Scanner

ENGLISH

グリーンビルディングのウェルネス

Focus

気候変動と向き合う建築の未来

日本のみならず、世界各地で熱波が猛威を振るう今日この頃。ヨーロッパでも、記録的な猛暑や相次ぐ山火事が連日報道されている。このような気温上昇が短期的 / 単発的なものでなく、中長期的なトレンドであることは、データからも明らかだ。英レディング大学のホーキンス教授が作成したインフォグラフィックをみれば、1850年から2021年にかけて世界の年平均気温が1.2度以上上昇していること、1970年以降、温暖化のスピードは加速していることなどがわかる。

悩ましいのは、快適な暮らしと省エネのトレードオフだろう。私自身、エアコンの効かせ具合と環境配慮のはざまで葛藤している1人だ。特に、リモートワークが普及(東京都産業労働局の調査によれば22年3月時点で都内企業のテレワーク実施率は62.5%)してから、おうち時間の質向上は、重要なテーマになっていると感じる。

そこで今回取り上げたいのが「グリーンビルディング」だ。これは建築から解体に至るライフサイクル全体で資源効率が高く、環境負荷の低い建物を指す(米国環境保護庁)言葉である。グリーンビルディングとして認められるには様々な基準を満たす必要がある。代表的なのは、米国グリーンビルディング協会が開発した認証プログラム「LEED」で、水・エネルギー・資材の利用効率や、室内環境、立地などを統合的に評価・格付けしている。それだけでなく、生活者のウェルビーイングに比重を置いた評価システムを提供する機関もある。

2022年3月時点で、日本におけるLEED認証事例は201件。虎の門グローバルスクエアや、二子玉ライズが代表例として挙げられる。認証数上位の中国(3,765件)やカナダ(1,486件)、インド(1,171件)などと比べれば少ないものの、徐々に注目を集めているのが現状だ。

さて、環境に優しく、ランニングコストも抑えられるとなれば、諸手を挙げて歓迎したいところだが、高額な初期投資、専門家の不足、エコ資材の供給リスクなど、課題やデメリットも多い。続くオピニオンでは、環境面、ウェルビーイング双方の観点から、グリーンビルディングの費用対効果などを考察していく。

Real Estate Prediction 2022 (Deloitte)

Opinion

新星が変える、環境にやさしい建築

環境にやさしい建物、グリーンビルディング。建物の設計・建築・運用のすべてにおいて、総合的に環境へ配慮したものだ。編集会議でこのトピックが上がったとき、壁面緑化が行われた建物をイメージしたが、それはあくまでも大きな取り組みの1部に過ぎないようだ。

そんな建築業界で注目されているのが、カナダのスタートアップ「Nexii Building Solutions」だ。創業からわずか2年7ヶ月でユニコーン企業へと成長し、グリーンビルディングの新星と呼ばれている。

Nexiiの強みは独自の組み立てプロセスにある。工場で数m四方の壁のパーツを製造し、現場ではそれらを組み立てるだけというものだ。このため、廃材はほとんど生まれない。また、パーツ間の機密性も高まることで、建物内での冷暖房の使用を30%カットできることが見込まれている。さらに、Nexiiはコンクリートに変わる新しい建材も開発している。従来のコンクリートでは製造過程に大量のCO2が排出されていたが、それらを20~36%削減できるという。

では、グリーンビルディングを住宅で考えてみるとどうだろうか。東京では2005年から、建物の断熱性や省エネ性といった5つの評価項目の表示を建築主に義務付けている。

しかしながら、実際にそれらの物件を見てみると床面積や新築といった条件のためか、一般的に高級マンションと呼ばれる部類のものが多く、物件数もまだまだ少ない印象だ。妻・娘との東京生活で、ある程度の広さを求めるとかなり選択肢が限られてしまうだろう。商業ビルやオフィスビルと同様に、住宅分野においても新星が誕生することに期待したい。

Can a Start-Up Make Sustainable Construction the Next Frontier in Eco-Business? (The New York Times)

ウェルビーイングな空間を築く

豊かな自然に囲まれたデンマークでの暮らしに終止符をうち、東京へ舞い戻ってきた。

暑く湿っぽい日々には頭を抱えている。そんな中思い起こされるのは、自然光が差し込み、室内の緑が創り出す綺麗な空気漂う大学の図書館、私の一番のお気に入りスポットだった。

「緑の建築」にはそこに暮らす人へ優しい癒しの効果が認められている。環境負荷軽減の側面が注目される中、人々のウェルビーイングに及ぼす影響も今度注目されていくだろう。未だ明確な日本語の定義は存在しないが、「ウェルビーイング」とは肉体・精神・社会的側面から健康をホリスティックに捉えた概念だ。

一例として、記事中のオーストラリア・グリーンビルディング協会の報告によれば、壁面緑化など「緑のインフラ」を整えた病院では、平均入院期間が8.5%短縮したり、鎮痛剤の必要量が22%減少したとのこと。また、そんな植物がある建物ではそこで働く医師を始めとするスタッフにも活力を与え、美観や音響、空気環境にもポジティブな影響を与えることができるという。

ここ数年の新型ウイルスで室内にいる時間はさらに増加し、エネルギーの過大な使用が気にかかることはもちろん、私たちの健康により注意深くなった人も多いのではないだろうか。そんな中、グリーンビルディングの、環境負荷のみならず、それを取り巻くステークホルダーへの身体・精神・社会的インパクトも一つの指標として大切にされるフレームワークの可能性には大いに期待できる。

今後は緑の建築が絵に描いた餅に終わらず、より多くの人がいかに「住まい」にコンシャスになり、初期投資を初めとする障壁を乗り越えられるかが鍵となる。

Green buildings can boost productivity, well-being and health of workers (The Conversation)

Related Articles

持続可能なバイオマス建築

建築材料として金属や化石燃料などの有限な資源ではなく、コーンスターチやサトウキビを原料とするバイオプラスチックなど、生物起源の材料の開発が進んでいる。

Bio-based architecture for sustainable living

サステナビリティを目指す10の空港

航空産業の環境負荷への指摘が高まる中、多くの空港がカーボンニュートラルを目指す動きを見せている。

Ten airports designed with sustainability in mind

泥でできたサステナブル都市

イエメン共和国で主流なのは、1000年以上の歴史を持つ伝統的な泥の建築。しかし、夏は暖かく冬は涼しいため「未来の建築」として注目を集めている。

The sustainable cities made from mud