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キャリアとジェンダーバランス

Focus

起業家の台頭から見えてくるもの

世界経済フォーラムが発表した「Global Gender Gap Report 2022」によると、職場におけるジェンダーギャップを解消するためにはあと132年を要する。パンデミックは女性が多く働くサービス業に大きな打撃を与え、依然としてリーダー職への昇進は男性優位な世界となっている。

これらの課題は女性起業家の増加へとつながり、2020年にはその傾向が顕著に現れている。経済的な逆風やキャリアの問題から、必要に迫られた起業、という背景があったことも考えると、このトレンドの良し悪しを理解するのはまだ難しい。

女性がサービス業で多く働いていた、という背景に着目するとどうだろうか。日本では毎年、小学生の「将来なりたい職業ランキング」というものが発表されており、男子の上位「サッカー選手・野球選手・医師」と比較し、女子では「医師・看護師・保育士」とサービス業が上位に位置する。医師は共通して人気があるものの、他の2つはお互いのランキングで40位以降となっている。職業とジェンダーを関連づけるバイアスは、すでに子どもを取り巻く環境から生まれてしまっているのかもしれない。

バイアスをなくし、ジェンダーのアンバランスを解消するためには何ができるのか?続くOPINIONでは、具体的な事例も交えながら紐解いていきたい。

What the rise of female founders tells us about the state of the gender gap (WORLD ECONOMIC FORUM)

Opinion

数の均衡と真の平等

2015年に国連で採択された持続可能な開発のための2030アジェンダ(通称SDGs)。もう耳が痛いほど聞いているはずだが、5番目の項目が何かと聞かれて答えられる人はそれほど多くないだろう。実はこの5番では、ジェンダー平等の達成が目標として掲げられており、国連は男女平等達成と女性のエンパワーメントの期限を2030年に設定した

期限の2030年まであと8年を切った今、日本のジェンダーギャップ解消にはまだまだ多くの壁が立ちはだかる。

日本のジェンダーギャップ指数は、146カ国中116位とG7に名を連ねる国の中で唯一100位圏にすら入れていない。中でも深刻なのは、政治と経済の分野である。政治分野では、女性の参加率は衆議院が9.7%、閣僚では10%と世界水準が低い中でも際立って低く、経済分野は117位から121位に下がり、男女の収入格差や管理職の割合などで世界平均を下回る結果となった。

このような形で男女比を提示されると、いかにも男女比が「1 : 1」になることがジェンダー平等に直結するように感じるが、果たしてどうなのだろうか。ジェンダーギャップを測定する上で指標の一つになり得るだろうがこれだけでは測れないものもある。

圧倒的に男性が多い政治家や、女性の多い看護師など、ある程度の仕事に対する嗜好が分かれやすい分野かもしれない。そうであった場合に数を 1 : 1 に縛り付けるのは寧ろこれからの世代に余計なプレッシャーを与えてしまいそうだ。

ただ、男女比や社会的風潮のせいで望んだ職種に就くことが憚れるのであれば、話は別である。男女平等のための数合わせよりも、政治家になりたい女性や看護師になりたい男性がいかなる圧力や理不尽な偏見に影響されることなく、その道を選べることが真の平等ではないか。そのためにも、同職種にも関わらず男性と女性で賃金格差が生まれることなど以ての外である。

男女間の賃金格差が大きい業界として金融・保険の分野が挙げられている。この業界では、男性が1ドル稼ぐごとに女性は77セントほどしか稼げないという。割合にして28%もの差が生まれているのだ。格差解消のためには、単に同じ仕事に対して平等な賃金を与えるだけではなく、女性のキャリア選択(産休などの休職の影響など)を考慮するべきであろう。誰もが自らのキャリアを自由に選べる環境づくりが必要なのではないか。

These 5 Insustries have the biggest gender pay gaps - here’s why (CMBC Make it)

見えない不平等を是正するために

授業でグループワークをしていた時、気が強く、威圧的で、苦手なタイプの女の子がいた。でも、もし彼女が男性だったら、しっかり者で頼り甲斐のあるやつ、など別の見方をしていたかもしれない…

目に見えるものから見えないものまで、ジェンダーをめぐるバイアスはとても根深いように思える。

顕在化している課題の一つが、冒頭でも触れた、女性CEO・役員の少なさだろう。女性の社会進出が進む中、重要ポストをめぐる不平等の是正は大きな論点となっている。

たとえばEUは、女性役員の登用を促す、クオータ制の導入で合意している。対象は加盟27ヵ国の上場企業。2026年までに、取締役会の議席を40%以上、女性へ割り当てるよう義務付けられる。

性別や人種に基づき、議会や社内ポストの一定比率を割り当てるクオータ制。逆差別ではないか、能力主義に反する、といった批判もあるが、長年累積されてきた不平等の連鎖を断ち切るには、ドラスティックな変革も必要だろう。

とはいえ、数字上、比率上の平等が、真の平等を表しているのか、という点には疑問も残る。たとえば、女性CEOは、組織へのコミットメント不祥事への対応などで、男性CEOより厳しい評価を下される傾向にあることが指摘されている。

似たような状況は、従業員へのパフォーマンスレビューでも散見されるという。男性なら自信があると評価され、女性なら傲慢であると非難される。男性なら思慮深いと評価され、女性なら優柔不断だと揶揄される。などなど。

せっかく、女性の登用を増やしても、これでは活躍の機会が大きく制限されてしまうだろう。性別によって評価基準が揺れ動く、といった目に見えない不平等もまた、ガラスの天井を補強する材料となっているのだ。

数字上の平等と目に見えない平等。これらふたつを両輪で実現する取り組みが、今後は求められていく。

EU strikes deal to impose 40% quota for women on boards of large companies by 2026 (euronews)

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