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ファストファッションの先へ

Focus

服の一生を変えるムーブメント

ファストファッションの台頭は、文字通り洋服のサイクルを短くした。

15年間で一着あたりの着用回数は36%ほど減少し、毎年92,00万トンが廃棄されている。計算上は今この瞬間も、毎秒ゴミ収集車一台分が捨てられているのだ。この廃棄される洋服の量は増え続け、10年のうちに2倍になるとまで予測されている。ファストファッションが抱える問題は、廃棄問題だけではない。労働や人権問題、資源問題など広い分野で深刻な問題が露出しているのだ。現在世界中で水不足に直面する中、洋服の生産には多くの水が使われ、世界の廃水の20%はファッション業界によるものだ。

この状況下で、ファストファッションのアンチテーゼとして生まれたのが、スローファッションだ。

スローファッションの特徴は、トレンドに淘汰されないデザイン、長く使える品質、そして環境や人権に配慮されたトレーサビリティ(追跡可能な)流通にある。その製品がいつ、どこで、誰が、どのようにして作り、どのように廃棄されていくのか、その一連の流れを追うことで見えてくる健全性がある。

今週の記事では、新しいムーブメントが服の一生にどのような変化を起こしていくのか、私たちはどのような選択があるのかについて考察していく。

10 Stunning Fast fashion Waste Statics (Earth.org)

Opinion

循環するファッション

外に出る機会が増えると、お洒落したい気分になるものだ。

そんな私は、デンマークから帰国してまもなく、残り短い夏のためのショッピングに勤しんでいた。こなれたファストファッションは手を出しやすいが、トレンド的にも品質的にも長く着れない服を買い漁るのはいかがなものか、というジレンマに悩まされていた。

そこで私が選んだのは、古着リサイクル。リセール市場に出回る洋服たちだ。今までは新品を購入することが当たり前だったが、お財布に優しく、そのデザインと清潔さに満足できるアイテムであれば、意外にも「新しさ」は最優先されないことが分かった。Thredupが実施したグローバルレポートによると、リセール市場は従来の小売の11倍の速さで成長しており、ValentinoやGucciなどのブランドは、過去のシーズンのアイテムを持つ顧客と提携して、リセールのスキームを築こうと考えているという。

リセール市場が成長し、デザインもまた「長く愛されること」がトレンドになりつつある。ラルフローレンのサステナビリティ責任者デボン・レアリーは、Vogue Businessに、「『タイムレスデザイン』がサステナビリティの鍵であり、それは作られる服の価値を将来にわたって証明する力があるからだ」と語る。他の誰かに譲ることを前提としたショッピングでは、タイムレスデザインが魅力的に映るのも頷ける。

ここで最も新鮮だった視点は、ファッションにおけるサーキュラリティ(循環性)は必ずしも消費者の買い物を止めようとしないことだ。挑戦したいファッションがあればワードローブにない洋服を手に入れ、もう着ないものがあれば誰かに譲っていく。買い物をしたいという欲求を、リセールを活用して十分に満たすことで、消費者とブランドを自然に循環社会に巻き込んでいけるという主張もある。

私たちが着ている間その魅力が長続きすることはもちろん、違う誰かの手に渡った時にまで愛されるように配慮し、ファッションを広く循環させていくことが大切だ。

The key fashion pieces right now? Clothes you’ll want to still wear (or sell on) in five years’ time (The Guardian)

なぜアパレルブランドが洗剤を売るのか?

トレンドに遅れたら負け。かつてアパレル業界にいた私にとって、毎シーズン発表される海外コレクションは重要な情報源であり、選ぶアイテムやスタイリングなど、自分のファッションを形作るものとなっていた。

しかしながら最近は普遍的なデザインのものを好んで選ぶようになり、1着の着用回数・期間もぐんと伸びている。このように長く着用することを前提としたアイテム選びは、洋服のケア方法にも自然と変化をもたらした。型崩れを防ぐハンガーやシューキーパーの活用など、お気に入りとの長い付き合いに向けた準備をはじめている。

もちろん、洋服を長く着用するヒントは他にもある。イギリスのアパレルブランド「L’Estrange」は、天然酵素を活用した洗剤を販売している。着古して見える原因となる表層の古い繊維にのみ作用することで、衣類の寿命を2倍に伸ばせる可能性があるという。

L’Estrange は、ブランドがどれほどエシカルかを評価するサイト「good on you」でも5段階中4の評価を獲得。特にリサイクル素材の活用や、製造におけるCO2の削減など、環境への配慮は最も高い評価となっている。

これまでも衣類にやさしい洗剤や、環境/社会に配慮したエシカルブランドはあったものの、ひとつのブランドから展開される事例は興味深い。サイトには「PRODUCT CARE」という各アイテムの洗濯方法がまとまったページまで存在し、ブランドが目指す明確なビジョンが感じられる。ブランドについて調べていく中で、一貫した取り組みから生まれる共感こそ、長いお付き合いの秘訣かもしれないと感じた。

Can a Laundry Tablet Really Double the Lifespan of Clothes? (HYPEBEAST)

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