Scanner

ENGLISH

学びの再接続

Focus

パンデミックと、教育のこれから

パンデミックから3年。日本では対面授業が再開し、大学のキャンパスもかつての賑わいを取り戻しつつある。

一方、世界では未だ6億人以上の学生が、学校閉鎖の影響を受けているという。特に低学年の子どもが社会から分断されるインパクトは大きく、各国で初歩的な算数、識字能力の低下が叫ばれている。

あわせて浮き彫りとなったのが、デジタルデバイドの問題だ。オンライン学習への移行が進む中、アメリカでは生徒の10人に1人以上が、必要なテクノロジーにアクセスできていなかったという。

マッキンゼーの調査は、パンデミックの煽りを受けた学生が、生涯で最大800万円強の収入を失うおそれがあると指摘している。

様々な影響が懸念される中、これからの教育はどうあるべきなのか?

UNESCOはポストコロナに向けて、教育資源やデジタルツールへのアクセスをオープンにしていくこと、社会的空間として学校を維持していくことを提言している。

続くオピニオンでは、対面教育の意義と進化していくオンライン教育のこれからを考察していく。

Education in a post-COVID world: Nine ideas for public action (UNESCO)

Opinion

偶然のインスピレーションと出逢おう

ZOOMのリンクから講義に参加することが私たちの当たり前になった。

オンライン授業の利便性は一定の評価を得ているものの、五感を使って情報を得られる「リアル・メディア」として機能するキャンパスもまた、なくてはならない存在だ。

大学が世界の変化への対応に迫られる中、『The Real World of College』のウェンディ・フィッシュマンとハワード・ガードナーは、大学はリベラルアーツ教育を提供し、学生に変革的な経験をさせることを目指すべきであると説いている。変革的、つまり「自分自身の価値観や信念について考え、疑問を持ち、根本的に変わるかもしれないと期待する」ことが大学での経験の醍醐味であるという。

特に注目されるのは、キャンパスの社会的な側面だ。多様な人との関わりのなかでアイデンティティを深め、ネットワークを広めつつ、他者とともにクリエイティビティを育てる。大学のキャンパスには、そんな体験に必要な偶然のインスピレーションが転がっている。

留学していたデンマークでは、全ての講義がキャンパスで開講されていた。講義内容ももちろん興味深かったが、振り返ってみれば教室で偶然隣に座った留学生や図書館でたまたま目に入った本との出会いにこそ価値があったように思う。

これまでのニュースレターで触れたように、オンラインではそのアルゴリズムも相まって視野が狭まってしまいがちだ。欲しい情報を欲しい時に手に入れられるオンラインでの学びとは、私たちも、また大学側も、目的を区別していく必要がありそうだ。

「リアル・メディア」としての大学の未来を覗いてみれば、既存情報へのアクセス機能というよりも、クリエイティビティ/共創の場としての意味合いが強くなっていくだろう。偶然のインスピレーションに五感を研ぎ澄ませ、残りのキャンパスライフを満喫したい。

A Research-Based Case For Transforming College (Education Next)

キャンパスを社会まで広げて

2021年国内の大学生・専門学校生を対象に行われた学生アンケート調査によると、約71%が対面授業再開後にはキャンパスに通いたいと回答する一方、そのうちの65%はオンラインとのハイブリット型を希望している。

そんなハイブリッド型の学習環境づくりではアメリカのミネルバ大学に興味深い事例がある。

講義はほとんどがオンラインで実施。19名の少数制でディスカッションが行われ、講師の発言は1回に4分までとされている。これによって授業に対するコミットメントが促され、オンライン授業に多い「質問や発言がしにくい」「一体感がない・孤立感を感じる」といった課題の解決につながっている。

さらに授業がオンライン前提であることから、そもそも大学自体にいわゆる「キャンパス」は存在しない。学生たちはロンドンやブエノスアイレス、ソウルなど、4年間で世界7カ国にある学生寮を転々としながら学ぶことになっている。地元コミュニティとの交流や、パートナー企業とのワークセッションなど、街という大きな「キャンパス」が学びの場と化しているのだ。

大学構内にとらわれないハイブリッドな学習環境は、学生が社会の中に身を置きながら学べる、新しいキャンパスの可能性を生み出している。

This online university has a lower acceptance rate than Harvard (Study International)

Related Articles

ニューノーマルのための新しい教え方と学び方

ラオスで街がロックダウンされている3ヶ月の間、オンライン授業にアクセスできる生徒はほとんどいなかった。これに対し、unicefやEU、GPEらが協力し、ラオスで初となるデジタル教育及び学習プラットフォームが開発された。このカリキュラムには一般的な学問の他、物語や歌、ビデオなどのプログラムもありゲームやクイズを解く感覚で学習に参加できる。

A new way of teaching and learning for the new-normal (unicef)

パンデミックが教育に与えた影響

今年一月の調査研究によると、パンデミックは学業成績に大きな悪影響を及ぼしているという。主な理由としては、学校閉鎖によって、生徒の学業を教師が近い距離で見守ることができないことや、人手不足、授業時間のロスや、メンタルヘルスの問題などが挙げられる。

The pandemic has had devastating impacts on learning. What will it take to help students to catch up? (BROOKINGS)

今こそ教育改革の時

アメリカの学校教育はこの100年でテクノロジーや教育法は変わったものの、根本的な教育のあり方自体は変わっていない。コロナ禍で今まで通りの教育が実施できなくなった中、アメリカの教育体制が本格的に見直されようとしている。教育職に就く人材が不足する中で、教師の仕事をするための環境やスキルアップの機会などを設けることによって教育の質を底上げする必要がある。

Education after the pandemic (NATIONAL AFFAIRS)