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健康データと私たちの日常

Focus

進む自動化、消える薬剤師

iPhone 14apple watch 8など、今年のapple新製品発表が記憶に新しい。衝突事故検出機能や皮膚温センサーなど、今年の新機能もヘルスケアへの展開を見せている。

一方で、他のビッグテックも引けを取らない勢いだ。amazonは独自のクラウドプラットフォーム(AWS)と広範囲をカバーするサプライチェーンを利用して医療用品の流通分野へ参入している。また、GoogleもデータストレージとAIを臨床治療や電子カルテに活用するべく野心を燃やしている。

これらのビックテックの動向を観察する限りでは、ビッグデータを湛えるプラットフォームとAIの活用によって、「欠かさない記録」と「予知」が可能になった。将来的には「医療自動化」を目指すといったところだろうか。

ここ数年はコロナウィルス感染拡大の影響で、気軽に病院に行くことが憚れていたこともあり、遠隔医療や自宅療養など、医療自動化の需要は高まりつつある。

特に成長が著しいのは、薬局の自動化市場で、2028年までに年平均成長率は5.45%に達するという。この薬局自動化システムは、調剤、包装、ラベリング、保管そして、カウンター業務までプロセスが含まれ、薬局のワークフローの合理化とエラーの削減に貢献することが期待される。まさに薬剤師の職業が奪われつつあるのだ。

今週のニュースレターでは、新たなテクノロジーがヘルスケア業界にどのような影響を及ぼしているのか、フェムテックや睡眠を切り口に考察していく。

Pharmacy Automation Systems Market Set to Reach Valuation of USD 4219.05 Mn with Growing CAGR of 5.45%, Share, Demand, Top Players, and Industry Size and Future Growth Analysis by 2028 (Digital Journal)

Opinion

体調の波をトラッキング

1ヶ月の中で、日々変化する体調や気分とどう付き合えばいいのだろう。

特に女性ホルモンの変化によって食欲や情緒に波があることが悩みで、予定の入れ方には常に細心の注意を払っている。しかし、その症状の理解や対策が身の回りに十分かといえば、まだまだ改善の余地がありそうだ。実際、マッキンゼー・アンド・カンパニーの報告書によると、ヘルスケアの研究開発に費やされる約2000億ドルのうち、女性の健康に焦点を当てたものはわずか1%だという。

周囲の理解と、問題がオープンに語られるのを待つ間に、デジタルを活用した健康管理がより健やかで快適な生活を後押ししてくれるだろう。現在、フェムテック、または女性向けテクノロジーとして知られる産業は、2027年までに600億米ドル規模になると予想されている。最近インストールしたのは、「ケアミー」というアプリ。生理周期はもちろん、心の状態やピルの服用まで一括で管理し、情報をパートナーに共有することもできる。

健康をトラッキングすることで、日々の予定の見通しが立ちやすくなり、病気の早期発見にも役立つだろう。特に留意しなければならないのは、プライバシーの問題だ。最近、アメリカでは生理管理アプリをデバイスからアンインストールする動きが盛んだという。中絶が犯罪である州では、検察官が誰かを起訴する際にこれらのアプリが収集した情報を要求する可能性があるためだ。ヘルスケアのデジタル化がもたらすネガティブな側面にも目を背けることはできない。

体調には症状もその感じ方も細かい個人差がある。だからこそ、個人の健康データへのアクセスを安全で、シンプルに。データを分析することで自分らしい健康のあり方を追求できることが、より快適で活力のある生活へ結びついていくだろう。

Women’s health technology could be so much more than period trackers (The Conversation)

子育て支援にデジタルを

子どもが元気に育ってくれたらそれだけでいい。多くの親の切実な願いだろう。わたし自身もうじき2歳になる娘がおり、月に1度計測する身長や体重の成長記録を眺めるのはなんとも嬉しい瞬間だ。

子どもたちの成長は言い換えれば彼らの健康であり、ヘルスケアの重要性はきわめて高い。子どもの健康について改めて考えてみると、体温、トイレ回数、食事内容は日常的に記録している。そのため、「熱がある」「うんちができていない」などの症状があるときには病院に連れていくことができる。

一方で発達状況の記録は、定期診断前に記入するチェックシートくらいだ。「名前を呼ぶとこちらを向きますか?」「指差した方向を見ますか?」など数十個の質問に回答し、お医者さんに提出する。とはいえ、これは基本的にお医者さんが判断するためのものとなっており、親が適切なアクションと結びつけるのは難しい。成長速度にだって個性がある。

そんな中、2022年5月からデジタルこども手帳「てくてく」という自治体向けのサービスが開始。子育てに関する課題の早期発見などのサポートを行うウェブサービスだ。2022年中には「発達アセスメント」という機能の追加も予定しており、月齢ごとに設定されたチェック項目に回答すると、必要に応じて自治体が設置する専用窓口への相談を促すという。

子育てには「勘と経験」が必要だという声はもちろんあるし、実際にそう感じる場面もある。とはいえ、デジタルを活用した子育て支援はそれらを補完する重要な役割を担い、より多くの親、そして子どもの健康をサポートしていく。

子育て支援、デジタル子供手帳「てくてく」自治体向けに提供 (ReseMom.)

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