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熱波とヘルスケア

Focus

熱波へのそなえ

近年、ヨーロッパをはじめとするさまざまな地域が熱波に見舞われている。中でも科学者たちが警鐘を鳴らすのが、高湿な猛暑日だ。2022年5月から6月にかけて南アジアを襲った熱波は、パキスタンでは最高湿球温度 (湿度100%の場合の気温) が33.6℃を記録した。

2010年の研究では、湿球温度35℃が体が温度調整を安定させることができなくなる安全限界とされている。限界値を超えると体温は上昇し続け、長時間さらされることで熱中症にかかるリスクが高くなる。また、フィジカルだけでなくメンタルヘルスへの影響も懸念されている。

そんな中アメリカでは、住民が自由に涼めるクーリング・センターを整備する都市が増えているが、都市によってはその恩恵を受けることのできていない人も少なくない。また、エネルギーコストの高騰や、熱波や山火事による大規模停電のため、エアコンがあっても使えない人々が存在する。

気候変動は未来の問題ではなく、いま目の前で起きている。まずは私たちがどんなリスクに備える必要があるのか、読み解いていきたい。

How hot is too hot for the human body? Our lab found heat + humidity gets dangerous faster than many people realize (The conversation)

Opinion

暑さと生きやすさをめぐる分岐点

暑さは「目に見えぬ殺人者」である。 そう語るのは、インド公衆衛生大学のマバランカール総長だ。これは、冷房器具の未普及などを背景に、3億人以上が酷暑のリスクに晒されているインドの現状を踏まえての発言だが、昨今の暑さを思えば、日本で暮らす私たちにとっても、他人事とは思えない言い回しである。

猛暑が脅かすのは、熱中症や、心血管疾患(心不全ほか)、呼吸器疾患などの罹患 / 死亡リスクといった個人の健康問題にとどまらない。医療サービスへのアクセスにも悪影響を及ぼすことが指摘されている。

それでは、暑さと健康をめぐる未来の展望はどのようなものになるのだろう?たとえばCDCは、直近数十年で、アメリカにおける熱中症や、その死亡リスクが減少していることを指摘し、一因としてエアコンの普及をあげている。

それならば、途上国における冷却システムへのアクセシビリティを高めることが、健康問題の短期的な解決につながるかもしれない。しかし、冷房需要が増えれば、CO2排出量の増加、ひいては気温上昇の加速につながる恐れもある。

求められるのは、より長期的な視点に基づく対策だ。たとえば、地表面温度の冷却効果が観測されている緑地の増加や、住みやすさと環境性能を両立するグリーンビルディングの一般化などに、自治体・国レベルで取り組めるか否か。

私たちは暑さと生きやすさをめぐる大きな分かれ道に立たされている。

Chilling Prospects: Tracking Sustainable Cooling for All 2022 (SEforALL)

メンタルヘルスを脅かす熱波

茹だるような暑さが今年もやってきた。照りつける日差しとまとわりつく湿気に、夏が好きなはずの私もエネルギーを吸い取られているような気がする。

それもそのはず、熱波とメンタルヘルスは深い関わりがあるようだ。春から夏にかけて増加する自殺率は熱波によって顕著なものになるという。アメリカとメキシコの特定の地域においては、平均気温が1度上昇するごとに自殺が1〜2%増加する

熱波はメンタルヘルスに軽度から中程度の影響を与える可能性があり、より落ち込んだり、不安になったり、すぐに動揺したり、かんしゃくを起こしやすくなったりすることもある。

さらに、異常気象が繰り返されることによって、将来に対して漠然とした不安や恐怖を感じる「エコ不安症」に罹る人もいる。確かに、6月まで北欧に留学していて暑さとは無縁だったが、帰国して早々38度の猛暑日が続いた日には来年のことが心配でならなかった。

私たちは、このような環境要因のメンタルヘルスにどう向き合うべきか。もちろん健康維持は第一優先事項である。暑さによって催眠が阻害されることで日中のストレスにつながりやすいため、適切な環境下での睡眠が適切である。

夏は冬に比べて日照時間も長くなることから不眠症に陥りやすい。また、本来就寝中は向けて体温は下がっていくことが理想的とされるが、外気温が高いことによって睡眠を促進するために必要な体温まで下がり辛くなってしまうという。

今の状況に対して近眼的にならず自分ができることをできるだけ取り組んでいくことで未来の負担も自分の負担も減らしていきたい。

The mental health burden of climate change is growing – now it’s time to act (International Science council)

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