェアな条件」を与えるという点での公正さであると言えるだろう。

一方で、「完全な公正」をどのように判断するべきかは別の問題である。そもそも、「完全な公正さ」は非常に定義し難い上に世の中の動きとともに常に変化し続けている。やはりそうなると、AIではなく、生身の人間が議論をすることが必要になってくるのであろう。私たちは「完全な公正」に妥協せず常にアップデートしていく必要があるのだ。

‘That’s Just Common Sense’. USC researchers find bias in up to 38.6% of ‘facts’ used by AI (USC Viterbi)

真実に辿りつくために

“The Truth Is Hard.”

2017年、虚偽の言説が世間に蔓延る中、ジャーナリズムの真価を説いたニューヨークタイムズ紙の広告キャンペーンだ。トランプ前大統領が「フェイクニュース」という言葉で、政権に批判的なメディアを謗り始めた時期のことである。それから5年、「フェイクニュース」の勢いは止まるところを知らず、信憑性に欠ける情報が濁流のごとく、インターネットの世界へ流れ込んでいる。その顕著な例が、ウクライナ情勢を巡るプロパガンダの生成・拡散だろう。

しかし、突拍子もないホラ話ならまだしも、精巧な作り話に良くできた合成写真 / 映像を添えられたら、私たちは嘘を嘘であると見抜けるのだろうか。生来の騙されやすい性格も相まって全く自信がない。メディア・リテラシーの必要性は何かにつけて叫ばれるものの、一体どうすれば、「フェイクニュース」に踊らされずすむのだろう?

ミシガン州立大学のスサーラ教授は、現状の課題として、プラットフォーマーが誤情報に対処する規制システムを確立しきれていないこと、アルゴリズムの人種的・性別的偏りが情報へのアクセシビリティに与える悪影響などを指摘している。 TwitterやFacebookもファクトチェックの取り組みを強化しているが、FactCheck.orgなどのサイトを利用し、フェイクニュースやメディアのバイアスを確認するのも一つの手だろう。

いずれにせよ、脳死でタイムラインをスクロールしている(欠かせない日々の日課だ)だけで、情報の真偽を判別するのはほぼ不可能だ。情報を場当たり的に貪るのではなく、丁寧に読み解いていく、そんな姿勢の変化こそが最も求められているのではないだろうか。

What will 2022 bring in the way of misinformation on social media? 3 experts weigh in (The Conversation)

何のためのメディアサーフィン?

朝起きてSNSを使っていたら、なんとなく1時間が過ぎていて驚いた…。という経験をしたことがある人も少なくないのではないだろうか。(私にとって日常茶飯事なのでそう信じたい。)

ワシントン大学の研究によれば、ソーシャルメディアサーフィンをしている人は白昼夢にも似た「解離状態」に陥ることがあるという。通知を1件確認しようとしただけのつもりが気づいたら複数のアプリを行き来していた、というような現象だ。

メディアコンテンツを無意識的に消費して、時間をムダにしてしまうのはもったいない。目的意識を持って、メディアを選別し利用することが求められていくだろう。メディア側も、ユーザーが溢れる情報の中で効率的に有意義な情報にリーチできるよう改善されていく。例えばByteDance社がローンチした「Lemon8」は、Instagramなどではコンテンツの1つとして発信される「お役立ち情報」のみを凝縮したプラットフォームとして注目を集めている。

とはいえ、受動的にメディアを利用しているときの発見や驚きも時には自分の視野を広げてくれる。テレビ視聴中に流れるCMの音楽に感動したり、Twitterのふとしたつぶやきにインスピレーションを受けるかもしれない。そんな出会いを無下にしてしまうのも寂しい気がするのだ。

周りに溢れる情報を整理して健全に付き合っていくために、ひとまずは生活の中で何気なく利用してしまっているメディアを見つめ直す時間を持つことが大切なのではないだろうか。メディアの意義を一つずつ丁寧に問いただした先に、個人の納得のいく関わり方が見えてくるはずだ。

‘I don’t even remember what I read’: People enter a ‘dissociative state’ when using social media (University of Washington)